プロローグ
この世界に生まれて、これまで歩んできた道を、俺はふと振り返る。
本当に色んなことがあった。
全ての始まりは、ある一人の従者だ。
俺にとって大切な人だ。
あの日を俺は忘れない。
俺の運命の歯車がそこから動いた。
そして彼女の存在がいつも俺の心の中にあったから、いつも彼女のことを忘れなかったから、俺はここまでくることができた。
「◯◯◯◯!はやく!」
「おう!今行く!」
俺はこの世界に転生できてよかった。
心の底からそう思う。
転生したらもう一度。
この世界で、この人たちとまた同じ人生を歩みたい。
そう思いながら、俺は声のする方へと歩いていった。
これは俺がここに辿り着くまでの、普通の日常に退屈していた少年が歩んだ、第二の人生の物語だ。
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2021年
東京。
朝、目が覚める。
「はぁ、またか……」
また、同じ天井。
1日の始まりに目にする天井だ。
俺はカーテンを開けた。
眩しい太陽の光が「おはよう!」と言わんばかりに、一気に自分の視界に入ってくる。
あー、うるせぇよ。
少し静かにしろ。
ありがたい日の光に向かって、朝からそんな悪態をつく。
いつも思うのだが、もう少し静かに視界に入ってきて欲しいものだ。お前は刺激が強すぎるんだよ。
だが、太陽の光はそんなことはお構いなしに、俺の気持ちが沈んでようが、ズシズシと土足で上がり込んでくる。
そんな太陽の光に不満を持ちながらも、また普段と変わらない、なんの変哲もない日常が始まる。
寝癖でボサボサになった金髪の髪を水とクシのコンビネーションで雑に整えて、顔を洗う。
いつもの様にリビングのテーブルに用意されていた朝食を食べ、手紙と共に置いてあった一万円を握りしめて家を出た。
両親は共働きで家にほとんどいないので、ほぼ顔を合わすことはない。
こんな生活を続けている俺はいつも考えていることがある。
この生活の先に何があるんだろうか?と。
別に将来やりたいことも特にないので、当然自分の未来にもあまり期待はしてない。
だが、俺は一体何のために生きているのだろうかと自問自答する日々が続いている。
この日常に、この世界に、満足していない自分が常にいる。
退屈していると言った方がいいのかもしれない。
いつもの様に学校に行き、いつもの様に友人と喋って、いつもの様に勉強して、いつもの様にご飯を食べて寝る。そんな当たり前の日々に退屈しているのだ。
こんなことを言うと、日々平和に生きていられることに感謝しろ!と誰かに怒られそうだが。
ここらで、学校の先輩が急に告白してきたり、小さい頃に一緒に遊んでいた幼馴染みが突然訪ねてきて、良い関係になっちゃって、ムフフみたいなのがあれば、この思考回路もマシになりそうだが、そんな展開が訪れる気配はない。
まあ、相手ができたところで、それすらも退屈と思ってしまいそうだが。
そんな日常が少しでも変わったらと、高校デビューするやいなや、髪を金髪に染めて耳にピアスをあけた。
見た目は完璧に不良だ。
その影響で、最初は周りから色々と反応されたが、不良になったわけでもなく、ちゃんと学校に行って普通の生活をしていくうちに、周りの人も、黒髪の時の俺と変わらずに接してくるようになり、これまで過ごしてきた生活と変わらなくなった。
髪を染めたところで、日常は何一つ変化しなかった。
いっそ誰か殺してみようか。
何回もそう思ったことがある。
だが、それをすれば後戻りができなくなると分かっているし、牢獄にでも入ったらそれこそ今よりひどく退屈な普通の「日常」を過ごすことになるのだ。
さすがにそれは嫌だった。
こんなことを、何度も考えている自分のひねくれた思考回路にうんざりするが、それを含めた上で今の俺の日常は成り立っている。
「はぁ、異世界とかあんのかなぁ……」
学校の帰り道、東京のビル街から覗く青空を見上げて、ボソッと呟く。
この言葉も今じゃ日常の一部だ。
また今日も無気力に生産性のない1日を過ごし、誰もいない家に帰ってベッドにはいる。
そうして俺の一日は今日も終わりを告げた。