第一話
鬼守の村に入ると自分を呼ぶ声が響いた。
「スキト、スキト!!」
「カカトが!!」
「かあちゃん、どうしたの?」
「カカトの角が……」
「なんだこれは!?」
弟のカカトの角はボロボロになっていた。皮膚は赤だったはずが白くなっていて息は苦しそうだ。
「おにい……ちゃん」
「カカト!」
「触るな!!」
「うつるぞ!!」
「父ちゃん、じゃあこれどうしたらいいの?」
モクトは重い口を開けた。
「この流行り病は……権現様に許可を得て、人間を喰えば治る」
「えっ!?」
「でも僕たちは……」
「そうだ、我々は人間の守護者。そして人間の僧に力を与える使命を持った者。めったに人間を喰う事なんて許されてない」
「でも腕や足を失ったものは人間を喰えば元に戻すことが出来る。南の高千穂に伝わる鬼八法師の伝説は知ってるな!?」
(鬼八法師。神に稽古を頼まれた鬼。そのせいで後ろの石ごと真っ二つに切られた伝説の法師!!あんな状態になりながらも翌日首も足も繋がり毒をまき散らしたため『鬼封じ』されたという悲劇の法師!!)
「ぼく……熊野権現様に聞いて来る」
「無駄だよ。無理難題をふっかけられて消されるのがオチ」
「でも裏で人食いしたら!?」
「そう、消されるよ。人間にな」
「父ちゃん、ぼくカカトを救いたい」
その言葉を聞くと父はただ抱きしめた。
「お前、これを」
「これは!?」
母クニトから渡されたのは黒い刀だった。
「鬼守の剣」
「一族の宝刀よ。長老から借りてきた」
「もしかしたら、お前ならそう言うだろうって」
「言っとくが俺は反対だ。だが、スキト。お前を息子として誇りに思うぞ」
「権現様はどこにいるの?」
「西の山に居る」




