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番外編 過去の傷

ギリギリ0時投稿できました。

ギルベルトがクラウスに出会う過去編です。

いろいろな暴力表現がありますので、閲覧にご注意ください。

 ギルベルトは、幼い頃から人より優れた身体能力があった。

 魔法の発現も早く、12歳の魔力判定を待たずに風魔法の素質を開花させた。

 将来は、王都の騎士として身を立てられると、周囲が期待するほどには、才能が突出していた。


 ギルベルトの一家は平民であったが、親族は東の広大な領地を持つブルーメンタール侯爵家で、祖父が先代当主の従兄弟に当たった。


 恐らく一般の平民よりは裕福な暮らしをしていたが、ギルベルトが物心つく頃には本家との繋がりは無いに等しく、ギルベルトはある程度の作法を学ぶも、体を動かす方が好きだったので、およそ貴族とは縁遠い生活をしていた。

 ギルベルトの能力は父譲りで、鍛錬の手ほどきも父から教わった。父自身も領地騎士団でも屈指の実力者になれたと思われたが、父は左腕が不自由でしがない地方役人だった。腕が不自由な理由を、父の口から聞くことは無かった。


 そんな中、父が流行り病でこの世を去った。ギルベルトが14歳の時だ。

 父は、役人として病の収拾に奔走したが、その半ばで斃れたのだ。


 母とギルベルトは災禍を免れたが、父を亡くして、二人で糧を得ていかなければならなくなった。


 母はあまり体が丈夫な方ではないので、ギルベルトは無理をさせられないと、父方のなけなしの伝手で王都の騎士団の従騎士になることにした。従騎士は寮住まいで、食事は食堂でとれるようになっており、少ないながらもきちんと給与が出るのだ。


 本当は母の側に居て稼ぐ方が良かったが、この年齢で最も良い待遇だったのが従騎士だったのだ。自分が贅沢さえしなければ、それなりの仕送りが出来た。


 その後、王都の騎士団に無事入団でき、最初に付いた正騎士は、薄い伝手が元でブルーメンタール家三男のカルステンという男になった。


 カルステンは、父が生きていれば2歳下の33歳になる分隊長で、彼の下に付いた途端、陰湿な嫌がらせを受けるようになった。


 ギルベルトは後で知ったことだが、父はやはりというか、領地の騎士団にいたようだ。分家にも関わらず優秀であったため、先代当主から可愛がられ、王都の騎士団への近衛隊推薦を打診されていた。

 だが、直系を差し置いて台頭しそうな父を疎ましく思った現当主に、無理な魔物討伐の任務に駆り出され、18歳にして左腕が不自由になってしまい、騎士団引退を余儀なくされたようだった。


 そして、その父の代わりに王都へ出たのが、現在の上司であるカルステンだった。


 だが、カルステンは実力では到底近衛騎士にはなれず、現在は実家の高い爵位のお陰でこの隊に居るという訳だが、それでも分隊長止まりの実力だった。


 そんなこととは知らないギルベルトは、早く母に楽させたいがために、訓練に熱心に励んで実力を伸ばし、その整った容姿も相まってメキメキと頭角を現した。

 それが、その男の暗い感情を揺さぶるとは露ほどにも思わずに。


 カルステンの暴力は日常茶飯事だった。

 騎士団は元々荒っぽい職場ではあるが、ある日同期の友人に指摘され、自分に振るわれる暴力が常軌を逸していることに気付いた。


 目に見える場所へは加えられない暴力だが、その痕跡は浴室では隠しようもなく、すぐにその友人が自分の正騎士に相談したのだ。

 その正騎士が内部監査の第一騎士団へ報告し、事が明るみに出た。


 カルステンは、すぐさま尋問を受けるが、自分は親戚であり、才能あるギルベルトについ指導の熱が入ってしまった結果と説明した。

 そして、ギルベルトもそれに同意したため、この件は疑惑を残しつつ、カルステンへの口頭注意という軽いもので幕引きとなった。


 だがその裏では、カルステンはギルベルトの母に危害を加えることを仄めかして、虚偽の証言を強要したのだった。

 ギルベルトは、ただその言葉に従うしかなかった。


 配置換えも図られたが、カルステンは血縁であることを盾に取って、それをうやむやにした。血縁という下らないしがらみが、強固な壁となって立ち塞がったのだ。


 それからは、表立った暴力はなくなったが、その分陰湿な嫌がらせが悪化していった。

 食事を抜かれるくらいならまだいい方だった。


 身も心も疲れ果てたギルベルトだったが、そんな中でも手を差し伸べてくれる存在があった。ギルベルトへの暴力を発見した友人と、カルステンの尋問に当たった第一騎士団の副師団長だった。


 友人はヨハネスといい、副師団長はクラウス・アールスマイヤーと言った。

 副師団長は、燃えるような赤毛に珍しい金の目をした騎士の見本のような男だった。


 クラウスは、カルステンの罪を明らかに出来なかったことと、配置換えを実現できなかったことを悔やみ、ギルベルトを折に触れ助けてくれるようになったのだ。


 クラウスは、剣技も魔力も群を抜いており、25歳にして既に副師団長になっていた。

 何より、その人柄が彼の地位を確かなものしたのは間違いない。


 元は第三騎士団にいたが、拘束時間の長い第三騎士団から第一騎士団に移った。最も権威ある第一騎士団へ移っても、未だに気さくに第三騎士団に顔を出し、偉ぶるところが無い彼は、団内での評価は非常に高かった。


