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1.大人とは

喜多町 氷子。


読みにくい名前だとも、あだ名が付けにくい名前だとも言われる。


けれども、自分の名前の愛着はそこそこあるし、不満だとは思っていない。


大学2年生。


昨年19歳、今年は晴れて大人の仲間入り。


成人年齢が引き下がったとはいえ、自分の中ではやっぱり、20歳が大人という感じがする。



「大人って何歳からだと思う?」



近くの床に座りこんで本を読んでいた幼馴染に問うと、秀麗な顔が怪訝そうにこちらを向いた。



「…………ん?なに、いきなり」


「や、なんとなく。大人って何歳からのイメージある?」


「…………んー。あんま考えたことないけど」



ゆらりと視線を動かして、薄い色の瞳が虚空を見つめるのを、眺める。



「……………20かな」


「18じゃなくて?」


「ん」


「ふうん……………なんで?」


「………なんとなく」


「まぁ私も同じだけど」


「何が?」


「ハタチが大人ってイメージ」


「あぁ」


「選挙権とかは18歳だけどさ、お酒飲めるのもタバコ吸えるのも20歳からじゃん。

煙草は煙いし匂いが生理的に受け付けないけど、お酒は一定の興味あり」


「俺はもう飲めるけどね」


「知ってる。いいなぁ、半年の差ってデカいわ」


「そんないいもんでもないよ」


「飲める人は皆そーゆーんですー」


話しながらずりずりと座ったまま距離を詰め、ふざけて軽く肩をぶつけたついでに思い切り体重をかける。


「そっちの方が酔ってるよね。ぶどう食べたから?」


「巨峰食べたから~!」


冗談を言い合って、クスリと笑い合う。




「でも、なんだかんだ、20歳が大人ってイメージだよねぇ。

なのに、なんでだろ。

私なんかもうすぐ20だけど全然大人って感じしない」


座り直し、苦笑した彼は栞を挟んで本を閉じた。

読書を中断させた事が気にかかったが、その意識も浚うように彼が言葉を続ける。


「確かにね。俺も大人かって聞かれると即答できない」


「………私も含め、年齢的にはもう成人でも相変わらず子供みたいな人もいるくらいだし、良くも悪くも。

高校くらいまで、かなり盲目的に20歳になったらゴリゴリに大人になる!って信じてたけど

成人してるってのと大人になってるのってのは必ずしもイコールじゃないってことだ…………」


ぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめて、ぽつりと呟く。


「未来が見えない………………」


「…………コレ?」


ひょいとベッドの上のぬいぐるみを掴んでこちらに向けてくる彼に、ゆらゆらと首を振りつつ抗議した。


「……違う……………」


「言ってる事とやってる事違うけど?」


差し出された生卵の某キャラクターをがっしりと掴みつつ、違う違うと首を振る。

そのままぬいぐるみに顔を埋めていると、苦笑したような気配が伝わってきた。





「憂鬱になった?」





あやすような響きの声は、変わりやすい私の感情をなだめるようだった。

気分屋で、おしゃべりで、自意識過剰で、承認欲求が強いと自覚のある私は、家族として付き合うにも、友人として付き合うにも、幼馴染として付き合うにも大変だろうなという思いはあるけれど、だからといって、そうそう自らの性質というものは変化しないもので。


こうして反省しないうっとおしさを晒しているわけである。


にもかかわらず、向かいに座る我が幼馴染は相も変わらず寛大だった。



「一緒に大人になれば良いよ。

未来なんてどんどん想像しづらくなってくものだし、俺だってまだわからないことだらけだ」


「……………………」


「一個ずつ目の前の事やってくしかないよ。

あと、今みたいに取り敢えず色々考える事が大事なんだってさ。

だから、大丈夫だよ」


「……………うん」


「アイス食べない?」


暗い考えと、行き止まり、堂々巡りになってしまう私の思考を読んだようにそう言って、優しい指がさらりと髪をすく。


「……………太るもん…………」


上目遣いに睨むと、苦笑が返ってきた。


「じゃ、要らない?」


「……………………食べる」



そうして、カップを手渡され、ぱくりと一口食べてしまえば、もう後は彼の読み通り。



「んま」



憂鬱な考え事は取り敢えず置いておいて、今はこの至福の味を楽しむことに集中したくなってしまう。

スプーンを咥えて、ちろりと隣を睨む。



「せっかく真面目に悩んでたのにどっか行っちゃった」



唇を尖らせても、抗議した相手はどこ吹く風。



「それは良かった」



そう言って、アイスクリームを食べながら笑っている。


食えないけれど、とびきり優しい、懐深き私の幼馴染。

彼と一緒に、こうして今日も日々は過ぎていく。

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