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ショートショート12月~

おいしい食べ物

作者: たかさば

おいしい食べ物があったそうな。


土の上に生えた、大きな木に、たくさんできる、おいしい食べ物があったそうな。


みんなが仲良く分けあって、おいしく食べておったそうな。


「うーんおいしい、うまうま!!」

「おいしいねえ!」

「ほんとおいしい、しあわせー!」


ある時見たことのない子がやってきたそうな。


「ねえねえ、これおいしいよ、食べる?」


みんなはおいしい食べ物を分け与えたそうな。


「・・・おいしくない。」


見たことのない子は、一口食べて、おいしいものを放り投げたそうな。


「こんなにおいしいのに、食べないの?」

「こんなにおいしいのに、おいしくないの?」


みんなはおいしいと思って喜んで食べていたものが捨てられたのを見て、いやな気持ちになったそうな。


「こんなまずいものがおいしいなんて信じられない。」


みんなはおいしいと思って喜んで食べていたものがまずいと言われて、いやな気持ちになったそうな。


「よく考えてみて、ほんとうにこれ、おいしい?」


みんなはおいしいと思って喜んで食べていたものが本当においしいのかわからなくなってしまったそうな。


「これがおいしいとばかり思っていたけど。」

「ひょっとしたら、おいしくないのかもしれない。」

「食べられるから喜んでただけなのかもしれない。」

「おなかが空いているからうれしかったのかもしれない。」

「ほかにもおいしいものがあるのかもしれない。」

「おいしいものってどんなものだろう。」


おいしい食べ物と思っていたものが、おいしくないらしいことを知ったみんなは、おいしい食べ物が食べたくなったそうな。


「ねえねえ、君はおいしい食べ物を知っているの。」


知らない子は首を振ったそうな。


「ううん、おいしいと思えるものには、出会っていないから、探して旅をしているの。」


知らない子は、美味しいものを求めて旅をする人だったそうな。


「じゃあ、おいしいものを見つけたら、僕たちにも教えてね!」

「私達にも食べさせてね!」


「うん、わかった。」


知らない子は、美味しいものを求めて、旅立っていったそうな。


みんなは、あまりおいしくないものを食べて、仲良く暮らしていたそうな。


「これはおいしくないね。」

「でもおなかが空いてるから食べないと、」

「おいしいもの、たべたいね。」

「おいしいものって、いつ食べられるんだろうね。」


みんなは、あまりおいしくないものを食べながらも、幸せに暮らしていたそうな。


ある時、ようやく、おいしいものを探して旅に出ていた知らない子が帰ってきたそうな。


「おいしいもの、見つけたよ。」


みんなは、やっとおいしいものが食べられると大喜びしたそうな。


「ねえねえ、おいしいものって、どんなもの?」

「おいしいもの、たべさせて!」

「おいしいもの、食べたいよう!」


知らない子が、小さな粒を六個、差し出したそうな。


「これがおいしい食べ物…。」


みんなは一粒づつ手に取って、せーので口に入れたそうな。


「おいしい・・・?」

「これが、おいしいもの…。」

「あまくて、ちょっと苦い?」

「口が、ビリビリする?」

「ふわふわする味らね。」

「にゃんか、ねむくなりゅあじら・・・。」


みんなは幸せそうな顔をして、眠ってしまったそうな。


眠りこけるみんなの口から、ぽっこぽっこと何かが出てきたそうな。


「これがおいしいのよ、すごくおいしいの。」


ずるっちゅ、ずるっちゅ、ずるずる、ごっくん。

ずるっちゅ、ずるっちゅ、ずるずる、ごっくん。


「ああ、ほんとうにおいしい、すごくおいしい。」

「生きの良い魂はおいしいな。」

「こんなにおいしいものを食べられない人間ってかわいそうね。」

「あんなにおいしくないものを食べて暮らしている人間なんて、かわいそうね。」

「体はいらないわ、あんなまずいものを食べて作られた体だもの、美味しくないに決まってる。」


魂の抜けた体が、土の上に転がっていたそうな。


どこからともなく、大きな化け物がやってきたそうな。


「これは美味そうなものが落ちている、いただいてもよろしいかな。」

「どうぞ、どうぞどうぞ。」


ずるっちゅ、ずるっちゅ、ずるずる、ごっくん。

ずるっちゅ、ずるっちゅ、ずるずる、ごっくん。


土の上には、何一つ残らなかったそうな。


「よかった、後片付けができて。」

「それは重畳。」


知らない子は、美味しいものを求めて、また旅に出たそうな。


大きな化け物も、パンパンに膨れたおなかを抱えて、どこかに行ってしまったそうな。


土の上に生えた、大きな木に、おいしい食べ物がたくさん生っていたそうな。


土の上に生えた、大きな木から、おいしい食べ物たくさん落っこちたそうな。


土の上に生えた、大きな木から落ちた、おいしい食べ物は、木の根元にたくさんたまっていったそうな。


土の上に生えた、大きな木の根元には、誰にも食べてもらえないおいしい食べ物がたまっていったそうな。


土の上に生えた、大きな木の根元にあった、美味しい食べ物が、食べられないものに変わっていったそうな。


食べられないものはやがて、腐って毒になったそうな。


毒はやがて、木を腐らせ始めたそうな。


木はやがて、腐ってしまったそうな。


腐ったものは土に還ったそうな。


土は、今でも、どこかに広がっているそうな。



土は、今でも。



時折風に舞い上がりながら。



おいしいものを。



待ち続けている、そうな。

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― 新着の感想 ―
[一言] あっ……。 なんか、魂食べるやつ久しぶりのような気が。 ちゃんと肉体を食べるやつもいて、残さずに食べられて感心ですね<ーえっ。
[良い点] こ、こ、こわぃぃぃぃぃ!!! ((( ;゜Д゜)))
[良い点] ぎゃああああ、毒殺、からのちゅうちゅう。 [気になる点] 懐かしい雰囲気。 好きですよこういうの [一言] 毒になって腐るのなんとなく分かる
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