エリシウム防衛戦Ⅶ
巴は二人の視線を受けて、ゆっくりと振り返ると司令部の通信に応答した。
「了解。これより、グルファクシ。発艦準備に入ります」
巴は即座に艦内放送に切り替えて、命令を下す。
「全クルーに次ぐ。本艦はこれより発艦し、エリシウムを襲撃しているキンメリア軍に反撃を行う。艦長負傷の為、指揮は臨時に副艦長の私が執る。パイロット、オペレーター及び整備員は、各自配置に着け」
「こちらハンター001。既に002と共に艦外にいる。一度、戻った方がいいか?」
その質問にモニターを一瞥した巴は即座に指示をする。
「本艦の出撃口より先に外へ。上陸したばかりのトライエースは距離がある。空に上がるまで近付かせるな。撃墜ではなく、足止め程度で構わない」
「了解。ハンター001、002出撃する。オペレーター、案内を」
ルイスとサムの出撃シークエンスが開始される中、巴が艦長席に座り、キーボードを操作する。モニターの表示が次々に切り替わり、更にそれを巴が見やすく整理していく。
オペレーターにも指示を飛ばしながらマップを大画面で映したところで、艦橋に何人かの軍人が走り込んで来た。
「オペレーター四名、到着しました。この後、主任も到着予定です」
「ご苦労。下段左から順に座り、渡されたIDとパスワードでログインを。それが終わったら、ハンター001から004までの対応を任せる」
「了解!」
すぐに四人の男性が左の階段を回り込むようにして降りて行った。
「出撃用の危機に問題は?」
「ありません」
「わかった。マニュアル通りに進めてくれ」
巴の指示を受けて、オペレーターが捜査を開始すると、グルファクシが回転を始める。
「全領域対応特別強襲艦『グルファクシ』、出撃シークエンスを開始します。格納庫の整備員は退避をしてください。司令部、保護シャッターよし。回頭完了まで残り十秒」
モニターには大きな長方形のハッチが見え始める。
外からの侵入を防ぐために何重ものハッチが用意されているのだろうが、先程の爆発のこともあり、アリスたちは不安に駆られる。
「出撃通路、ハッチ開放。進路クリア、発進準備完了。ハンター001、002、どうぞ!」
ルイスとサムがそれぞれ出撃宣言をして、ブースターを吹かし、浮遊して硬度を一定に保った後、低空で飛んでいく。いくら航宙艦が発進する用の通路で広いとはいえ、上下左右の限られた空間をブースターで即座に飛べるのは、トライエースの操縦に慣れている証拠だろう。
しかも、それが宇宙から帰って数日と経たずでの大気圏内での搭乗ともなれば、その難易度はかなり高いもののはずだ。
「スルーズ二機、無事出撃完了。続いてグルファクシ、出撃します!」
オペレーターの声が響くと、アリスはだんだんと背中が後ろに押し付けられるのを感じた。飛行機と同じような感覚だが、それと違って天井があるという閉塞感が、ぶつかるのではないかという恐怖を生み出す。
「離陸速度手前まで加速完了。B地点まで維持! 通過後、エンジン全開で離陸します!」
体が若干、上側に向いた。通路は地面と平行なのではなく、やや上向きに傾いているようだった。
隣のシャルの顔を見ると、自分と違って目の前の光景を脳細胞すべてに焼き付けておかんとばかりに目を見開いている。
不安を感じていた自分が、どこか馬鹿らしく思えて、アリスは視線を前に移した。
「B地点まで、残り三、二、一――――」
オペレーターのカウントダウンが終わると同時に視界が青空へと変わる。数秒と経たず、床やイスの接地面がグラリと揺れる感覚が伝わって来て、離陸したことを悟った。
「対地攻撃用兵装展開! 射線が開き次第、海岸線にいるトライエースの集団に向けて砲撃開始! そのまま、旋回をした後に西進。ネームレスの後を追え!」
「すげぇ、どんな装備を使うんだ!?」
ロンが身を乗り出して、モニターに映る艦の側面図を凝視する。そこには「対AAA掃射ビーム砲『スプライト』」と表示されていた。




