表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

転生

暗い。


視界が暗い。


あの女の子は大丈夫だっただろうか?


いや、きっと大丈夫だ。もし、また会えたらその時は笑顔で接してあげよう。


それにしても、なんだか凄い違和感を覚える。ただひたすら真っ暗な空間で、変化が起きる兆しがない。


それなのに、殴られた頭も全く痛くなければ、ちゃんとしっかり意識もある。


もうそろそろいつも見てる天井が見えてもいいんじゃないか?


いつもの様に、ズウズウしく太陽の光が入り込んできてもいいんですけど?

ちゃんと起きている自覚もあるし、目も開けているつもりだ。

それに、意図的に手を動かすこともできる。

だが、動かせる範囲が非常に限られてる様な気もする。



まだ夜中なのか? 

それともまだ夢の中?


疑問だらけではあったが、俺の意識がはっきりする前も、こんな状態が長い間続いていた様な気もする。


それになんだかとても暖かい。

人肌? といっていいのだろか。

妙に懐かしさを覚える。

まるで海の中にいるような安心感で満たされているし、宙に浮いている様にも感じる。


本当にここは病院なんだろうか?


最新型かなんかの治療ポットにでも入ってるのか?

あれか?七つの玉を集める漫画に出てくる、メディカルマシーンとかいうポットの中とか?

復活したら、身体能力上がっちゃってました的な?


さっきバットで殴られた様には思えない程、俺は頭をフル回転させて考えを巡らす。


しばらくすると、なにやら人の声が聞こえてきた。

友達か?

見舞いしにきてくれたのだろうか。

なんだよ、良い奴らだな。

やっぱ持つべきは友達だよな。


だが、聞こえてくるその声は今まで聞いたことがない言葉だった。


専門用語か?


しかし、その言葉は英語でも中国語でもなく、ましてや日本語でもなかった。

そして、次の瞬間大きな声が頭に直接響いてきた。


うわ、なんだよ!うるせぇな!

女の人の声だろうか。

まさか、あの虐待女ではあるまい。


その声は何やら痛みを感じているようにも聞こえる。


すると突然視界に光が差し込んできた。


うわ! 眩しい!


咄嗟に眼をつぶる。

そして、それと同時に呼吸をするのがしんどくなってきた。


ん? そもそも今まで、俺息してたのか?


いや、そんなことより急に呼吸がっ……。

苦しいっ……。


息を吸わねえとっっ!

いや、吐くのか? あー、考えてる場合か!

やべぇ死ぬっ!


とりあえず成すがままに勢いよく大きく口を開けた。


「あぁぁぁぁ〜っ!」


うわ、声出しちまった!


だが、そのおかげか随分と楽になり、もう普通に呼吸ができる。


ふぅ〜、しかし苦しかった。


ん? でも今の声、俺が出したわけじゃねえよな?


聞いたことがない声だった。


そんなことを思いながらも、ふと天井に目をやる。知らない天井だ。


まぁ病院だし当たり前か。


それにしても、どれだけ長い間眠っていたのだろうか。

もう全く体も痛まない。


ふと目を開けると、周りには見知らぬ男女の顔が俺を囲んでいた。

それもそのうち2人はまだ少女と言っても良いくらい、幼く見える。

顔立ちは皆外国人に近く、日本人とは言い難い。

するとしばらくこちらを見つめていた4人は感極まった様子で、口々に喋り始めた。

2人の少女は手を繋いで喜び合い、もう1人の女性と、この中で唯一の男性は、お互い顔を見合わせた微笑んだ後、何やら俺に話しかけてきた。それも、涙を流しながら笑顔でだ。

だが、何を言っているのかさっぱり分からないが。


まぁ、そりゃぁ死にかけていたからな。

でも、病院の人とはいえ、こんな泣きながら喜んでくれるものなのか?


身内ならともかく、俺はただの他人だぜ?


前に骨折して治った時は、看護婦さんに

「はい、治りましたよー。良かったですねー。」と言い慣れた台詞のように軽くあしらわれ、あまり治った実感がないまま病院を去ったのを覚えている。


まぁ、今回のこの対応は悪い気はしないが。

むしろこちらも嬉しくなる。


すると、フッと自分の体が宙に浮いた。

いや、持ち上げられたといった方が正解か。

それもいとも簡単にだ。


俺の体重は55キロほどあるが、こんな簡単に持ち上げられたのは初めてだ。

俺を持ち上げた男性は少しも力を込めている素振りを見せず、しかも、何故か変顔を俺に連発してくる。何の冗談だ?なにかの診断だろうか?


