第七話
エトは道中襲ってきた白装束の者を次々切り殺す。たしかに瓜姫の血肉を得たことで瓜姫が被っていた黒の鬼面の力をも得たようだ。宿に居ても敵の気配を感じ取ることができる。四日かけて女川に戻った。瓜姫の姿を見てまたしても町の人は逃げる。瓜姫の正体は鬼と分かっているからなのだろう。エトは瓜姫がいた庵の戸を叩く。誰もいないので近所の神主の家の戸を叩いたら神主が出て来た。声で瓜姫ではなく、天邪鬼のエトだと分かると庵の方でいろいろとエトは顛末を話した。鬼面も和吉に返した。鬼面に埋めこまれた宝石の色はいつのまにか白色になっていた。さらにエトは巻物が入った袋を取り出し、被りの術の呪文が書かれている巻物も手渡した。和吉は全ての持ち物を確認してこう言った。
「最後の試練だな」
「はい」
「それでは瓜姫の両親に生贄が着たことを伝える」
そういうと和吉は庵を後にした。しばらくして和吉が戻る。
「しばらくの間、瓜姫の両親と暮らしてほしい。しばらくと言っても二~三日だ」
「なぜ?」
「相手が大地の婚礼の儀式を希望した」
「そう……か」
言われるままに瓜姫の家を案内されるエト。
「おじゃま……します」
「おじゃましますじゃないでしょ、ただいまでしょ」
温かみのある声が帰って来た。
「ぼくは……」
「いいのよ、今だけにして」
そういうと抱きしめられた。
「おかえり……」
両親の目には涙。それからいろいろもてなされた。瓜姫が生まれたときの話、どんな子供だったかを聞かされた。次の日、織機での織り方も教わった。最初はぎこちない音だったがだんだんと綺麗な音になった。
「あなたの晴れ舞台、たとえ嘘だとわかっていても見たかったの」
「明日、一緒に生贄の祭壇に行こうね」
エトは涙をこぼした。
一方そのころ狐鬼は村の外で敵を狐火で葬っていた。
「おまえらに邪魔はさせない!」
(友よ、あともう少しだな!)
次の日、村人総出で婚姻の儀を行う。鏡を借りて婚礼の化粧をし、輿に載せられるエト。晴れやかな声を出しながら村人は生贄の祭壇を目指す。なんと祭壇の場所は最初に泊まった浦宿の近所ではないか。
一行は石巻にある生贄の祭壇にやって来た。心臓を載せる台。蕎麦が植えられている小さな畑。エトは確認する。間違いない。ここだ。ここで俺は死ぬんだ。エトは裸になり生贄の御印がある布を敷いて布の上に座った。
「みんなありがとう」
エトはまた涙をこぼした。
「ごめんね。北の大地ではこうするしかないの」
「恨みっこなしだ」
そういうと父が刀を振り下す。エトは絶命した。父はエトの心臓を抉り出し祭壇に置くと血を畑にまく。すると心臓が輝きだし蕎麦に光が当たると蕎麦がぐんぐんと伸び、根の赤き色も増していった。
「生贄の旅は成功したぞ~!」
村人は歓喜した。父は歓喜の声を聴きながら祭壇の引き出しを開けた。天邪鬼らの骸骨が見えた。父はエトの亡骸を入れ、引き出しを閉めた。父はすべてを終えると遅れて歓喜の声を上げた。
引き出しを閉める音を聞くと狐鬼はその場を後にした。
狐鬼はしばらくして歩くと同じ狐面を被った男と出くわす。
「忘れ物だ。受け取れ」
受け取ったのは巻物。
「お前が頑張ってくれたおかげで俺は第二の監視者にならなくてよかったぜ、狐鬼」
「お前が長老になったら立派な鬼の村を作るんだぞ」
「すまねえ」
狐鬼を見送る狐面の男がそこにいた。




