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瓜子姫と天邪鬼の冒険譚  作者: らんた
瓜子姫と天邪鬼の冒険
1/122

~序~

 川から突然巨大な瓜を二つに割ったものの片方の上に赤ん坊が流されていたという。もう片方には何も載せられていなかった。村の長者はこの瓜に載せられた赤ん坊が女の子であることにはっと気がついたという。長者は女の子に恵まれなかったのでこの子を拾うことにした。この子を瓜子姫と名付けた。


(将来は殿様に嫁がせよう)


 また殿も長者が拾った異形の者に興味があった。瓜子姫には脇の下に羽があったのだ。見かけは人間にしか見えないが、実は人間ではない。そんな血筋の者を入れたらさぞかし我が国も強くなるやもしれん。最低でも見世物になるはず。

 こうして瓜子姫は成人するまで長者が預かることとなった。家ではいつ逃げ出すか分からぬため軟禁状態とされた。一日中暇では仕方ないし、穀つぶしになるため……。機織りの仕事を瓜子姫にさせた。家の者どもは瓜子姫には冷たく、中には化け物と叫ぶ者もいた。

 そんな中瓜子姫には唯一友人と呼べる者がいた。機織りの音に紛れていつもこっそり友人はやってくる。


 「おい、またやってきたぜ。人間って本当に催眠に弱いんだな」


 上には角が生えている。瓜子姫ですら同世代の人間よりも小さいというのにさらにこの友人は小さい。それもそのはず。この友人は天邪鬼なのだ。


「チャタテ! 今日も来てくれたのね」


「あたぼうよ。じゃあ遊ぼうか!」


 チャタテは女で小柄の鬼なのに力持ち。そして素早く山を駆け上がる。

チャタテが呪文を唱えて印を結ぶと突如空が割れた。二人は割れた空間に飛び込む。出てきた先は鬼たちが住む村であった。

相撲、太鼓、なんでもありの世界だった。おもちゃもいっぱい用意されていた。一面雪化粧になっていてもおかまいなく遊んでいた。

 瓜子姫が最初見たチャタテは怖かった。


(食われるのでは―!)


 そう思った。でも……。


 「人間なんてめったに俺たち食わないよ」


 と、チャタテは言った。

 いや、最初にこの村に来たときはいっその事この呪われた自分をチャタテに食べてほしかった。

 でもチャタテは「命を粗末にしちゃだめ!」と怒った。チャタテはめったに怒らない。でもその怒髪天を衝く怒りはまさに鬼だった。以来、瓜子姫はこの言葉は口に出してない。

 チャタテの親も天邪鬼だった。なんでこんなにやさしくしてくれるの?とも聞いた。帰ってきた答えは……。


 「人間を偵察してるからさ。今はそれしか言えないね」


 という答えだった。

 チャタテが瓜子姫の着物を脱がし、裏山の木に瓜子姫をくくりつけるなんてこともした。冗談がきつかった。鬼にとってはほんの冗談でも人間として生きてきた瓜子姫にとってそれは本気で殺されると思ったのだ。


 「しょうがないなあ」


 そう言って紐を解いて空中で二の腕ですくい取った。なんという早業だろう。そのあとチャタテは平手打ちを食らった。以後この手のいたずらはチャタテといえどもしていない。

 ほかにもチャタテらは弓や剣の使い方まで教えてくれた。瓜子姫は人の形をした蓑をばっさり切ったときは村中の鬼が喝采した。

 夕方の時刻になると、元にいた家の手前まで一気に空間を引き裂いて戻ってくる。チャタテが再び屋敷の者どもに催眠術をかける。それからこの穴を通して自分の部屋に入ればばれない。

 午前中は機織り。午後は場合によっては天邪鬼らと遊ぶ。それが瓜子姫の日常だった。


 「悪い鬼が来るかもしれないから留守中でも開けるな」


 と長者に言われたこともあった。だがそれは瓜子姫にとって見事に嘘だった。

 二人にとってそんな幸せな時間も長くは続かなかった。嫁入りするときがやってきたのだ。まだ瓜子姫は十二歳であった。そのことを長者から聞いて泣き崩れる瓜子姫。そのための着物も自分で織れと命じられたのだ。それが最後の機織りなのだという。

