宙の海よりⅣ
エラーコードが示す内容は二つ。「捕捉対象の敵味方識別不可」と「未来位置修正システムの参照データのエラー」だった。
アリスは、それを見て真っ先に識別コードを確認すると、ずらりとエリシウム軍とEMU軍のものが並ぶ。膨大な数が並ぶが、アリスはトライエースに関わる識別コードの中で、真っ先に地上に存在しているものを非表示にする。
「(ミサイルが落ちてきている時点で、地上と同じなんてあり得ない。これで最低限、桜花と移動式砲台や車両は除外される)」
更にアリスはそこから一つだけ独立しているコードを非表示にする。この中で唯一単独で存在している機体はネームレス。故に、似た名前でのアルファベットと数字のられるが出てくることはない。同様にして、スルーズも四機しか存在しないので、最初の数文字を読み取って検索して非表示に。
そこでまだ残るコード一覧をざっと見て、アリスは先程のオペレーターの言葉を思い出す。
「(第一波は三十六発。最低でも同じタイプのコードが三十六以上あるはず)」
可能性として残るのは、戦闘機とトライエース御剣、そして迎撃すべきミサイルの三つ。アリスは、数多ある敵味方識別コードと、実際にそのデータがマップに映し出されたミサイルのどれに対応するかを参照する。
「(全部を調べる必要はない。この似たコード達の中で一つだけを調べて、ミサイルに当てはまるまでやるだけ!)」
一つ目は、遥か遠くにある軌道エレベーターに出撃した御剣の識別コード。即座にそれらを非表示にして、次に向かう。
二つ目は、戦闘機だがロートルの飛んでいない練習機。はずれを引いたことに落胆する暇なく、アリスは三つ目に挑戦する。
「ミサイル二十発撃墜。ですが、まだ来ます!」
「地上からの砲台で十発撃墜。残り六!」
「桜花の迎撃ミサイルで六発撃墜!」
グルファクシのビーム、移動式及び固定砲台、桜花の迎撃ミサイルで第一波を防ぐことに成功する。残り数秒で着弾していたことを考えると、ギリギリの戦いであった。
巴やオペレーターが安堵しかけるが、すぐに次のミサイルの報告が上がる。
「だ、第二波来ます! 数は――――六十二!?」
「地上部隊のミサイルの準備は?」
「まだ、大丈夫です! ですが、このまま行くと迎撃ミサイルが不足する可能性が……」
地上部隊の放った迎撃ミサイルは、何としてでも撃ち漏らしてはいけないと安全マージンを取って、多めに発射されていた。その為、第二波を迎撃するための数に不安が残る。加えて、補充が間に合わない可能性も出て来ている。
島全体に迎撃ミサイルがあるので、この地域だけを狙われれば、不足するのは十分あり得た。国防に回す予算が今まで少なかったことと、宇宙進出を目的とした軍拡の中で、ミサイルという存在がデブリ条約によって出てこないだろうと軽視した結果だ。
「(よし、とりあえずは識別信号から外すことができた)」
一方、アリスはミサイルの識別コードを切り替えることに成功したが、問題はまだ残っていた。
それが「未来位置修正システム」。要は弾道を予測する機能である。その参照するデータを開いて、アリスは目を見開いた。
「繰り返し計算が途切れてる……!」
目標の現在地と速度は捕捉出来ているのでレーダーには問題ない。後は、実際の弾が届く速度や位置をコンピューターで高速かつ膨大な数を処理する必要があった。
しかし、その実際に放った弾丸を観測し、新たに計算を作り出すというプログラムが途切れている。これでは、あらかじめ決められた基準のデータから修正ができない。つまり、ただひたすら弾を撃ち出すだけで命中することはない状態であった。
計算結果を基準式に反映させるためのプログラム。その一部の破損を見つけ出し、一秒でも早く修正をしなければならない。
アリスは、震える指でキーボードを叩き続けた。




