第四話
セトは羽後の国仙北の村に戻った。アバは鬼が島で亡くなったと伝えた。しかし、自分は津軽の国の鬼が島で鬼退治をしたことも村人に伝えた。セトは勇者とたたえられた。本当の事はとても「口が裂けても」言えないが……。
セトに待っていたものは平穏な日々だった。やがて八年が過ぎ瓜姫は成長する。瓜姫は機織りをするようになった。織物の質は上出来で暮らしに困ることは無かった。何もない日々。セトと瓜姫は幸せだった。
セトは「鬼が出るかもしれないからお前は戸を開けるな」と言った。いつ残党がここを襲うか分からなかったからだ。瓜姫は父の言いつけを守っていた。
一方のアメは偵察で外に居て命拾いした5人の鬼らと共に鬼が島を再建する。再建の傍ら、アメは武芸に励む。呪術習得もである。そして8年が過ぎた。アメは16歳になっていた。そしていよいよ敵討ちへ旅立つ。周りの鬼たちが泣きながら旅立を見送る。周りの鬼には死出の旅に見えた。だいだらぼっちになれる天邪鬼に勝てる見込みなどとても見えなかったからだ。だから8年間も何もできずにいた。しかしアメには秘策があった。
アメは隠れ蓑の呪力で空を飛び宿敵が住んでいる村の家にたどり着く。瓜姫がいるのであろう。さっそく隠れ蓑を脱ぎ、地面に置くアメ。
(まずは瓜姫からだ)
「瓜姫や遊ばないかい?」と戸を叩きながら声をかける。
瓜姫は戸の向こうで「見ず知らずの者と遊ぶのは」……と断った。その時アメは呪術を唱える。催眠術だった。
「いいわ、遊びましょう」
戸から出てきたのは可憐な少女だった。アメは瓜姫を柿がなっている木に連れて行く。その時呪を唱え、瓜姫を縛り上げた。瓜姫の悲鳴が山に木霊する。そのまま呪文で柿の木につるし上げ催眠術を解く。瓜姫が見たのは長身の女の鬼であった。さらに瓜姫は悲鳴を上げる。悲鳴の声を堪能したアメは瓜姫の着物を全て剥いだ。
「お前がわが天邪鬼一族を惨殺したセトの里子、瓜姫か。我らの恨み、思い知れ!」
そういうと縄を切った。鈍い音と悲鳴が木霊する。そしてアメは隠し持っていた短刀で瓜姫を絶命させた。さらに短刀で瓜姫の皮を剥ぎ瓜姫の臓物を食べる。剥いだ皮をアメは被りそのまま呪文を唱えた。すると見る見る食した人間と同じ姿になっていく。骨音を鳴らしながら身長は小さくなり角が消え赤色の皮膚が消え牙も消える。アメは本当に瓜姫の姿になったか確かめるべく水面を探す。水面に映った姿は瓜姫そのものだった。さらに肉の塊となった瓜姫の血肉を皮袋に入れる。最後に瓜姫が着ていた着物を来た。
「今日は味噌汁でごちそうだ」
そういいながらアメは瓜姫の姿のままセトの家に入っていく。アメは瓜姫の肉を細かく包丁で切り刻み、鍋の中に入れた。骨は板場の下に捨てた。セトが宵に戻って来る。アメはセトにばれぬよう己の声をなるべく出さぬよう細心の注意を払う。そして夕食の時間になった。
「うまい。うんめえ」
汁を飲むセト。だが二杯目でセトの顔つきが変わった。
「瓜姫……なにをした……」
セトは椀を落とし汁が飛び散る。突然セトの皮膚が真っ赤になって筋肉がもりあがる。頭頂に角が生え、牙が伸びる。アメは鬼になりかけている無防備な状態をこの時とばかりに懐にしまってあった小さな毒の矢を突き刺す。悲鳴をあげるセト。
「板場の下を見るがよい。お前の大事なものが転がってるぞ」
飛び散った汁のせいで被った皮が溶けて赤い皮膚が見えていたがおかまいなしに嬉しそうに言うアメ。
「貴様、瓜姫ではないな!?」
セトは反撃しようとしたが体が動かない。
「父と母と一族の敵!」
そういうとアメは短刀で何度も何度もセトを突き刺す。最後にセトの首をあげた。本懐を遂げたのだ。
「ふっふっふっ……くっくっくっ……くっくっくっくっ……あ~っはっはっはっ!」
アメは天を仰ぎながら血の海となった家の中で笑い続けた。笑い終えるとさっそく呪文を唱えた。骨音をならしながら五体が大きくなり、被った皮膚は散り散りになり元の赤き皮膚を露わにしながら筋肉が盛り上がる。変化を終え元の姿に戻ったアメは首を持ち、死体を見下して会心の笑みを浮かべた後、返り血をぬぐい、家にあった衣服を奪って家を出た。アメは昼間に山のふもとに置いた隠れ蓑を再び着て、首を持つと津軽の国の鬼が島に向かって飛び立った。




