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魔動戦機トライエース  作者: 一文字 心
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宙の海よりⅦ

 巴の目の前まで歩いてきた男は、敬礼をする。切れ長の目が、どこか冷たい印象を抱かせる。


「EMU軍所属の井馬台(いまだい)良市。階級は大尉。両親はエリシウム人ですが、私の国籍はタルシスになります。その辺りだけ複雑なので、御承知おきを」

「艦長代理の鈴千和巴です。階級は同じく大尉。今後ともよろしくお願いします」


 互いに握手を交わして、良好な空気が流れているように見えたアリスだった。だが、唐突に良市の目がぎょろりとアリスへ向けられる。

 アリスの心臓が大きく跳ねると同時に良市の口が開かれた。


「巴艦長。お聞きしたいのですが、副艦長席に座っているのは、一般人のように見受けられます。一体、どのような理由で軍属でない者がここにいるのか、説明していただいても?」

「彼らは協力者です。リンクス社のグルファクシのシステム構築に関わった社員と娘です」


 兵装の不具合と緊急時の対応のために、艦長判断で協力を仰いだと巴が説明する。すると、良市の目が更に細くなった。氷のような視線にさらされる中、それよりも鋭い口調で良市は言葉を発する。


「なるほど、こちらのお二人がリンクス社の――――しかし、この少女は十代に見えます。とてもリンクス社の社員とは思えませんし、それだけの技術があるとは……」

「僕たちの作ったプログラムは、あなたも御存知のようにトライエースを題材にしたゲームのプログラムとも類似点があります。娘たちは、それをただ独学で学んでいただけですよ」


 響の言葉に良市は視線をアリスから離す。

 そこでアリスは自分の呼吸が止まっていたことに気付いた。思いきり息を吐き出して呼吸を整える。良市はその姿を気にせずに、響へと問いかけた。


「それはそれで問題では? ゲームのプログラムを知っている者からすれば、この艦を外からハッキングすることもできる可能性がある」

「それは、何とも言いかねますね」


 響は頬を引き攣らせる。

 良市の言っていることは大袈裟だが、決して間違ったことは言っていない。ゲームのプログラムを知っている学生がほんの一部とはいえ、短時間でプログラムを修復したのだ。その道のプロがいれば、やり方次第では色々と仕込むこと容易だろう。


「井馬台大尉。協力を要請したのは私です。彼らはそれに答えただけですから、一切の責任は私にあります」

「口で言うのは簡単です。その責任を取る前に、多くの仲間が死ぬかもしれません。国民が亡くなるかもしれません。それが起こらないように警戒するのは当然でしょう。――――後で、専門の者にチェックをさせます。それと艦橋内で行われたやり取りについても確認が必要です。そちらは私が行っても構いませんか?」

「どうぞ。エリシウム国を救うために取れるべき行動を取ったまで。そこに恥じるべきことは一片もありません」


 巴が言い切ると、良市は小さくフッと笑って目を伏せた。

 そんな張り詰めた空気の中、艦橋の扉が開く。そこに現れたのはジョンとコナーであった。


「お話し中、失礼します。コナー一等兵、及びジョン予備上等兵帰投しました」

「ご苦労様。本来ならば休憩を取るように言いたいところですが、緊急事態がいつ起こるとも知れません。可能な限り、出撃可能な状態で待機をお願いします」

「了解」


 コナーがジョンにお手本を示すように報告を終え、ジョンを伴って退室しようとする。その背中に良市の声がかかった。


「あぁ、少しいいかな? そちらの黒髪の君だが」

「自分ですか?」


 ジョンが振り返ると良市は勇輝の顔をじっと見た。まるで指名手配犯の顔と照会しているような剣幕に、緩みかけていた空気が再び張り詰める。


「鹵獲機のパイロットですか。コーラルに保護されたという」

「はい、その節はお世話になりました」

「いや、それはコーラルの艦長が素晴らしかっただけです。私ではない。ただ、君の名前や出身などが仮登録されているということは聞いていましてね。流石にこの国に来て登録し直したのだから、名無し(ジョン)のままではないはずですが?」


 そう告げると良市は、ジョンにエリシウムの国民に発行されるカードを提示する様に求めた。

 ジョンは何故か、アリスの方を一瞥した後に諦めたようにポケットからカードを取り出す。それを受け取った良市は、表と裏に軽く目を通してジョンへと返却した。


「なるほど、()()()()ですか。良い名です」

「――――っ!?」


 ジョンではなく、内守勇輝。その名を聞いた瞬間、アリスの心臓が、頭が、言葉では言い表せない体のどこかがズキリと痛みを訴えた。

 鼓動が早まり、これでもかというくら耳朶に叩きつける音が響く。


「(私、どこかで、その名前を――――)」


 そこまで考えたところで、アリスは目の前が真っ暗になり、意識が途絶えた。

 この作品は4月1日のエイプリルフール企画で作った物になります。作者の気の迷いとか、その他諸々の事情とか、暇つぶしや気分転換で作られたものになります。続編は作ろうと思えば作れますが、それはメインの方が終わった後か、また気分が乗ったらになります。あまり期待せずにお待ちください。

 逆にメインの作品は何が何でも書き続ける予定なので、お楽しみいただければ幸いです。

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