第五話
ランが洞窟に戻る。門番に挨拶し転移ゲートで転移すると天空にある天邪鬼の村に戻る。村には規模からは似つかわしくない巨大な図書館や学校がある。出雲に住む天邪鬼の住処は天界でも地上界でも地下世界でもない。空界なのだ。村の長に挨拶に行った後に村にある神殿にたどり着く。
「メタトロン様、仕事が終わりました」
すると呼びかけに答えるかのように天から光が差し込む。
――ご苦労だった。……にしても私はコプト派以外ではキリスト教の天使ではない。ユダヤ教の天使だというのに……。
「嘘ではないでしょう。コプト派もキリスト教」
――その通り。
「仏教では阿弥陀様というのも真実」
――その通り……。
「メタトロン様。この辺一帯の天津神への信仰を削ぐことが出来ました」
――お主等はよくやっている。
「メタトロン様、約束を果たしていただきたいのですが」
――そのためにお主等に、特にお前には特別な力を授けたはずだが?
それを聞き遂げるとランは呪を唱えた。すると背中の衣服が破れ天使の翼が飛び出す。
「はい、メタトロン様。我々出雲に住む天邪鬼にこのような素晴らしい力を授けてくださいましてありがとうございます」
――地からの祈りのおかげで我も力がみなぎってくる。
――よかろう。そなたらに空の鳥舟の強化を行おうぞ。
すると、村の近くの神殿に向かって光を当てた。するとなんということだろう。神殿の天井が割れ隠してあった船が浮かぶではないか。船には南蛮から取り寄せた大砲も備えていた。魔法で砲撃する大砲に改造されていた。船はすべて鉄で覆われている。
――この地の天空の主、天照への進撃。成功を祈る。
「はい、メタトロン様」
そういって言葉が切れた。長が神殿に入る。
「おお、ついに聞き遂げられたのだな」
「はい、ソン長老」
ランは隠れ蓑を着ずに空を飛んでいる。ランの羽音が神殿に響く。ランの羽は己の皮膚と同じ紅色だ。
「長よ、進撃の合図を」
「おお! おまえら、ついに時が来た。高天原へ進撃するぞ!」
そういうと長は高台に上り角笛を鳴らす。村のあちこちで戦の鬨を発する。
それを聞き遂げるとランは呪を唱えた。ランの周りが真紅の色で渦まき、やがて渦は具現化していく。それは真紅の鎧と兜であった。角を誇らしげに突き、赤き翼を広げながら村の中央に向かう。
「我ら天邪鬼の屈辱の歴史が終わる。今こそ天空に進撃する!」
この声に村人が歓喜した。村人が次々呪文を唱えると翼を出し、鎧を具現化する。
ランは呪を唱え、赤色に光る剣を具現化させた。
「地上部隊、空の鳥舟の原動力は分かっているな!」
「はい、大元帥様。『Metatron』と書かれた札がある阿弥陀像から一.〇倍、普通の阿弥陀像から〇.五倍の神力を頂いて、浮上石を通じて浮上しています。砲撃もしかり」
「ならば話は早い。この地に隠れキリシタンもしくは阿弥陀信仰を増やすのだ。それと出雲国以外の天邪鬼もこの戦に参加せよと」
「承知……」
「参加すれば我らのように力を・・・翼と武具を授けてくださるのだと……」
「はっ! さっそくとりかかります」
「皆よ、我が大元帥でよいか!」
この声に鬨が木霊する。
「これより失地回復戦争を始める!」




