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「日常」という名の檻から脱して

朝、目が覚める。


「はぁ、またか……」


昨日と同じ台詞を口にする。

また、大して刺激のないなんとも言えない1日が始まる。


親が滅多にいないからか、一般の家庭より規律やセキュリティは甘いため、俺は週に1.2回程夜の街へと足を運ぶ。


夜の街はもちろん危険もあるが、昼には見れない街の一面が覗ける感じがして、非日常を体験している気分になる。


ただ毎日行くと、それも日常とかしてしまうので、感覚を開けて不定期に夜の街へ行くようにしている。


今日は少し気が向いたので、東京の夜の街へと足を運んだ。

もうすぐ夜中の24時を回るころだが、夜の街はここからが本番だ。


東京の夜の顔は刺激を求めようと思ったらいくらでも体験できる。


もちろん、危険なことはしたくないが。


今日もいつも通り、周りで起きている出来事を眺めながら、できる限り巻き添えを喰らわないように歩く。 


夜の街はとてもキラキラとしていて、パッとみ輝いて見えるが、その光の分だけ影もある。


酔い尽くして、落書きだらけのブロック塀によたれかかっている者。


ふと、視線をズラせば、道の端でうづくまり、何やらキラキラしたものを口から出している者。


通行人に、なにやら怪しい袋を押し付けている者。


裏路地からは猫の喧嘩の声と共に、毎度お馴染みヤクザかなんかのガラの悪い兄ちゃん数人が、二人のギャルっぽい女の子を取り囲んでいる。


どれも、見たことのある風景だ。


俺は一通りスルーしながら、大きなあくびをしてのんびりと夜の街を歩いていく。


その時、俺の足元にドンッと何かがぶつかってきた。


ふと目をやると、7.8歳くらいだろうか?

肩ほどまであるすこし茶髪のボサボサな髪をした女の子が、目を真っ赤に腫らして涙目で俺を見上げていた。

そして、震える声で

「あ……助けて、お兄ちゃんっ!」

と俺に言ってきた。


なんでこんな時間にこんな小さい女の子が……。

助けてって、何からだ?

わけがわからずそう思いながらも、俺はその女の子に目線を合わせてしゃがんだ。


「どうした?ダメじゃないかこんな夜中に出歩いちゃ。」


すると、二人組の男と女がこちらに向かって走ってきた。


「探したわよ、つぐむ!ふざけんじゃないわよ!手間かけさせんな、このガキ!」 


この子はつぐむと言うのか。

それにしても、なんとも口の悪い女だ。


男の方は、どこのヤクザだろうか。女の連れだろう。もしかしたらこの子の父親か?

俺と同じ金髪で、オールバックの髪型。

肩幅は広く、えらくガタイも良い。

タンクトップ一枚で、両腕には大きな入れ墨が掘ってあり、手には金属バットを持っている


おいおい、なんでこんな小さい子相手にそんな物騒なもん持ってんだよ。


俺にしがみついていた女の子は、よりいっそう俺にしがみつく。

体も震えている。


「あの……娘さんですか?

なんか、すごい怖がってるようですけど、

何かあったんですか?」


少し面倒臭いなとも思いながら、二人に話しかける。


「ハァ?あんた何?

ヒョロそうなガキが、あたしの娘にちょっかい出してんじゃねぇよ。あんたには関係ないでしょ!」


なんとも口の聞き方がなってない女だ。

俺より年上なのは確かだが、それでもまだ20代前半だろう。

男の方は、何も答えずにガンを飛ばしてきている。


俺は女の口調にかなりイラッときたが、女はそんな俺にはお構いなしに、俺にしがみついている女の子の襟元を掴んで、乱暴に引き剥がして引きずる様に連れて行こうとした。


その女の子は恐怖のあまり、声を出そうにも出せない様子だ。必死の目つきで俺を見る。


あぁ。虐待か。


女の言動と、女の子に対する行動を見れば一目瞭然だった。

改めて女の子の全身を見ると、薄汚れたシャツから見え隠れする肌は、ところどころ青くなっており、靴もボロボロだった。


今時こんなクソ親が存在するのか。

この人通りがある大通りでも、何一つ構うことなく子供や俺に罵声を浴びせるのだ。

おそらく、今回のような事も一度や二度ではないのだろう。

てゆうか、よく捕まらないな。

そう思いながらも、これ以上は関わりたくないなと考えてしまう。


刺激は欲しいが、危険な目にはあいたくない。なんともまぁ都合の良いことだ。

自分でもそう思う。

だが、次の瞬間、一瞬でその考えは消し飛んだ。


「お兄ちゃんっ!」


引きずられて目に涙を溜めながらも、女の子は俺を呼び叫んだ。その声は必死に助けを求めていた。


「あのっ!待ってください!」


そして俺は思わず、その女と男を呼び止めていた。


「はぁ?なんなの?」


あーっ。何言ってんだよ俺。

そう思いながら頭を掻きむしる。


「あの、その子すごい嫌がってるじゃないですか!

それにとても怯えてますよ。親ですよね?

少しは子供のことを考えて……」


「はぁっ!だからあんたには関係ないでしょ?これはうちの問題なの!部外者が口挟んできてんじゃないわよっ!」


食い気味で、さっきより大声を上げて、女は俺に突っかかってくる。

あー、これは薬やってるかもな。

一気にヒスになり暴れ出す様子をみて俺は思う。

これはだめだ。

とんでもなく家庭環境が悪そうだ。


「あんた、さっきからなんなわけ!?

