4話 魔女
4話 魔女
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サクラに連れられ宿から少し歩いた教会に来ました。
どこにでもあるような小さな教会、その地下に伸びた階段の先にはただの地下室とは言えない大きな空間が広がっていました。
「なに、ここ?」
私は、どこにでもあるような小さな教会に入ったはずです。
それがどうしてこの様な空間につながっているのでしょうか?
ここがサクラの言ってた避難場所?
何かの拠点の様に見えます。
こんな場所、上流の貴族でも無い者にそう簡単に準備できるような場所には見えません。
それに、私に勘当が言い渡されてからまだ一日です。
仮にサクラが手配できたとして、そう手早く処理が出来る規模でも無い様に思えます。
「ここは、反王政府組織メーンベルトの拠点の一つです」
え?
メーンベルト、ですか?
聞いたことがあります。
最近もどこかの辺境の貴族が殺されて、国の端っこの領地が占領されたとかで王国軍を派遣することになったとかいう話です。
危険勢力として王国全域に手配されていて、そこの所属だと分かれば即殺害の許可が出ているとか。
かなり危険な組織だということは知っていますが、反対にそれ以外は何も知りません。
何でそんな危険組織の拠点に?
いえ、そもそもなんでこんなところにメーンベルトの拠点があるのですか?
ここは、王都の中ですよ!?
それに、サクラは何でこんな場所知ってたの?
……もしかして、
「マルシア様は悔しくないのですか」
「悔しい、ですか?」
私が呆然としながらその空間を眺めていると、サクラが振り返ってそんなことを聞いて来ました。
なんの話でしょう?
私は婚約破棄され勘当されとても気分が落ち込んでいるとことですが、悔しいようなことは……
まぁ、親友が魔女かもしれないというのは、それに気づけなかったのは悔しいと言えなくもないですけれど。
「あのような公の場で一方的に婚約を破棄するなどというお嬢様を晒し者にする行為をされて、娘を庇うどころか自らの立場を優先してお嬢様に勘当を言い渡す父親、昨日までお嬢様に助けられていたのに地位を失ったとなれば手のひらを返す学園の生徒、お嬢様は悔しくは無いのですか?」
「……」
「この国は、この国の貴族は狂っています」
サクラの言葉からは強い憎しみと怒りを感じました。
少し怖いぐらいです。
でも、私のためにそう思ってくれてるのだと思うと少し暖かい気持ちになります。
でも、
「サクラ、私は彼らが操られてるんじゃないかって思ってるの。様子もおかしかったし、瞳も濁ってたし……」
そう、全ては魔女が悪いのです。
お父様も、カローイ様も被害者です。
じゃないと、
そう考えないと、
もし操られてないとしたら、
まるで私が本当に捨てられてしまったみたいで、そんなの到底耐えられるわけないじゃない。
「誰が操れると言うのですか? 貴族、それも王子と公爵は初代国王の血も濃い方々ですよ。そんな人物を操る魔法を行使できるものなど」
「魔女、とか?」
全ては魔女が原因なのです。
だから、早く助けてあげないといけません。
待っててください。
お父様、カローイ様、私がすぐにでも救い出してあげます。
サクラもきっと協力して……
「お嬢様、魔女なんて存在は英雄譚の中のお話です」
え?
「でも、実際にかつては大勢の人を操り国を混乱に陥れ、初代国王様を追い詰めたのでしょう?」
「何度も本で読んだし、歴史でも教わりましたよ!」
「あれは、この国にこの国の貴族に都合がいいように作られたただの作り話です。こんなに偉大なのだから、かつて守ってやったんだから、今俺たちが特権を持ち振るうことは何もおかしくないという。庶民に対する体のいい洗脳です」
「そう、なの?」
……そう、なのですか?
でも、あれは魔女が
いえ、本当は魔女はいなくて
あれ?