 だがカルステンは、自分を受け入れなかった場所にいる人間が、この団をよく訪れることが、自分を嘲られているように思え、クラウスを目の敵にしていたのだ。

 ギルベルトは、自分を虐げながらクラウスを罵るカルステンを何度も見ていた。


 カルステンの悪意が、自分や父、クラウスへの嫉妬から来ていることに、ギルベルトはようやく気付いたのだ。


 以前の同僚の気質を知っているクラウスは、出来るだけ目の届く所にカルステンを置いて、ギルベルトへの行為を抑制してくれていた。

 しかし、管轄の違うクラウスには限界があった。


 そんな中で、決定的な事件が起きた。


 長い遠征から戻り、遠征の最中に失敗を繰り返したカルステンは、全ての憤りをギルベルトへぶつけるように、不意討ちで殴り付け、自室に引き入れて襲ったのだ。

 団外でも有名になったギルベルトの容姿が仇になった。


 異変を察知したのはヨハネスで、帰還中も様子のおかしかったカルステンに気付き、上司へそれとなく報告していた。上司も二度と同じ過ちは繰り返すまいと、秘密裏にクラウスへ連絡を取り、到着してすぐにクラウスと共にギルベルトの保護に向かった。


 そして、部屋に着いた時、中から争う音が聞こえて、扉を蹴破って露になった光景に、クラウスは容赦なくカルステンを打ち据えたのだ。

 着衣はあったが、何を目的とした行為かは明らかだったからだ。


 カルステンは、未遂であっても今度こそ言い逃れは出来なかった。

 併せて、母親を人質に脅迫して暴力行為を隠匿していたことも明るみになり、騎士の身分を剥奪の上、多額の賠償を命じられ、領地から出ることを禁じられた。


 不名誉退役であるカルステンのいる間は、ブルーメンタール一族は王都への進出は望めないことになる。領地に帰っても、カルステンの居場所はなくなることは確実だった。


 処分の経緯の詳細はギルベルトの将来を思って伏せられたが、多くの人間がカルステンの横暴を知っていて納得したのだった。


 その後ギルベルトは、自分の進退を決めかねていた。

 騎士を続ける自信が無くなったからだが、それをクラウスが引き留めた。

 所属が違うにも関わらず、垣間見るギルベルトの素質は疑いようもないものだったからだ。


 当代でも屈指の強さを誇るクラウスの説得だからこそ、ギルベルトは自分の力を信じてみようと思えた。


 ギルベルトは、自ら前線への配置換えを志願した。

 そして、クラウスはその希望を尊重し、自分の知己である第一王子のジークフリートの陣営にギルベルトを託したのだ。


 騎士を続けることに憂いは無くなったものの、騎士となろうと思った最大の理由である、母のことを外して考えることは出来なかった。

 このままブルーメンタール領にいることは、決して母の為にはならないと分かっていたから。


 悩みに悩み、賠償で得た金を使って、任地の近くに母を呼び寄せ、静かな場所で療養させたいとクラウスに相談した。


 本当は、カルステンから得た金など使いたくはなかった。いっそ捨て去りたいくらいだったが、それを決意したのは、自分の矜持よりも、母の平穏の方がずっと大切だったからだ。

 それをギルベルトは、金の力に負けたと思っていたのだ。


「あなたは、俺を卑しいと思いますか?」

 怯えながら、ギルベルトはクラウスに尋ねた。


 苦悩を打ち明けるとクラウスは、まだ15歳で成長途中のギルベルトの頭にゆっくり手を置いた。


「賠償金は正当なもので、それを使うことは罪悪ではないことは第一に言っておく」

 そう言って、男でも見惚れるような笑みを浮かべ、大きな掌でギルベルトの頭をくしゃくしゃに撫でた。


「それでも、大切な者のために矜持を捨てられる人間が、この世の中にどれだけいるだろうか。だからこそ私は、お前の決断を誇らしいと思うよ」


 ギルベルトは、一時でもこの騎士が自分に関わってくれたことがどれだけ幸運なことか、誰に言われずとも分かった。


 物心がついて以来、初めて人前で泣いた。

 でもその涙は恥ずかしいものではないと、ギルベルトは思うことができた。

 クラウスがいつまでも温かく見守ってくれていたから。


 俺は、この人のようになりたい。


 初めて持つ憧れは、自分の中で宝石のようにいつまでも輝きを失わなかった。



 ギルベルトは、自分の未来が不確かながら無限であることを知り、その先にクラウスが信じた自分の姿を、必ず実現させると誓った。

ギルベルトの「人嫌い」というより「貴族嫌い」が何故起こったのか、その発端になる話です。

本編では第5話でサラッとディートに告白していますが、実はなかなかどぎつい経験をしていました。ある意味、ディートより虐げられていると思います。


この後、王太子になる前のジークフリートとの出会いと、叙爵後のエピソードを考えていますが、時間と戦いながら執筆していますので、取りあえず完結設定にしています。

投稿した際は、また閲覧をお願いします。


明るい話もそろそろ書きたいものです。

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