第一話
あれから五年が過ぎた。セトは仙北の地で暮らしている。この呪文は人間の血肉を己の体に入れない限り、鬼に戻れない。本来は人間に化けて偵察し、かつ本性を現すときは人間らを破滅に追い込むために使う術である。人間に化けているときでも鬼としての能力を失ったわけではなく力も保持している。セトは困った村人を怪力やこっそり使った呪術で助け、開拓していった。村人の信頼も得られた。しかし、人間と結ばれるという事は人間の血肉を得る事と一緒。ゆえに結婚はかたくなに拒んだ。そんなある日の事……。
川で洗濯している最中に瓜にのせた子供が流れて行った。子捨てだった。常に飢餓で苦しむ北の大地では間引きが当たり前だった。瓜に載った子を拾った。名を瓜姫と名付けた。この地域では瓜に赤子を載せて流すという。このためこの地では瓜に載せた子を拾った場合は「瓜姫」と名付けるのだ。結婚できない身としてはわが子ができるというのは大変うれしいことであった。しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。噂を嗅ぎ付けた偵察隊が津軽の鬼が島に住む鬼の王に報告していたのだった。
(あれはセト王子に違いねえ! 角が無いだけで外見がそっくりだ!!)
鬼の王ゴトは苦渋の決断を下した。
「連れてこい。出来れば子もだ」




