8話 象徴
8話 象徴
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……え?
「それは、どいういう意味ですか?」
組織のトップって、このメーンベルトのってことですよね?
どうしてそんな話になったんですか?
全く検討もつきません。
冗談、という感じもしませんね。
私をトップに据えることに何かメリットを感じている様子、しかしそれが思いつきません。
貴族を組織のお飾りトップや幹部に据えるというのは結構良くある手法でです。
お金渡すのでお口添えの方よろしくお願いします、みたいな一種の賄賂のような物ですね。
しかし、それは実権を持つ当主相手に行うもので子供相手に行うことはあまりなく、ましてや私は勘当された身そのメリットなど存在しないと思うのですが。
一体彼は何を考えてこんなことを?
「言葉通りの意味だよ。君にグベッリーニとしての力を貸してほしい」
え、本当にそれなのですか?
「お力には添えないと思います。私は家から公爵直々に勘当されておりまして、親戚も王子に捨てられた私を庇ってくれるとは思えませんし。今更私にグベッリーニとしての価値など」
情報伝達がうまくいってない?
まさか、私のことが伝わっていて元公爵令嬢という一番大きな情報が伝わってないわけありません。
それを抜いたら私の情報の価値なんてほぼありませんし、お偉いさんがわざわざ会いに来る意味も不明です。
あ、元とはいえど多少の口利きはできると思われている可能性はあるのかもしれません。
実際形ばかりの処分として勘当を言い渡し、メイドと称して実態は変わらない形で家に置いている者もいると聞いたことがあります。
対外的な処分と子供絵の愛情の間を取った良くある方法らしいです。
ただ、私の場合勘当されてすぐ家を追い出されたので……
お父様は操られ完全にそういう情の部分すら存在していない様な気がしてなりません。
彼の期待には応えられそうにありませんね。
これに応えられたなら、かなり組織を利用しやすくなるのですが。
いえ、そもそもこれに答えられるのなら私がこの組織を利用してやりたいことなどする必要もなくなりますし、この仮定は全く意味を持ちませんね。
「いや、そうではないのだ」
「?」
「マルシアさん、貴女は確かにグベッリーニを勘当された。でもその血がグベッリーニの生まれであることは変わりのない事実、それは少し調べれば誰にでもわかることだろう」
「それは、はい」
まぁ、確かに私は婚約破棄と勘当の件もあって不本意ではありますがかなり有名でしょう。
貴族なら間違いなくそのエピソードとセットで知っているでしょうし、庶民でも普段から貴族と接する商人やそれこそ噂好きのおばちゃんとかまで知っていてもおかしくありません。
公爵令嬢の婚約破棄や勘当なんて片方でもそうあるものではありませんし、ましてや同時にとなればそれこそほぼ存在しないでしょう。
ただでさえ、人の不幸というのはとっても広がりやすいですしね。
でも、それになんの意味が?
私が勘当されてることが広まってたとして、それはうまく相手を騙して王子の婚約者だからとか公爵家の娘だからと言った譲歩を引き出せる可能性が少なくなるというデメリットぐらいしか存在しないと思うのですけど。
「その事実が重要なのだ」
「我々には旗印が、革命の象徴が必要なのだ」
「象徴、ですか?」
「我々は王政の打倒を目標としているが、それはこの国の崩壊を意味しない」
「我々はこの国を愛し、この国の国民のために行動している」
「だから必要のない混乱は避けたいし、必要のない争いはしたくない」
それはなんとなくわかっていました。
基本的にいい人たちですし、私のことをわざわざリスクを負ってまで受け入れてくれた人たちですから。
国を混乱に陥れる気も、国民を無駄に殺す気がないのも、それはとても好感が持てます。
私もこの国は大好きですから。
国の未来を王子と共に語り合い、
フローラもそれに賛同してくれて、
3人でこの国をより良いものにしていこうって、
なのに、フローラは……
いえ、これは今考えても仕方のないことです。
その目的が、私をトップに据えることで成し遂げられると?