ガキの分際でいっちょづらに説教??

次なんか言ってみな!その口聞けなくしてやるよ!」


「いや、でもっ、やっぱり子供のことは親ならきちんと考えてっっ……!?」


次の瞬間、俺の目線は一気に地面に向いた。

はっ?

そして、赤いものがポタポタと地面に滴り落ちている。

なんだ?血か?

誰の血だ?

いや、これは俺の血だ。


一瞬のことすぎて、頭がパニックになる。

だが、すぐに理解した。


男に殴られたのだ。

それも金属バットで躊躇なく。


「次はねえって言ったろ?」


男はバットを握りしめて俺に言う。


おいおいマジかよ。


女はフンっと俺を嘲笑うように見下している。女の子は俺の方に駆け寄ってくるが、男に突き飛ばされた。

周りを見渡しても、誰も助けようとする大人はいない。

みんな素通り、あるいは見て見ぬフリをする。

これも、夜の街の特徴だ。

いや、これは現代の社会全体を表しているか。


「てめえちょっと面かせ」


男に首元を引っ張られて、抵抗する間もなく人通りのある明るい大通りから、側にある人目の無い裏路地へと連れていかれる。


「お兄ちゃんっ!」


「あんたは大人しくしてろよっ!」


女の子は女に再び捕まれ、二発ほどその場で殴られた。


「ぐっ、んにゃろっ!」


その光景を目にし、男から手を振り解こうとしたが、「じっとしろやぁ!」と腹にパンチをお見舞いされ悶絶する。


男に目を向けようとした瞬間、顔面を殴られる。

立て続けに、何発も思いっきり殴られる。


痛ってぇ。


俺はなす術もなくひたすら男に殴られ続け、硬いコンクリートに倒れ込んだ。

意識が朦朧とする。

何箇所か複雑骨折してるだろう。

再び男は金属バットを手にして、俺の頭を一発打ちつける。


「ぐっ、てんめぇ!」


俺は血が流れるのを感じながらも、バットを掴んで、そのまま男を引き寄せて顔面を一発殴る。

だが、軽かったのか男は怯まず、俺を担ぎ上げて再び硬いコンクリートに叩きつける。


「ガハッ!!」


体全体に痛みが走る。

息ができない。

あー、これは完全にアウトだ。

全身骨折してるな。これ下手すりゃ内臓も潰れてるか?

そう思ったその時、サイレン音が聴こえてきて、大通りの方が何やら赤い光でいっぱいになる。警察だ。

先程の口論をみて、誰かが通報してくれたのだろう。


警官が5.6人程降りてきて、女がわめきながらも、取り押さえられているのがぼんやりと見える。女の子は女から引き離され、女性の警官に保護されている。

男の方にも、警官が3人ほど駆け寄ってきた。

男は抵抗しようとバットを振り回していたが、直ぐに取り押さえられた。


2人の警官が俺に駆け寄り、

「大丈夫ですか!」

「もしもーし!意識はありますか?しっかりしてください!」

と、しきりに声を掛けてくる。



「あのっ、女の子は……」

俺は声を絞るようにして、尋ねた。


「大丈夫ですよ!無事です!

とりあえず通行人から軽くお話は聞いているので、女の子の両親を詳しく取り調べした後お子さんを両親に引き渡そうと思います。」


「いや、それじゃ、ダメなんですっ……。

あの子、ひどい……虐待を受けています……」


今にも意識が飛びそうだが、なんとか声を出して警察に伝える。

ああゆうタチの悪い大人は、どんなに事情聴取や取り調べをしたって、適当に流してしまうものだ。そうなったら、また女の子は前と変わらない虐待を受け続けることになるだろう。


俺は必死に、真実を伝えようと警官に手を伸ばす。

「あ、あまり動かないで下さい!」

そう、言われたものの、俺はゆっくり立ち上がって、1人の警官の両肩を捕まえる。

頭がふらふらする。それにかなりの量出血しているだろう。


俺の行動に押されたのか、

「あっ……分かりました。とりあえず女の子にしっかり話を聞いて、結果次第で児童養護施設に保護して頂こうと思います。なので、心配しないでください。もうすぐ、救急車が来るので安静に……」と言ってくれた。


「お願いします……っ」


その途端、安心感と同時に体の力が抜けた。

警官の声が遠くなっていく。

ふと大通りに目をやると、女性警官に抱きついていた女の子が、俺のそばまで駆け寄ってくるのが見えた。


女の子は、警官に支えられた俺の耳元までやってきてそっと俺に耳打ちしてきた。

「ありがとう」と言われた気がしたが、もうその時の俺はあまり聴こえていなかった。


まぁとりあえずこれでよかったんだ。

ハハッ、今日は非日常すぎたな。


なんてことを考えながらも、俺はゆっくりと瞼を閉じる。


痛みはもう感じない。それになにやら心地よい感覚だ。不思議だ。さっきまで全身が痛んで苦痛で仕方なかったのに。


遠のく意識の中、なんとなくだが俺は悟った。




「あ、これ、もしかして死んだか?」




そして、意識が無くなると共にあらゆる感覚が遮断され、目の前には暗闇が広がった。

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