戦いの始まりⅢ
アリスたちが、次の言葉を待っていると、音がかすれながらもバートの声がコックピット内に響く。
「そこから大人しく出て来るならば、ニアムーンコロニーの市民として、命だけは助けよう。しかし、その中に居座るというのならば、君たちを市民のフリをした軍人と見なす。URUに対するスパイ及び略奪行為の現行犯とし、この場で処断する」
シャルの言葉がぐっと詰まる。乗り出した状態のまま、通信を一時中断するスイッチを押したシャルは、アリスへと視線を向けた。
「ごめん。運動プログラムの数値を弄ったけど、今は腕を動かすので精一杯。このまま、中に居るよりは、外に出て無事に逃げれることに賭け――――」
「やめておけ」
青年がシャルの言葉を遮る。
アリスもシャルも不思議な表情を青年に向けた。
「出たところで殺されるだけだ」
「じゃあ、何だよ。このまま、黙ってこの中で圧殺されるか、蒸発しろって言いたいのか?」
シャルが激昂するが、青年はもう一度、コクピット内を見回す。そして、左右にある操縦桿を軽く握って、数秒目を瞑った後、二人に問いかけた。
「この機体の強度で、どれくらい耐えられる?」
「えっと、使ってる素材や構造がわからないので何とも言えませんが、サブマシンガン系のビーム銃器なら十数発くらい。同じ個所に集中して受ければ、時間にして一秒強、かと」
そうか、と青年は頷くと目を開いて、シャルへと視線を移す。その表情は先程までとは異なり、軍人を思わせるような気配を纏っていた。
「会話で時間を稼げるか? この機体を動かせるかもしれない」
「……本気で言ってんのか?」
「自信はないけどな」
そう言うと青年は、大きく深呼吸をする。
「――――拡張開始」
青年が呟くと同時にアリスは全身に鳥肌が立つのを感じた。
だが、嫌な感じはしない。むしろ、温かい何かに包まれている感覚がして、安心感すら覚えた。
「概形把握、同調開始」
次の言葉が紡がれる。数秒遅れて、アリスは手前のプルグラムを弄っていた画面に目が吸い寄せられた。
「(嘘、でしょ……)」
次々に出現する文字と数字に目が追い付かない。キーボードを触っている人は誰もいないのにも関わらず、機体を動かすための基本数値設定が再入力され始めていた。