第四話
いよいよ一つ目鬼族が占拠している美濃の城を奪還する時が来た。天邪鬼らは闇の鎧を着て闇の面頬を付ける。カイは白色の魔法の粉で塗った髑髏の文様を施した面頬を付けた。我は死神なのだと敵に知らしめるためだ。
総大将はもちろんカイだ。闇に浮かぶ白の髑髏の面頬は総大将の印にもなった。
「親の敵を討つ!」
闇の鎧は金棒の攻撃を最小限に抑えた。もはや敵では無かった。次々に撃破されていく一つ目鬼族。そしてとうとうカン王を捉えた。カンが手足を縛られたまま本陣に連れて来られる。カイはカンの姿を見て面頬を付けたまま喉をならす。笑っていたのだ。
(こいつが親の仇。こいつが俺の人生を狂わせた男)
カイは獲物を目の前にしてあまりの嬉しさに笑いが止まらない。
「覚悟はよいな?」
「さっさと殺せ!」
「我は死神。その言葉の望みをかなえてやろう」
死神は闇の刀で首を飛ばし、さらに血肉を細切れにした。嬉しそうに肉を切り刻む。闇の鎧は返り血で赤の斑模様が加わった。死神は事を終えると細切れにした肉を皮袋で包み近所の川に肉を撒いた。
面頬を取るとカイはその場で泣いた。本懐を遂げたはずなのになぜか心が虚ろになっていった。
(こいつを殺したっておとうさんやおかあさんが生き返るわけじゃない!)
周りは数が少ないものの総大将が慟哭する姿を見て動揺が走った。
(いかん。俺は総大将なんだ)
カイは友軍に己の泣き顔を見せないよう面頬を再び被った。本陣に戻るとカイを勇者、勇者とたたえていた友軍の姿があった。
カイは奪い取った城を凱旋した。傍目から見たら返り血を浴びた残虐無比な死神の姿そのものである。だがその死神が泣いていることに誰も気が付かない。死神は玉座に着いた。そしてこう宣言した。
「我、国を奪い返したり!」
大歓声が起きた。少年にも関わらず己の恐怖に打ち勝つべく髑髏の文様で己の顔を隠し、国を奪還した英雄としてカイは勇者と称えられることとなった。
◇◆◇◆
カイは一つ目鬼族が持っていた宝の一部を育ての親にあげてから人間界を去るつもりでいた。カイは瓜姫小次郎に化けていつもの家に帰った。 しかし、両親の顔は険しい。
「これ、とうさんやおかあさんにあげたいんだ」
それは数々の宝玉であった。だが……。
「要らんわ、この妖怪めが!」
「おまえが鬼という事はもうばれてるんだよ!」
「おとうさん、何を……」
「わしゃ見たんだ。お前が別の鬼に柿の木に吊るされたときお前が本性を現すところを!」
「出て行け!」
そういうと正次郎はお札を投げた。
カイは肩に札を当てられやけどした。しかも人間に化けていた呪文は解除されていく! 周りには潜んでいた妖怪退治の僧侶がずらっと並んでいた。
「悪霊退散!」
「親父!!」
「わしを親父と呼ぶでない!!」
その時、隠れ蓑を脱ぎ姿を現した鬼が次々と僧侶を切り殺した。倒れゆく僧侶。
「キイ!」
「カイ王子、人間なんて所詮こんなもんなんです。去りましょう」
カイは泣きながら宝玉を持ち、その場を去った。老夫婦は震えながら地面に座り込んだ。