 午後になるといつも通り天邪鬼がやってきた。


 「辛気くせえな、何泣いてるんだよ。最初にあった時もただならぬ波動を感じておめえのとこに来たんだぜ」


 「私、嫁入りするんだって」


 お金のために売られる時が来たのだ。それが拾い子の宿命だ。


 「そうか……。いよいよなんだな。お前、最初に会った時の言葉、覚えてるか?」


 「え?」


 「覚えてないの?」


 「たしか、いざとなったら私の姿に成り代わって、身代りになるって」


 「そう。僕ら天邪鬼ってそういうことも出来る。でももう一つ言ったこと覚えてない?」


 「なんだっけ……?」


 「君の存在を食うに等しいってことさ」


 「あ……」


 「姿、声、形まで全部を真似るんだ。君という存在が消えるどころか僕が君になるんだよ。だから天邪鬼だってある意味で立派に人食い鬼なのさ。もっともたまに本当に人間を食う時もあるけれど。それは非常手段だね」


 (やっぱ、本当に人を喰うのね、鬼って)


 「もし、あんたに覚悟があるんだったら僕はあんたと成り代わるよ。そしてお前はあの村でしばらくの間平凡に生活するといい」


 (それは私の代わりに犠牲になるってこと!?)


 「どうする。人生の選択だよ?」


 長い時が流れた。今まで私がどのように扱われてきたのか。このまま城下に行って何されるのかは想像がつく。性のおもちゃにされるのだろう。おぞましかった。ようやく答えは決まった。


 「いいわ。私に成り代わって!」


 「本当にいいんだね?」 


 じっと瓜子姫を見つめる。


 「後悔しないんだね?」


 「うん!」


 「じゃあ待ってて。君の手を握るから」


 「こうでいいの?」


 お互いが手を握った。


 「目をつぶって。決して僕を見ないで」


 そう言うと呪文を唱えながらチャタテの周りが渦巻く。するとどんどんチャタテの薄く赤い色だった皮膚の色が私の皮膚と同じ色になっていく。

 それだけではなかった。

 関節が外れる時のあの鈍い音が部屋に響く。その壮絶な音に思わず瓜子姫が目を開けてチャタテの変貌の一部始終を見届けてしまった。

 チャタテの顔が骨音を響かせながらまるで捏ねられる粘土のように形が次々変わる。その顔は歓喜と苦痛が入り混じる壮絶な表情だった。チャタテは悦楽の笑みをゆがめながらくるりと目が裏返り白目を向いた。チャタテの全身の骨格も変化した。やがてチャタテが着ていた服が千切れ飛ぶ。チャタテの喉の部分もどんどん変わっていく。血肉が皮膚の中で踊る。さらに乳房が自分のものそっくりに変化していったのを瓜子姫は目撃した。チャタテの赤い瞳が黒に変わり、牙が消え、目がくるりと元に戻る。最後に角が頭の中に埋まるようにして消えた。こうしてチャタテは瓜子姫となった。変化が終わるとチャタテは握り締めた瓜子姫の手を放した。

 

 「あ……あ……ああ!」


 瓜子姫が大声を上げるところチャタテがあわてて口をふさぐ。


 「大声出すな! 催眠術が切れちまう。だから見るなって言ったのに」


 その声は瓜子姫の声と全く同じだった。背丈まで一緒だ。


 「これは模倣の術。人間に成り代わる術だよ。もうわかるよね、僕が外に出たらどうなるか」


 「あ……」


 「さあ、行こうか。僕は今日から君になるよ」


 本物の瓜子姫のほうは普段着だ。チャタテは瓜子姫が織った嫁入りする服を着た。そして穴から出てさっそく空間を切り裂き鬼の村に到着する。ただならぬ姿に一瞬唖然とするチャタテの親子。だが二人の姿を見て理解した。瓜二つだからだ。


 「お前行くんだね、修羅場に」


 「お父さん、お母さん、行ってきます」


 「わかったよ、絶対戻ってくるんだよ」


 親子が抱き合いながら涙する。


 「また、会えるんだよね?」


 (会えるさ!)


 (そう言いたかった。なのに……!)


 「分かるわけねーだろ! 俺が死んだら俺の分まで生きろって意味なんだぞ、この術は。これから俺はおまえの分まで命を懸けるんだぞ。だからお前なんか嫌いなんだ! お前なんかどっかに行っちまえ!」


 泣きながら去っていくチャタテ。

 再び空間を切り裂いて自分だけ戻って行った……。瓜子姫として。穴をくぐり瓜子姫が暮らしてた部屋に戻る。催眠の技を解き、機織りの前に座った。だが涙が止まらない。その場で号泣した。だがその声を聴いてもここでは誰も同情する者などここにはいなかった。

 この話は後世に曲解して伝わった瓜子姫と天邪鬼との真の物語である。

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