第172話 王の側仕え
お待たせ致しましたー
私めは、ただいま感慨深い気持ちでありますぞ。
「いーきーたーかーったー!!」
私め自身の事ではありません。
執務用の卓の上で、駄々をこねていらっしゃる……お小さい頃よりお仕えさせていただいている、ヒーディア国の若き国王陛下のことです。
どうやら……城下町のひとつであるリオーネに、ご友人がいらっしゃるようで……その方から、何やら宴会のご招待がお有りだったとか。
ですが……参加はなりませぬ。
「……陛下、いけませぬぞ」
「だってよぉ!? 爺がダメっつったんだろ!?」
「当然でございますとも」
現状を把握なさらない愚王ではいらっしゃいませんが……余程、行かれたかったのでしょう。当日である本日まで、かなり不貞腐れいらっしゃいます。
しかし……今は、陛下をお勝手に城下へお忍びに行かせてはなりません。
陛下自ら動き出した……大半の貴族どもへの大改革。
それを国内のみならず、友好・同盟国にも呼びかけ……数多の、私欲のみで臣下の地位にいる者どもを処罰への篩にかけていらっしゃるのですから。
当然……隠れて動いている者どもも、明日は、我が身と恐れて陛下を亡き者にしようと考えている愚かな行為が……日夜続いています。
この執務室も、万全の警備を敷いていますが……突破する暗殺者も居なくはありません。
ですから……城内であっても、陛下をのびのびと歩かせられないのです。城下など、もってのほかですとも!
だがしかし。
「あ〜〜……ケントと遊びてぇ!!」
ここまで……執心に近い、ご友人の存在。
その方も、実は只者ではいらっしゃらないようなのは……私めも聞いておりますとも。
「いくら……陛下御自身が改革のために、ときっかけになられたご友人ですが……我慢めされませ」
「……ぜってぇ、楽しいだろうなあ」
「爺の話を聞いていましたか?」
「聞いてっけど! ケントのプレゼントとかぜってー欲しい!!」
その『ケント様』でいらっしゃいますが。
陛下とご同年でいらっしゃるようで……国随一と謳われるほどの錬金術師、ヴィンクス=エヴァンスの一番弟子ですが……あの方よりも、食べ物をポーションにしてしまう腕前をお持ちだとか。
ヴィンクス殿でも可能に出来なかったのを……弟子の彼は可能にされたようで。陛下がお忍びでお店に行かれた時に……気が合い、ご友人になられたそうですが。しかも、陛下は『ご親友』と宣言されるくらい気に入られたようで。
私めは、まだお会いしておりませぬが……ここまで、陛下をごく普通の青年のようにしてしまうのは、そのケント様だけでしょう。
魔法蝶にて、定期的にお手紙のやり取りをなさるなど……実に、行動派の陛下としては堅実な交友関係ですな。
公務以外にも、愚かな貴族どもの毒牙を回避すべく……無闇にお忍びに行かれない事だけでも、爺としては成長なされたと嬉しい限りですのに。
私め自身も……そのケント様に一度はお会いしとうなりました。
陛下をここまで変えられたご友人ですから。
イシュラリア伯爵の推薦があったことで……陛下の興味を誘われたようですが。
今は駄々をこねていらっしゃっても……改革に動くまで、陛下をさらに【賢王】へと成された方です。
ポーションの『パン』とやらを……私めが一度購入致しましょう。
たとえ……さらに、駄々をこねる結果となりましても。
次回はまた明日〜