だが、それにしても簡単に持ち上げられた。

それもだいぶ高く持ち上げられている感じがする。

そして、ひたすら話しかけられるが、未だに何を言っているのか分からない。


そんなことをあれこれ考えながらも、ようやく改めて周りをしっかりと認識する。


さっきは気にしていなかったが、病院の割には、デザインの凝った家具が置いてあるし、天井や柱はなかなか味のある木製建築だ。

どことなく裕福な家にも見える。


それに、病院独特のあの薬っぽい匂いもしない。

むしろほのかに香るヒノキの様な香りでいっぱいで、なんだかとても心が落ち着く。


それに俺を抱きかかえた男性を含め、周りにいる人々の服装も看護師が着用しているものとも、医者の白衣とも違う。


ましてや、友達や家族がいつも着ている、現代風のファッションブランド、ユニ○ロやG○Pとも違う。

男性は革製のベストに、これは麻だろうか?

どっかの先住民族が着ていそうな服だ。

そう、日本でいうならアイヌ民族の様な。

胸のあたりに何かの文様が幾つも描かれている。


まさか、北海道の病院か?

空きがなくてはるか地方まで飛ばされましたとか?


いや、そんな話は聞いたことない。

てゆうか、移動中に死ぬだろ。


他の3人の女の人も同じ様な服装だ。


そのうちの1人は俺が持ち上げられた場所であろう、ベッドのようなところに仰向けで女の人が寝転がっている。


おいおい、そこは病人が寝る場所だぞ?

病院のベッドに寝てみたい気持ちはわかるが、そんなあからさまに横になるなよな。


その女性はまだ涙ぐみながら、こちらを微笑ましく見つめている。


おぉぉぅ、それにしても美しい。


向けられた眼差しに身悶えさせられながらも、やはり何かが引っかかる。


別に、何か見たこともないものが目の前にあったわけではない。

一度は目にしたことのあるものが、目の前にある。

それも普段見ている様な、日常的なものだ。


だが、少なくとも俺がイメージしている病院にあるものでもなく、人々の雰囲気も俺が知っている病気のそれとは全く違っていた。


「うぅぅ〜、んぃ?」


ふと再び自分が出した声を聞き、明らかな違和感を覚えた。さっき聞いた声と同じだ。


だが、今のは明らかに自分の喉から発せられた声だった。


思わず喉を触ろうと手を動かす。


その時自分の手が視界に入り、驚愕した。


小さい。

小さすぎたのだ。その手は。


筋肉が落ちるとここまで小さくなるのか?

一瞬そう思ったが、そんなわけあるか。


その手は、今まで見慣れた普段の自分の手と余りに違っていた。


そしてもう一度周りを見渡し、確信した。

ここは病院ではないと。


そして、この体は自分のものではない。

いや、自分で実際に手を動かそうと思えばできるので自分の体ではあるのだが。


正確には、自分の知っている体ではなかった。


この体は客観的に見たことがある。

そして、過去に自分もこの様な体だったのだろう。


そう、それは、正に赤ん坊の体そのものだったのだ。


現実を受け入れられず、またまたもう一度周りを見渡した。そして、やっと理解した。

この場所、この状況は今まで自分が普段過ごしてきた場所や、知っている人々ではないと。


全くの違う世界だと。


異世界。

うん、そう、しっくりきた。


異世界だと!


俺はもう一度赤ん坊の頃に戻ってしまったのだ。

いや、戻ったというのは正しい表現でではない気がする。

全く別の肉体を得て、「生まれ変わった」と言うのが相応しいか。


そういえば、アニメやラノベで何回かこんなシチュエーションを観たり読んだことがある。


まさかとは思うが。


いや、もうこれしかないだろう。


本当は夢なのかもしれないが、この状況を納得するには、お得意の妄想やファンタジーで片付けるしかない。


そう、これはきっと……あれだ。


俺はもう一度目を瞑って深く呼吸をして、

確信した。


俺は転生したのだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