「理念と政策だけでは足りない、我々には正当性というものが存在しない」
「マルシアさん、貴方は王家の血を引いている。そしてその事実を誰もが知り、王政に反対する理由に誰もが納得するだろう」
「我々の最終目標はあなたに王の座についてもらい王政の終焉を宣言してもらうことにある」
血、ですか。
それは確かに私が勘当されているとかはあまり関係ありませんね。
王家の血を引いているかどうか、私にとっては当たり前すぎて存在しない観点でした。
彼は公爵令嬢のグベッリーニではなく、公爵家生まれのグベッリーニを欲したと……
「何も私である必要は……王家の血を引くものは貴族ならそれほど珍しくはありませんし、象徴にするのでしたら王族の方がふさわしいのではないのでしょうか?」
それに、たまたま私がメーンベルトに入ったからと言って急拵えされた作戦なのだとしたら、それに乗るのはあまりにも危険すぎます。
私がここに来ることなんて事前にわかっていたはずもありませんし、理想を語っていただけの集団がきっかけを手に入れそれに飛びついたからといって成功率は高くはならないでしょう。
しかし、どう断ったものでしょう。
メーンベルト的にこの誘いを断るのはアウト、考え方としては自分の命を犠牲にしてでも少しでも王政打倒の可能性があるのなら喜んでといかないといけませんし……
「こちらでも当たりはつけていた」
「貴族内にもシンパはいる。だがどれも王家との血のつながりが薄く国民に正当性を示すものとしては弱い」
「力づくで王家の者をとできないこともないが、それではそもそも象徴を用いる意味が薄くなってしまう」
「我々はあくまでも穏健派なのでね」
「君がこの支部に連れてこられたと聞いた時、天は私に味方していると思ったよ」
もともとある作戦ではあったのですか。
しかし、パーツが足りていなかったと。
貴族を使うには下級貴族では王家の血が薄く、さらには養子などもあり本当に血がつながっているかは怪しいところがありますしね。
それに、国民からしてその相手が本当に王家の血を引いているのか疑わしいところもあるのでしょう。
なんせ貴族のことなんてほぼ知りません。
王族ならそれは解決ですが、力づくでは象徴を用意する意味がそもそもないと。
その点私は不名誉なことではありますが有名であり、不名誉な話が出回っているがゆえに王政に反対しても国民の中で勝手に納得できると。
そんな都合いい私が来たので、わざわざお偉いさんがこの支部に飛んできたと。
いや、そもそもそんな都合のいい人材逃すわけ……
もしかして私攫おうとしてたのって、あなたたちも?
いえ、この場合攫おうとしてたではなくまんまとサクラに攫われたってことですか?
サクラの方を盗み見ましたが、すました顔をしています。
話から察するに、どうやら私には公爵家に残ってスパイ活動する以上の価値があったようですね。
無償の愛ではなかったのはちょっとショックです。
貴女に言ってるのですよ、サクラ。
「……」
でも、この話悪くはないのかな?
「今一度頼みたい、貴方に我々の象徴になってもらいたい」
リスクはなるべく取りたくありません。
しかし、全くリスクも取らずに王国の中枢にいるであろう魔女を討ち取ろうというのも不可能であるのは事実です。
このような大きな組織の力を借りれる機会など、すでに地位を失いただの少女にすぎない私にはそうあることではないのでしょう。
これは絶好の機会というやつなのかもしれません。
きっかけを手に入れそれに飛びついたからといって成功率は高くはならないでしょう。
でも、たとえ私の命を犠牲にしたとしてもカローイ様とお父様を救えるというのでしたら、飛びつかない理由はありません。
「貴族で地位に興味のない人間なんていませんよ」
「だとしたら」
「もっとも、私は飽きっぽいのでどんなに高価な宝をプレゼントされてもすぐ他に目移りしてしまうでしょうけど」
「心遣い感謝する、新しき王よ」
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