「第一、誰が魔女だと言うのですか?」
「……フローラ?」
「あの泥棒猫ですか? 確かに魔女ののようにあくどい人物です。お嬢様をコケにし王子の婚約者の座に収まるなど、そんなこと到底許されていいことではありませんし私も憎いです」
なら……
「でも、所詮は平民です。貴族をどうこうできるようなはずがありません」
そう、ですか。
いえ、それが常識ですよね。
平民は貴族にはまず敵いません。
だから、学園には平民の枠がないのですし。
でも、そんな中で彼女は学園に入学して来ました。
「そう、平民です。彼女は平民なのに学園に通っているのです。彼女は私よりも、ましてや王子よりも魔法を扱うことに関しては上手です。だからこそ、魔女なんじゃないかって……」
「それは、ただその様に見えるだけです。お嬢様はまだ子供です。幼い頃というのは才能の壁にも限界にもそうは到達しませんので、劣るものでも上手に見せる方法はあるのです」
「仮に魔女だったとしましょう。なんでお嬢様は無事だったんですか?」
「それは……」
「そうでしょう? いつも一緒におられました様に思います。お嬢様より魔力に優れた王子と公爵が洗脳されて、お嬢様だけ無事なのはなぜですか?」
「私のことはただ利用してただけだと思います。お父様とカローイ様という本命に近づくのに都合が良かったから近いただけ、洗脳する必要もなかったということなのでしょう」
そう、私なんて所詮そんな価値しかないのです。
実際、今私は操られていたわけでもないのにどうしようもない状態に陥ってしまっています。
私なんて操らなくても、お父様とカローイ様さえ操ればそれで全て上手くいくのです。
私にかまう時間も魔力も無駄だということでしょう。
フローラにとって、私はその程度の存在でしかなかったということなのでしょう……
「それでも、お嬢様をを操らない理由は無いのではありませんか? 庶民という身分で本当に公爵令嬢に取り入れるのか、そもそもどれだけ時間がかかるのか分かりません。そんな不安定なことをするぐらいならば、王族をも支配できるその魔力で操って仕舞えばそうすれば全てうまくいきます」
あれ?
確かに、そうなのかもしれません。
私は何か勘違いをしていた?
でも、だとしたら……
うそ、ですよね?
「そっか……」
「じゃあ、私は裏切られたってことですか? 友達にだけじゃなく、婚約者にも、実の父にも」
「……お嬢様」
「はは、」
「魔女ではありませんが、悪女であることに違いはありません」
「お嬢様の優しさにつけ込んで王子に接近し、きっと自らの体を使って籠絡したに違いありません。そう、学園に入るのにも理事会の親父たちに体を使って取り入ったのです。それ以外説明つきません。なんて穢らわしい」
「そもそも、多少庶民に色仕掛けされたぐらいで心が揺らぐような王子なんて元からお嬢様にはふさわしくなかったのです。私はお嬢様に婚約者ができた時から心配で心配で、男なんて碌なものではありませんので。そんな男に体を許す女もです」
「ああ、穢らわしい」
サクラが捲し立てるように話している言葉が流れていきます。
頭の中に文字として入って来ません。
私は現実から目を逸らしていたのです。
逸らしていた現実を直視して、今更ながら理解したのです。
「そっか、そうなんだ……」
「私は捨てられてしまったんですね。魔女なんて都合のいい悪者は初めからいなくて、全部彼らの意志で」
「……目が覚めましたか?」
「サクラのおかげです」
「貴女は誇りを汚されたのです。やり返さないといけません!」
「さぁ、私と共に」
サクラが私に手を伸ばします。
「……はい」
私はそれをゆっくりと握り返しました。
周りから拍手が起こります。
いつの間にか、メーンベルトのメンバーが集まって来ていた様です。
私がこれを拒んでいたら、その先を想像するとゾッとします。
サクラの瞳は狂気に染まっていました。
お父様やカローイ様と同じように、そして周りにいるメーンベルトのメンバーの様に、濁り切った瞳をしていました。
魔女のせいで!
そう考えなしに怒れたらどれほど楽でしょう。
こういうことなんですね。
魔女なんて都合のいい悪者はいない。
操られたわけではない。
私は魔女に希望を見ていただけなのです。
いもしない悪役を勝手に作り上げ、その上その悪役に光を見出していたのです。
なんて愚かなことでしょう。
でも、私はそれに縋らないわけにはいかないんです。
サクラが反王政活動にのめり込んでしまっているように。
じゃないと……
私は魔女を殺してお父様とカローイ様を助けます。
そして、魔女の首を見上げに私はグベッリーニ公爵家に復帰してカローイ第二王子との婚約も元通りにして……
私はその妄想に縋っていないとおかしくなってしまいます。
きっと、私の瞳もひどく濁ってしまっていることでしょう。
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