第二話
とはいえたった二人で美濃の天邪鬼族国を再び建国することは出来ぬ。そこで普段は瓜姫小次郎になりすまし武芸に励んだ。育ての親への感謝も忘れなかった。本当の父の名はサイ、本当の母親の名はメイという事もキイから聞かされた。
王子が生きていたという話は瞬く間に隣国に逃げ込んでいた天邪鬼らに伝わった。特に飛騨に逃げた天邪鬼らにとっては朗報であった。カイは老夫婦の隙を見てはキイからもらった隠れ蓑で空を飛び、飛騨の天邪鬼の根城に通った。結界を抜けて中に入るカイ王子。王城内で歓声が沸き起こる。飛騨の天邪鬼の王であるトレ王に謁見する。
「なんと、父親譲りの美貌よの」
「その言葉、ありがたき幸せ」
カイ王子は美濃で覚えた織機をここで作り、かつ織ってみせた。するとこれまた隣国三河に逃げている天邪鬼から提案があった。
(この仕組みなら魔力を込めれば自動で織ることができるはず)
何と人間が自動織機を発明する五百年以上も前に天邪鬼は自動織機を発明した。もっとも雷の魔石がないと動かないので貴重な自動織機となったが。
カイ王子こと瓜姫小次郎のあだ名は「織機王子」というあだ名が加わった。自動織機で織られた着物は品質、価格ともに人間の織物よりも上等であった。こうして人間からお金を得た天邪鬼は次々武装していった。その鎧は異形そのものであった。全部が黒鉄で覆われていたのであった。それでいながらまるで重さを感じさせない。魔力を帯びた鎧だった。魔石は幸いにも飛騨の山中にある。鉄と魔石を高熱で溶かすことによって実現した。闇色の面頬を付けると暗黒の武者そのものだ。魔石の粉を塗った面頬を付けると己の声も変わった。文字通り闇色の声であった。敵を葬るにふさわしい姿と声となった。
(この鎧なら一つ目鬼の金棒にも耐えられる)
いよいよその時が来た。奪還する時が。両親の無念を晴らす時が。
当然一つ目鬼側が黙って居るわけが無かった。偵察隊がカイ王子を見つけた。天邪鬼の城を奪って得意になっていた一つ目鬼族のカン王はその話を聞くと持っていた盃を叩き割った。食堂に居た鬼は全員凍りついた。
「殺せ!! 奴が人間に化けているときがチャンスだ!」




