軍港Ⅵ
オペレーターは敬礼をして、アリスたちのことを伝えると軽く手を振って艦の中に戻っていく。
「着いて来てくれ」
オペレーターとは違い、冷淡な口調でスキンヘッドの男が返事を待たずに進んでいく。眼鏡の奥に見えた切れ長の目が余計に、冷たさを強調させ、アリスたちを緊張させた。
先程までの和気藹々とした雰囲気は、どこかに吹き飛んでしまい、通路を歩く足音だけが響く。気まずい時間が続く中、通路に貼られているポスターや通知など、いつもなら目を輝かせて見てしまうアリスとシャルだったが、流石にこの時ばかりはそんな余裕などなかった。
「ここだ。入って待っているように。中にある飲み物は自由に飲んで構わない。トイレは奥にある」
伝えるべきことは伝えたとばかりに、男はアリスたちの反応を見ないまま早歩きで通路を曲がって行ってしまった。
「……感じわるっ」
ロンが小さく文句を言って、部屋の中へと入っていく。アリスもシャルもその後に続いていくと、休憩室というには少しばかり広い空間が広がっていた。
いくつもの固定されたテーブルとイス。壁一面に広がる巨大モニター。反対側には、レストランで見かけるドリンクサーバーやコーヒーマシンなどがずらりと並んでいる。
「ちょっと体冷えちゃったから、何か飲もう」
「あ、あたしも」
アリスとシャルが駆け出すが、ふとモニターを眺めていたジョンとロンに呼びかけた。
「二人とも何か飲む?」
ジョンとロンは一瞬顔を見合わせた後、ドリンクサーバーの方へと足を踏み出すがアリスはそれを止めた。低酸素と脳震盪で医者の世話になった人間をあまり動かすわけにはいかない。
「ロン、あたしが持って行ってやるよ。何が飲みたいんだ?」
「じゃあ、ココアで」
遠くからパッとサーバーの表示を見て、ロンが言うとシャルは任せとけとばかりに紙コップを手に取る。
「ジョンさんは?」
「……コンポタとかある?」
「えっと、ありますよ。持って行きますね」
「ありがとう」
ジョンのすまなそうに上げた片手に、アリスは手を振って気にしないように伝える。
シャルの隣に並んで紙コップを取ると、何か見られている気がして横を見た。
「なに?」
「いや、ずっとジョンの言葉が気になっててさ。この世界から助けるって、言い方が引っかかるって言うか」
シャルの言う通り、アリスも心の中でずっと気になっていた。
どうやってかは知らないが、ジョンの言動から推測すると、アリスが何かしらの危険に巻き込まれることを知っていて、助けに来てくれたように思える。
しかし、ジョンの言いぶりから察するに、第三ニアムーンコロニーでアリスたちをエインヘリヤルから助け出したことを指しているわけではないように感じた。
コーラルが襲撃されていた時、避難区域に行く時に告げられたことを考えると、本当の危険はこれからやって来る。そう言っているようにも感じる。
「もしかして、この後、もっと酷い……第三次ニアムーンとか起こっちゃうのかな?」
「勘弁してくれ。あんな思いをするのは今日で最後にしてほしいぜ」
紅茶とココアを持ったシャルが、先に行くと視線で告げて戻っていく。
アリスはサーバーからドロリとコーンポタージュが流れ落ちるのを確認して、後ろを振り返った。
ちょうど、シャルがロンにココアを手渡している様子が目に入り、やっと自分が日常に戻りつつあるのだと安心する。
飲み物が入れ終わったと電子音が訴えるのを聞いて、アリスは緑茶を片手に、容器を取り出して歩き出す。
「はい。どうぞ」
「助かったよ。こうして、座っていただけでも痛みが大分引いた」
「どういたしまして。あまり無理はしないでくださいね」
アリスは緑茶に息を吹きかけて冷まそうとする。白い湯気がパッと散り、また水面から立ち上り始めるのを何度か繰り返した。
ようやく、口の中に注ぎ込んだはいいものの、想像以上に温度が熱かった。思わず、口を開いて舌を出してしまう。




