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瓜子姫と天邪鬼の冒険譚  作者: らんた
十字と瓜子姫と天邪鬼
32/122

第九話

 ランのための住居を作るというのは都市を作ることと同義であった。まず、洞窟に結界を張って人間が間違って洞窟入っても別の次元に飛ぶように設定した。次に洞窟内で水道と下水道を曳き、炎の石で火を起こせるようにした。上下水道は雷の魔石によって動き、浄化槽まで設けていた。洞窟内の内装も三人で手掛けた。こうして天邪鬼がたった一人だけ住む地下都市が完成した。完成と同時に、ランは隠れ蓑を着ることを禁止された。

 ボタンを一つ押すだけで炎を自在に付けたり消したりすることが出来る魔の炎石と雷の魔石と浄化槽の整備費用や食料などはナラム、ホロムから買うこととなった。ゆえにランは樹を切り倒し、薪を売ることで生計を立てていた。ランは人間を偵察していた時代の生活から激変した。

 ランは生活が安定すると「瓜子姫らに手紙を送りたいと」ナラムやホロムにせがんだ。二人からダメだと拒まれ続けたが、書く事だけは許された。ナラムやホロムからもらった手紙の中身をカラムが確認すると瓜子姫に会いたいという内容だった。カラムは最終的に「よい」というの決断をした。


 「もし瓜子姫本人と瓜子姫の家族が許すのなら家族ごとこちらに来ていただくという条件で許そう」


 ホロムはカラムの命を受けてさっそく隠れ蓑を着て遠くの出雲国まで行った。そしてランに言われた通りの場所に向かうと、そこにはたしかに隠れキリシタンの里があった。里のものに瓜子姫の家を訪ねてやっとのことで瓜子姫に出会うことが出来た。瓜子姫の家の中でホロムはさっそくソラが書いた大量の手紙を瓜子姫に渡した。

 瓜子姫は手紙の壮絶な内容を読んで慟哭した。隠れ里を作った後に敵を討つべく天界に進撃して負けるだなんて……。でも私たちを助けてくれた鬼……。迷いは無かった。今度は私が救う番なのよ。


 「いいわ、私は行きます」


 「家族は本当に誰もいないんだね?」


 「ええ、まだ出会いはないわ」


 真っ赤になる瓜子姫。

 こうして後日ホロムは瓜子姫の分の隠れ蓑を信州から持ってきて、二人はランの居る洞窟に向かった。

 ランは信じられないものを目撃した。


 「あれは……まさか……」


 「ラン、久しぶり!」


 二人は抱き合った。もう言葉など要らなかった。

 後日、ランと瓜子姫は森を開拓しそこに阿弥陀堂を建設した。阿弥陀堂はどんどん大きくなりやがてお堂からお寺となった。もちろん阿弥陀像は表向きの話で天使メタトロンの札を中に貼っている。ここも隠れキリシタンの里だ。この辺一帯の地名を「一鬼」(ひとつおに)と呼んだ。天邪鬼ランがいる土地と言う意味だ。隠れキリシタン達は鬼を最初こそ恐れたものの、だんだん鬼と暮らすにつれて恐怖感は無くなって行った。

 ランと瓜子姫は結ばれ子供も出来、ランも瓜子姫も幸せな日々をかみしめた。子供の名前はリンという。鬼の血筋を半分引く半鬼族がこの世に誕生したのであった。ランと瓜子姫は監視兵ナラムを通じてリンのためにも洞窟ではなく里で暮らしたいと手紙でカラムに願い出た。カラムはこれを了承した。洞窟に張っていた結界は解除され洞窟は共同のトイレや調理場に改造され人間も自由に出入りが出来た。特に魔の炎石と雷の魔石の存在は極秘とされ、破った者は処刑とされた。幸いにも秘密を漏らすものは里からは出なかった。

 やがてナラム、ホロムは老齢の為兵役を引退し、二代目の監視兵はムラム、ワラムという鬼が監視にあたったが、二代目の監視兵からは直接人間の目に触れる監視を行うことを辞め、隠れ蓑を着て監視に当たった。

 ランと瓜子姫は瓜子姫との出会いと天邪鬼軍の進撃と敗北を阿弥陀堂の書院で書きあげた。タイトルは『天邪鬼の敗北』とした。

 人間の寿命は早い。瓜子姫は臨終の床につきそのまま永眠した。遅れる事約三十年、天邪鬼のランも臨終を迎えた。ランが永遠の眠りに付くと光が天井から差し、赤い珠が天空へと昇って行ったという。

 一鬼の里の者たちは天邪鬼と瓜子姫の墓にはそれぞれこう刻んだという。


 『十字を守った天邪鬼ここに眠る』

 『十字を守った瓜子姫ここに眠る』


 一鬼の里の者はランが永眠したのちも、地名を変えることが無かった。しかし、ランが死んだことにより純粋な天邪鬼族が里から居なくなったことをきっかけに魔の炎石と雷の魔石は天邪鬼から買えなくなり、浄化槽の整備も出来なくなった。そしてあまりにも人里かけ離れた場所の為、キリスト教の信仰が許された明治期には里の者はほとんど里から離れたため廃村となった。天邪鬼ランの墓と瓜子姫の墓は守る者が居なくなり大正時代にはとうとう無縁仏として破壊された。証言記録によると、墓の文字が全く読めないほど荒廃していたという。極めて珍しい鬼族の墓、それも天邪鬼一族の墓だということに誰も気が付かず貴重な歴史遺産を破壊してしまったことになる。

 まことか偶然か一鬼の里から数十キロ離れた場所に明治期に軽井沢が誕生しクリスチャンが集う避暑地となった。


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