表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瓜子姫と天邪鬼の冒険譚  作者: らんた
瓜子姫の似顔絵を描いた天邪鬼
110/122

瓜子姫の似顔絵を描いた天邪鬼

 病で子が次々あの世に旅立たれ老夫婦しか残っていない家があった。老夫婦の楽しみは瓜を育てること。そんなある日突然巨大化した瓜があった。あまりに気持ち悪いので中を開けようとすると突然ひびが入って瓜が割れた。


 中には女の子の赤子がいた。泣き叫ぶ赤子。


 「これは神様からの授かり子にちげえねえ!」


 「よかったではないですか、おじいさん」

 

 こうして二人は瓜を育てることになるのだが……。


 これは山形県酒田・山形県鶴岡に伝わる不思議なお話。


◆◇◆◇


瓜子姫はどんどん成長していく。しかし、あまりの可愛さに爺はまったく仕事せず瓜子姫を眺めては……。


 「萌え」というようになった。


 困り果てた婆は似顔絵を描くがうまく行かない。仕事が婆に集中し困り果てた。あまりに酷いので、近所の門客アラハバキ神社にお参りした。


すると……。


――使いの者をよこしてなんとかさせる。


 という声が。


 「ありがとうございます」


 婆は急いで家に戻った。次の日、婆が外に出て仕事している最中……。


 「ここを開けておくれ」という声がした。開けてみるとなんと鬼が居た。そのまま呪文を唱えると爺は寝込んでしまった。爺を寝かしつける。


 「君を助けてほしいと婆様に言われてやってきた」


 「僕は門客神の使い、天邪鬼のツネ」


 「爺が全く仕事しないんだね?」


 「そう、私が十歳になってからずっと『萌え』、『萌え』と意味不明なこと言ってるわ」

 

「そうか……じゃあ君の似顔絵でも書いて渡そうかな」


 「出来るの? 婆様は出来なかったわよ?」


「見てなって」


 そういうと呪文を唱え瓜子姫に浴びせる。瓜子姫から帰ってきた光をツネは紙を広げて筆を持って模写を始めた。まるで織機のような正確さだ! そして余りの猛スピード!


 「はい、出来た」


 それは模写というレベルを超えた写実絵だった。


 「この絵を爺に渡してやって」


 「ありがとう、鬼さん」


 「鬼さんじゃなくて俺の名前はツネな」


 「ツネさん、ありがとう」


◆◇◆◇


 爺は似顔絵を持ちながら仕事をようやくするようになった。


 「萌え……!」


 そう言いながら絵を見ながら仕事をする。そんな時強風が吹いて絵が飛んでしまった。


 「ああ~わしの瓜子姫ちゃんが!!」


 追いかけるが絵はどんどん遠くに飛ぶ。なんと酒田城内に紙が行ってしまった。


 「ああ……城内じゃわしの瓜子姫ちゃんが帰ってこない」


 そういってしょぼしょぼと帰って行った。


 結局またしても仕事をしなくなった爺さんの替わりに婆さんが仕事をすることとなり、婆さんは過労であの世に旅立ってしまった。


 葬式が行われ、墓に遺骨を納める。


 さすがにこの時ばかりは瓜子姫ちゃんなどと言わなかったが病気が再発するのに三日とかからなかった。


 一方城内に飛んだ紙はすぐ殿に献上された。


 「なんと、この娘は美しい」


 「ぜひ、わしの嫁にするのじゃ!!」


 「はっ!!」


 「瓜子姫ちゃんはわしの嫁……」


◆◇◆◇


 突然城主に仕える武士がやってきた。


 「瓜子姫を寄越せ!!」


 あまりの出来事に爺は逆らえなかった。こうして瓜子姫は城主の妻となった。瓜子姫はあまりのショックに笑えなくなった。


◆◇◆◇


 ……こうして3年。


 あまりに笑わなかった瓜子姫が栗が大好きということを聞きつけた殿は栗の行商人に成りすましたところ笑った。


 「瓜子ちゃん、萌え!!」


 しかし、この「萌え」という言葉を聞いた途端瓜子姫は背筋が凍る。この様子を空界から見ていた天邪鬼は思いました。


 ――このバカ殿がいる国なら殿に成りすまして国を奪えるぞ。


 こうして天邪鬼は地上に降り立ち行商人に成りすます。城下に来て念力を放つとさっそく瓜子姫は来た!


 ――姫、この城から出たい?


 ――え? 何この声?


 ――僕はあの時の天邪鬼だよ


 ――もう一回いうけど、このお城から出たい?


 「ええ!」


 即答であった。


 「わかった」

 

 栗売りの行商人に化けていた天邪鬼は念力で殿を呼び寄せる


 「殿が着たらとにかく笑うんだ、いいね!」


 「分かった!!」


 殿が着て瓜子姫が笑いだす。


 「殿、これが栗でございます」


 「どれどれ」


 栗を食べると殿は突然眠気に襲われ眠りだした。城門に居た兵士にも眠りの呪文を浴びせる。


 「さあ、姫。今だ。逃げるんだ」


 「ありがとう!」


 姫が城下を駆け抜ける。


 「さて、と」


 天邪鬼は殿の両手を握ると模倣の術を唱えた。天邪鬼の体が渦巻き体のあちこちで骨音が鳴りびびく。こうして天邪鬼は殿の姿に変わった。そして栗行商の姿の服装と殿の服装を交換させた。そして門番の眠りの呪文を解いた。


 「何をやっている。この不審な栗の行商人を追い出せ!」


 「はっ!!」


 「ちょ、ちょっと待って!! 私は殿だ!!」


 「殿なら、ここにいるではないか!!」


 「私は本物だ!! 辞めてくれ!!」


 こうして本物の殿は城から追い出された。


◆◇◆◇


 こうして天邪鬼は酒田城の城主に成りすました。


 お礼にと育て役の爺を呼び、宮家の待遇を言い渡し、報奨を与えた。門客神神社はこうして無人の神社から宮司のいる神社へとなった。


 次にこっそりと魔法の珠で空界にいる天邪鬼と連絡を取り合い、武勇に秀でたものを採用するという名目で次々城下に招いた。


(今だ!)


 そう言うと次々天邪鬼らは解除呪文を唱え人間に化けていた姿から本性を現わす。そして次々人間を切りつけた。


 「国、奪い取ったり!!」


 高らかに宣言する。


 もっとも周りの国々が攻めて来ないよう、城下の者共は暗殺に徹した。こうして酒田は人間に化けた鬼たちの楽園となった。爺と瓜子姫は宮司となってからは幸せな生活を送ったという。なぜか鬼たちは人間に危害を加えぬまま人間に成りすまして暮らしたそうな。


=終=


元伝承


山形県酒田地区に伝わる絵姿女房と瓜子姫伝承が合体した伝承である。ゆえに本当は天邪鬼は出てこないのだが、本作品は天邪鬼を登場させた。


栗売りの姿になって殿も真似してみたいとなって真似したら城下の門が閉じる時間になって城に帰れなくなったという間抜けな話が元伝承である。


そして爺が殿になりすまして高級な茶道具などを盗んで、それを売って、さらに宮司になってめでたしめでたしというのが元伝承である。


絵姿女房伝承は新潟、鳥取にも伝わる話である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