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3話『学校の七不思議と設定と生意気な後輩』

「キミは、学校の七不思議というものを知っているかな?」


 またか。

 先輩のいつもの突拍子もない質問にやれやれと資料を読む手を止め、ジロッと先輩に目を向ける。


「知っていますけど、それがどうかしたんですか?」

「ふむ、その知っているというのは、この学校での七不思議を知っている、ということかな?」


 この学校の七不思議?

 そんなの聞いたことがないと首を傾げると、先輩はニヤリを不敵な笑みを浮かべた。


「知らないようだな。そう、この学校にもあるんだよ……七不思議がね」


 制服の上からでも分かるぐらい豊満な胸を押し上げるように腕組みをした先輩は、楽しげに頬を緩ませる。

 聞いたこともない話に、少しだけ興味を惹かれた。


「へぇ、そうなんですね。んじゃ、仕事を続けましょうか」


 まぁ、興味を惹かれたとしても今は関係ない。仕事優先だ。

 先輩から資料の方に目を向けると、突然先輩がデスクを叩きながら立ち上がった。


「おいおいおい、ちょっと待て! どうしてそうなるんだ!? 気にならないのか、キミは!?」

「気になりますし興味もありますが、今は仕事中なので」

「えぇい! 本当にキミって奴は、本当に!」


 うがー、と頭を抱えながら地団駄を踏む先輩に、いつも通りため息を一つ。 

 本当に先輩は俺の前だと子供っぽいよな、と呆れながらチラッと先輩の方に顔を向けた。


「はぁ……それで? その七不思議がなんなんですか?」


 仕方なく話に乗っかってあげると、先輩はコホンと咳払いしてから満足げに何度か頷く。


「そうそう、それでいいんだ。まったく、キミは本当に素直じゃない。興味があるなら最初から素直に言えばいいんだ。あれだな、やっぱりキミはツンデ……」

「十秒以内に話して下さい。しないなら仕事をして下さい」


 先輩に付き合ってあげられるほど、俺は暇じゃない。仕事はまだ山積みで、早くやらないと前の二の舞になる。

 すると、先輩はウグッと呻いてから頬を膨らませて不貞腐れつつ、話し始めた。


「そもそも、七不思議とはどういうものなのか分かっているか?」

「怪談の類ですよね? メジャーなところで言うと、真夜中の音楽室でピアノが勝手に鳴り出す、とかですか?」

「うむ、有名な話だな。他にもトイレの花子さん、徘徊する人体模型、桜の木の下に死体が埋まっている、などもある」


 その辺りは俺も聞いたことがある。だけど、この学校での七不思議は聞いたことはない。

 先輩は片目を閉じながらニッと笑みを浮かべると、人差し指を立てた。


「だが、この学校での七不思議はそのどれとも違う、なんとも面白い話ばかりなんだ」

「へぇ、そうなんですね。例えばなんですか?」

「まずは、一つ目。真夜中の教室ですすり泣く女子生徒の幽霊、だ」


 意外としっかりした怪談話だった。

 感心している俺の態度を見た先輩は、満足そうに鼻を鳴らす。


「聞いた話だと、真夜中に学校に忘れ物を取りに来た生徒が、ある教室ですすり泣く女子生徒の声を聞いたらしい。その教室ではイジメにより一人の女子生徒が自殺をしていたようなのだ」

「本格的ですね。それで?」

「まぁまぁ、そう急かすな。その自殺した女子生徒は、どうやら生徒だけじゃなく教師からもイジメを受けていたようなのだ。そして、その教師は執拗にその女子生徒を責め立てていたらしい」

「……嫌な話ですね」

「私も同感だ。なんでも特に酷かったのが……その教師は給食を残しがちなその女子生徒に対し、食べ終わるまでずっとそのままにしていたようだ。授業中も、放課後も、真夜中になるまで、な」

「……ん?」


 話を聞いていて、引っ掛かるところがあった。

 首を傾げている俺を気にすることなく、先輩は話を続ける。


「そのせいで女子生徒は心を病み、自殺したようだ。その怨念が教室に残っていて、真夜中になるとすすり泣くその女子生徒の声が……」

「先輩」

「む? どうかしたか?」


 楽しく話しているところだけど、これだけは言っておきたい。


「この学校、給食ありませんよ?」


 俺の指摘に、先輩はピタリと動きを止めた。

 そう、この学校には給食はない。そもそも、高校で給食がある学校はそうそうない気がする。


「それに、この学校って十年近く前に出来たばかりですよね? その間、給食があったことは一度もないはずですが?」

「うぐ……」

「あと、もしもその話が本当だとして、真夜中の学校に忍び込む生徒がいるのは問題では? それと、イジメに加担していた教師がいたなんて、この学校の評判に関わりますよ」

「うぐぐ……」

「ですが、そういった話は聞いたことがありません。自殺した女子生徒の話も。隠蔽していた、という可能性もなくはないですけど……学校の七不思議として噂されるぐらいの隠蔽なら、すぐにバレて明るみになっていると思うんですけど」

