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魔動戦機トライエース  作者: 一文字 心


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31/115

見学Ⅶ

 食堂のメニューは軍ということもあり、自由に内容が選べる物ではない。一週間先までのメニューがきっちりと決まっており、残っている食料に応じて、担当者が次の週の内容を決める。

 アリスは漂ってくるスパイシーな香りに涎が止まらなくなる。


「今日はカレーですか。私、一度、軍艦のカレーを食べて見たかったんです」

「そうか。そりゃ、良かった。艦ごとに具材どころか、香辛料に隠し味まで色々と手が込んでて違うから、機会があったら、他の艦の奴も食べられると良いな」


 コナーが大笑いしながら、盛りに盛ったカレーにスプーンを突き立てる。

 ニンジン、タマネギ、ナス、パプリカ、カボチャ、トマト、そして、鶏肉とジャガイモ。かなり野菜が豊富に入っており、夏が旬の野菜が見られた。

 コナーは、筋トレ後ということもあってか。かなり、お腹を空かせている様子だった。


「やっぱり、軍人って体が資本だから、よく食べるんだな。親父も家で母さんの飯をよく食べてた」

「まあな。トライエースの操縦だって、ちょっと油断すると体がGで持ってかれそうになるからな。筋肉は全てを解決するってこと!」


 シャルの問いかけに、コナーは力拳を作って力説する。

 どんなに優れたパイロットスーツと機体でも、操縦する側の基礎体力ができていなければ、動かす以前の問題なのだと。


「そう考えると、あたしたちよく生きてたよな。スーツも無しにベルトだけだったし」

「私とジョンさんなんて、二人で座ってたから、ベルトも合ってないようなものだったからね。途中、ジョンさんが腕で支えてくれなかったら、危なかったもの」


 アリスが笑って言うと、シャルも大きく頷く。

 その会話を正面で聞いていたミリーとコナーの手の動きが止まった。


「そういえば、あの機体には三人で乗ってたんだよな。二人で座ってたって、メインコクピットにか?」

「はい。こう、二人羽織じゃないですけど、二人ズレる感じで」


 アリスが手で何とか座っていた位置を再現すると、コナーがスプーンを置いて、不思議なポーズを取り始めた。


「いや、こう座るとスペースは……。いや、どう考えてもペダル踏みにくいだろ。よくそれで操縦したな。お前」

「爪先だけで何とか踏んだ。ガニ股に座って、爪先を内側に向ける感じで、辛うじて」


 ジョンの答えに、ミリーはどちらかと言えば感心したような、コナーは呆れたような雰囲気を醸し出す。

 よくそんな状態で操縦できたものだ、というのが視線だけで伝わって来ていた。


「単刀直入に聞くけどさ。あの機体を操縦して見て、どうだったんだ?」


 表情を一変させて、コナーが身を乗り出す。その瞳は先程とは違って、どこか少年の様だ。

 アリスは、シャルのトライエースを語る時の目に似ていると感じた。


「――――かなりのじゃじゃ馬だな。車にロケットエンジンでも積んでるのかって位にパワーがある。いや、それだと逆か。どんな大出力のエンジンを積んでも、大丈夫なように設計してあると評価した方が正しいかもしれない」

「へー、じゃあ、機動力重視タイプか? 最高戦闘速度はどれくらいだ?」

「悪いけど、そこまで見る余裕はなかった。それに他の機体に乗った経験もないから比較ができない。ただ、乗ってて悪い感じはしなかった」


 申し訳なさそうに答えるジョンだったが、今まで不機嫌そうにジョンを見ていたコナーの表情はどこか嬉しそうだった。


「何か、変なこと言ったか?」

「あぁ、気にしないでください。彼、トライエースオタクを超越した変態なので。多分、『トライエースが好きな奴には悪い奴はいないとか』考えていると思われます」


 ミリーの発言に、コナーは目を丸くした。


「え゛っ、何でミリーさん、わかったんですか? もしかして、ミリーさんも魔法使い!?」

「あなたが分かりやすすぎるだけよ。顔に書いてあるもの」


 ミリーは微かに微笑んで、カレーを口に運ぶ。

 対して、コナーはミリーの発言の意図を汲み取れず、自分の頬を触って、表情を確かめようとしていた。

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