過去と未来 【月夜譚No.144】
近所の公園にある大木は、樹齢百年になるらしい。久し振りに立ち寄った公園の立て札を何気なく読んで、密かに驚く。
改めて枝葉を広げる樹を見上げると、幹はどっしりと頼もしく、分かれた枝もそれなりに太い。木漏れ日を受けながら、彼はほうっと感嘆の息を吐き出した。
言われてみれば、子どもの頃からこの樹と共に成長してきた。時には枝を足掛かりに上って下りられなくなったり、風に飛ばされた帽子が上の方で引っかかってしまったり、初めての失恋に根元で泣いたこともあった。
そっと手で触れると皺のように皮が凸凹としていて、仄かに温かさも伝わって、この樹も生きているのだと実感する。
樹齢なんて考えもしなかった。そこにあるのが当たり前で、日常の一部だったのだ。
だが、彼一人が顧みなくとも、この樹はずっとこの場に在り続けるのだろう。土に根を張り、公園と、地球と一体になった樹は、おいそれと朽ちることはないだろう。人間など、自然の前ではちっぽけなものなのだ。
けれど、きっと見守ってくれるだろう。これからの彼も、人類も、生まれてくる命も――。
彼は踵を返す。ベンチで待っている、大きなお腹を抱えた妻の許に歩き出す為に。