「うぐぐぐぐぐぅぅ……」


 最初は本格的な怪談だと思っていたけど、話を聞いていくうちにツッコミどころが多すぎた。

 どんどん指摘していくと、先輩は顔を真っ赤にしながら悔しげにうめき声を上げる。


「結論、その怪談話は嘘ですね」


 最後にキッパリと言い放つと、先輩はデスクをバンッと叩いた。


「キミは! いつもいつも! そうやってすぐに論破してきて! つまらない! 非常につまらないぞ!?」

「だって設定に穴がありすぎますし。これ考えた人はもう少し設定を練ることを覚えた方がいいですね」

「むー! むーむーむー!」


 ため息混じりに肩をすくめると、先輩は駄々をこねる子供のようにデスクを何度も叩く。

 なんで先輩がそんなに怒っているのか疑問に思っていると、我に返った先輩は取り繕うように咳払いをした。


「コホン! ま、まぁ、たしかに? この話は無理があるなと私も最初からそう思っていたし? キミの言う通り、この話を考えた者はもう少し設定を練るのを覚えた方が、覚えた方が……いいと思う、なぁ……ッ!」

「どうかしました?」

「別に! 次だ! 次の話をしよう!」


 顔を真っ赤にしながら悔しがっているような様子の先輩は、次の話に入る。


「二つ目の七不思議。それは、真夜中に動く校長の像だ。これはだな……」

「この学校にそんな像はありません」


 はい、ダウト。この学校には校長の像なんて物は存在しない。

 俺の指摘にまた先輩はピタリと動きを止める。


「そ、そうだったか?」

「そうですよ。ちなみに、二宮金次郎の像もありません」


 よくある怪談話に出てくる、真夜中に動く二宮金次郎の像。それもこの学校にはない。

 はっきりと答えると、先輩は頬を膨らませながら涙目になっていた。


「どうかしました?」

「別に! 別になんでもない! 次だ! 次は、えっと、その……」


 何故か不貞腐れている先輩はプイッとソッポを向いて三つ目の七不思議を話そうとして、しどろもどろになり始める。

 困り顔だった先輩は突然パチンッと手を叩き、ニヤリと笑みを浮かべた。


「三つ目の七不思議。それはだな……異世界に繋がる教室だ」

「へぇ、異世界に」

「あぁ、そうだ! 夜中の三時きっかりにその教室に入ると、異世界に繋がるらしい。その異世界に足を踏み入れれば最後、その世界に引きずり込まれて二度と元の世界には戻れずに行方不明になる生徒が多数いるという話だ」


 二度と戻れずに行方不明に、ねぇ?


「それって、どうしてその話が広まったんですか? 異世界に行ったら戻れずに行方不明になるのに」


 また、先輩の動きが止まった。


「異世界に飛ばされて戻ってこれないなら、証言者が存在しなくないですか?」

「え、あ……」

「異世界に引きずり込まれるなら、そこにいたであろう生徒全員が戻れない。つまり、目撃者も証言者もいない。なのにそんな話が広まるなんておかしいですよね? てことはそれって、嘘ですよね?」

「ぐ、ぬ、うぅ……ッ!」


 悔しそうに歯を食いしばって黙り込んでいた先輩は、静かに椅子に腰掛ける。

 そして、そのままブツブツと何か独り言を呟いていた。


「なんだよぉ、そんなズバズバと言わなくてもいいじゃないかぁ。つまらない、本当に可愛げがない。どうしてこう、いつもいつも論破して私をイジメるんだこの後輩は……」

「それで? 他の四つはなんですか?」

「知らない! キミにはもう教えない!」


 プイッとそっぽを向いて不貞腐れる先輩に、ため息を一つ。

 ふと時計を見ると、帰る時間になっていた。

 立ち上がってカバンを持った俺は、頬を膨らませて不満そうにしている先輩に声をかける。


「俺はそろそろ帰りますね。戸締りよろしくお願いします」

「ふんッ! 勝手に帰ればいいだろ!」

「そうさせて貰いますね」


 ツンケンしている先輩を横切り、扉に手をかける。

 そして、ふと振り返りながら先輩に言い放った。


「それじゃあ、残りの四つの怪談話を思いついたら(・・・・・・)教えて下さいね」


 それだけ言って、生徒会室から出る。

 扉を閉めると、ガタンッと椅子が倒れる音が聞こえてきた。


「最初から分かってたなぁ!? この生意気後輩ぃぃぃッ!」


 先輩の叫び声に背中を向けて、俺はそのまま帰宅するのだった。

 

 

 

 

お読み頂きありがとうございます!


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また次回もお付き合い願います。

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