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瓜子姫と天邪鬼の冒険譚  作者: らんた
瓜子姫を連れて帰った天邪鬼
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瓜子姫を連れて帰った天邪鬼

「おい、国造りの場所がくじ引きで決まるんだってさ」


「遠いところは嫌だねえ」


「敵対する天津神らに近い地域も嫌だねえ」


「鬼退治と称して抹殺されるからな」


「おい、ラク、聞いてるのか?」


「うん、ああ」


 正直どうでもよかった。川の治水と耕地面積を増やすだけの簡単な仕事なのだから。だいだらぼっちに化ければ簡単なのだ。

 ラクがくじを引いたのは出雲から近い播磨の国だった。


 「隣の隣じゃねーか。いいなあ」


 「じゃあ、隠れ蓑来てちょっくら飛んでくるかね」


 これは播磨の国に伝わる不思議なお話。


◆◇◆◇


 まず現地に着いたら偵察が天邪鬼の仕事だ。播磨の国をくまなく偵察する。本当、隠れ蓑ってのは便利な道具だぜ。そんな時興味にかられた家を発見した。周りは小さな畑しかないのにぽつんと一軒家があったからだ。


(山姥かもしれぬ。気を付けよう)


そう、山姥は天邪鬼の呪文を無効化する魔術まで持っている場合がある。


 そっと家に近寄って見る。するとなんとも可憐な女の子が機織りしていた。瓜畑以外、何もない。夜、改めて偵察すると老夫婦とその子だけの家庭であった。食事は貧弱で反物を売ってどうにか生計を立てていることが分かった。爺は山に芝刈り、婆は洗濯に出ていたのだ。幸い、山姥ではなさそうだ。翌日さっそくここを開けておくれと門を叩いた。


 「ダメです。誰が来てもここを開けるなと言われております」


 「そんな事言わずにちいとあけんさい」


 瓜子姫はそっと戸を開けた。


 (鬼!!)


 瓜子姫は戸をぴしゃっと閉めた。


 「あなた鬼ね!!」


 「そうじゃ。鬼じゃ!」


 「私を食べる気なのね!」


 「んなわけあるかい!」


 「信じられない!」


 「じゃあこうしよう。この辺の土地を豊かにしちゃる。そうすればここの扉を開けて話させてもらえんかの?」


「いいわ!だったらこの辺に川でも引いて頂戴。出来るもんなら」


「お安い御用だ」


◆◇◆◇


天邪鬼はだいだらぼっちに化けることが出来る。しかも夜に威力を発揮する。


「みちょれ、瓜子姫」


そういうと印を結び呪文を唱えるとめきめき音を立てながら大きくなった。


「ここの大地は高いの。背伸びが出来るわい」


そういうと山にある岩を砕いた。


次に印を結び呪文を唱えると魔法の縄が登場した。魔法の縄を岩に縛る。


石を引きづりながらどしん、どしんと音を立てながら移動する。


家に居る者は恐れ慄きうずくまった。


山から低地に向かって石を引きずるとやがてそれは川となった。


(橋も架けると効果的じゃのお)


しかし鶏の鳴き声が聞こえる。


「もう朝か。しかたないの」


そう言うと岩を横に置いて印を結び元の天邪鬼の姿に戻った。


「付かれたの、昼寝でもするか」


そう言ってねぐらとした洞窟に帰ると昼寝した。


再び夜になる。


印を結び呪文を唱えまたもだいだらぼっちになる。


「今度は山に段差を付けるんじゃ」


 そういうと手で凸凹な大地を平らにしていく。こうして棚田が出来上がって行った。印を結び天邪鬼の姿に戻るとねぐらに帰った。翌日、村の者は大騒ぎになった。荒れ地に水と棚田が出来ていたのである。大喜びする村人の声がする。


「じゃあ、報酬を取りに行くかの」


そういうって再び瓜子姫の家の戸を開ける。


「姫、約束忘れたか。ここを開けておくれ」


姫は戸を開けた。


「どうじゃ、この辺一帯を豊かにしたぞ。しかも川だけじゃね。棚田まで作ったぞ」


「私の負けだわ」


それを聞くと突然瓜子姫を背負った。


「何するの!!」


「まあそう言うなって」


そういって二の腕で瓜子姫を抱えながら飛翔した。


◆◇◆◇


瓜子姫が連れてこられた場所は天空の宮殿であった。


「この者に上等の着物と食事を」


「かしこまりました」


「では、姫、こちらへ」


兵士と思われる者に宮殿を案内される。


「しばらくしてから歓談しようではないか」


「もっともあんな貧乏なとこで会話するとは言ってないがの」


姫はおろおろするばかりだった。言われるままに着物を着て歓談の席に座る。


「まあ、そこに座りなさい」


そこに居た天邪鬼はまるで別人と見紛うばかりの端麗な鬼であった。上等な着物を着ている。


「改めてご挨拶を。我の名は天邪鬼のラク。大国主様に播磨の国の国づくりを任された鬼よ」


「えっ?」


「もし、我と結ぶのなら上等の食事、上等の着物、そして天空の暮らしが出来る。悪い話ではなかろう?」


瓜子姫はそれを聞くとわなわなと震え、茶をラクにぶちまけた。


「バカにしないで!」


「会ってすぐに婚姻を結べだって?上等な生活?誰がそんなもんのぞんだんじゃい!」


「段階もふまず、碌に会話もせずカネと権力だけで婚姻を迫る男なんてたとえ人間でも結構です!」


「上等じゃのお?このじゃじゃ馬」


「だれかこいつを捕まえろ!」


しかし瓜子姫は逃げて行った。ここは天空。逃げ場など無いように思われた。しかし瓜子姫はしっかり見ていた。


「あれが隠れ蓑ね」


 隠れ蓑を着込むと急いで天空から飛び降りた。死ぬ覚悟だった。だが、すう~っと天空を飛び下りて行った。やがていつもの村々に降り立った。家に隠れ蓑を置くと姫は素早く逃げた。ラクが瓜子姫の家に行くと老夫婦が嘆き悲しんでいた。姫は居ない。あるのは蓑だけだ。


「とりあえず、蓑は返してもらうけえの?」


「ひっ!」


 こうしてラクは瓜子姫を取り逃がしてしまった。

この噂は瞬く間に天界に広がり、ラクは人間の女に振られた男として生涯伝説になってしまったという



元伝承

兵庫県多可町のだいだらぼっち型の天邪鬼伝承に基づく

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