第四話
こうして迫害された人たちが次々集まって来た。阿弥陀如来像に『Metatron』と書かれた札を入れる。そして背後にXの文字を彫った。信者が安堵する。札の書き方もランに教わった。そして手渡されたものがあった。魔鏡だ。光を反射させるとなんと聖母マリアとキリストが現れるではないか。なんと国津神信仰に用いられたものを応用したという。天邪鬼、恐るべし。作り方も数日かけて教えてくれた。幸いここは銅山も近い。これからここは銅鏡の産地だけでなく魔鏡の産地となってもがき、あがき、ひねくれながら生きていく。文字通り製鉄民かつ天邪鬼として信仰を守りながら生きていくのだ。
ランは最後に「瓜子姫と天邪鬼」という物語を書き上げた。一つは自伝。もう一つは物語。
「瓜子姫。ぼくはお尋ね者だ。ここにも追手が来るかもしれない。残念ながらここでお別れだよ」
「そんな、ずっと居て!?」
「この物語を広めてほしいんだ」
「『瓜子姫と天邪鬼』ですって?」
「そう、僕が悪役。僕は君に嫉妬して輿入れの直前に柿の木に吊るして成り代わるが失敗するって話さ。失敗したあと僕は老夫婦に刀でずたずたにされる。もちろん物語では僕の性別も変えてる。本当の僕は女の子なのにね」
「まるで話が逆じゃない」
「そう。嘘も百回言ったら真実になる」
「要は僕が死んだというデマを撒いてほしんだ」
「そんなことできない」
「もう遅いよ。人間に成り代わった天邪鬼らがこの話を広めている」
「でも、真実の物語はここにずっと保管してほしんだ」
「ごめんなさい……」
「どうして泣くの?」
「私、何もあなたの力になれてない。あなたに助けられてばかり」
「じゃあ、今度は僕たちを助けて」
「えっ?」
「『鬼=devil』とか『鬼=demon』って訳を辞めてほしいんだ」
「僕たち鬼はキリスト教でいう悪魔かい?」
「違うわ!」
「じゃあ、こう訳してほしい。『hobgoblin』と」
「どういう意味?」
「善良な鬼の精霊って意味さ」
「この語が広まれば、鬼族の肩身が少し楽になるよ」
「私、広める。約束する」
「ありがとう。僕は死んだ。君を害する存在として僕は退治された。いいね?」
「幸せにね。いい男見つけて幸せになっておくれよ」
ランが旅立つと村の人が総出で見送る。
「ありがとう」
「ありがとう~」
「天邪鬼さんありがとう~!」
こうして隠れキリシタンの里が奥出雲のあちこちに出来た。
寺には阿弥陀だけでなく女の子の勇壮な灯篭鬼が彫られ、置かれたという。




