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08-戦闘

「ミストはあの船倉の中だな。見張りの数は七、八……十人か。ミストひとりのために、御大層な事だぜ」


 ノキアは、積荷の陰から様子を伺いながら、隣にいるクエルに言った。そこには、シャッターを下ろした船倉に向かってずらりと立ち並ぶ、カーキ色の服を着崩した宙賊たちの姿があった。


 宙賊たちは全員、虎や熊といった様々な動物の頭を持った獣人だった。


「そりゃ、今の時代に竜を監禁する機会なんざ滅多にねえからな。疑心暗鬼になるのも無理はねえだろうよ」


 クエルの答えに、ノキアも納得した。ノキアはミストの存在に慣れているが、一般的には竜は絶滅種なのだ。


「まあいいや。シャッターの開閉レバーは右奥にあるな。クエル、俺が敵を引きつけるから、その間にレバーを頼めるか?」

「おう、任せとけ」


 短いやり取りを終え、ノキアは目の前の役割に集中した。相変わらず魂の鼓動は聞き取り辛かったが、近くに寄ればなんとかなるだろう。


 また、長物であるクォータースタッフは閉所に弱いのだが、身体の大きいミストを閉じ込めるために選ばれたのだろう、この大船倉は天井高が三メートル以上、広さもシャッターより手前だけで十メートル四方はあるので問題ない。


 そこまでを確認し終えると、ノキアは物陰を出て宙賊たちの背後へと忍び寄っていった。宙賊たちは未知数の力を持つミストを恐れるあまり、背後が(おろそ)かになっているようだ。


 まあ、クエルが忍び込んでいることやノキアが脱走していることもまだ気づかれていないようだから、外敵への警戒が薄いのは当然といえば当然だった。


 ノキアは一番手前にいた、熊頭の大柄な宙賊の真後ろまで屈んだまま近づくと、いきなり立ち上がってその男を後ろから羽交い締めにした。


「ぐおっ……何者だっ……!?」


 男の口から呻き声が漏れた。ノキアがクォータースタッフの柄で喉を押さえているので大きな声こそ出なかったものの、辺りが静かだったので流石に他の宙賊にも聞こえたようだった。


「テメェは、竜に乗ってたガキ!」

「クソ野郎、どうやって出てきやがった!?」


 宙賊たちは人の声と獣の吠え声が混じったような独特の声音で口々に罵声を発しながら、それぞれに携えていたライフル銃をノキアの方へと構える。ノキアは先手を打って鋭く声を発した。


「おっと、撃つなよ? 大事なお仲間に当た……うぉっと!」


 一発の銃声が響いた。あまりに躊躇(ためら)いのない行動に、さしものノキアも驚いてしまった。幸い、銃弾はノキアの頭の数センチ横を掠めて通過していった。


「ったく、これだから宙賊って奴は……」


 ノキアは独りごちながら、捕まえていた宙賊を離し、背中を蹴りつけて別の宙賊にぶつけた。容赦なく撃ってくると分かった以上、人質はむしろ足手まといだ。


 突き出された宙賊とぶつけられた宙賊がよろめき、折り重なって倒れたのとほぼ同時に、他の宙賊たちがノキアのいた場所に向かって発砲した。しかしその時には、宙賊たちの視線が解放された人質に向いた一瞬の隙をついて、ノキアは敵陣の懐深く潜り込んでいた。


 ノキアが真横に薙いだクォータースタッフが、最も近くにいた虎頭の男の腕を強打した。男が銃を取り落すのを見届けもせず、ノキアは最低限の動きでスタッフを持ち替え、反対側にいた宙賊に突きを放った。


「うぐっ」


 鳩尾(みぞおち)に響いた衝撃に息を詰まらせた宙賊がその場に頽れた時にはすでに、ノキアは次の標的に迫っていた。


 いくつもの怒声が飛び交い、宙賊たちの陣形が崩れていく。ノキアは自分の脚力の許す限り、すばしこく動き回ることに専念した。


 複数人に落ち着いて狙い撃ちされてしまえば、いかに鼓動で攻撃タイミングが分かったとしても躱しきれなくなってしまう。とにかく敵を撹乱し続けることが、唯一の勝機だ。


 しかし一人の宙賊の脳天にクォータースタッフを叩きつけて昏倒させた直後、背後から銃声が鳴り、ノキアの左上腕に鋭い痛みが走った。


「くっ!」


 深い傷ではなかったが、それでも痛みに一瞬動きが止まる。それを見逃さなかったハイエナ頭の宙賊は、素早くノキアの頭に照準を合わせた。


「ここまでだなぁ! このクソガキ!」


 ハイエナ頭は高らかに勝利を宣言した。が、折しも背後から聞こえたガラガラという騒音が、宙賊たちの注意をそらす。


「なんだ、シャッターが勝手に……!?」

「テメェの仕業か! どういうつもりだ!」


 宙賊たちの視線の先にいたのは、カーキ色の服に身を包み、フードの下に狐の仮面を被った男だった。


 ノキアにはそれがクエルである事は既知の事実だったが、何も知らなければ戸惑って当然の事態だ。そしてもちろん、ノキアはその隙を見逃さなかった。


 視線をわずかに逸らしたハイエナ頭の突き出た下顎を、ノキアは振り上げたクォータースタッフの先端でかち上げた。


 それとほぼ同時に、再度銃声が響いたが、今度は宙賊が放ったものではなかった。


「グルァッ!」


 体勢を立て直していた元人質の熊頭の宙賊が、吠えるような呻き声を上げて銃を落とした。クエルが放った銃弾が左腕に命中したのだ。


「悪いがオレはノキアみたいに甘くはないんでな。必要なら命も取るぜ。かかってくるなら覚悟するんだな」


 もはや必要なくなった仮面を外したクエルが、レバーの前に立って宙賊たちに宣告した。そして同時に、ノキアに視線で合図を送る。


(レバーはオレが守る。ミストの救出を頼む)


 その非言語のメッセージを敏感に感じ取ったノキアは、クエルに向かって口々に言い返している宙賊たちの裏を回ってシャッターの内側へと急いだ。獣人、特に肉食獣の特徴を持つ種族は、直情的で単純な性格が多い。それを利用した作戦のようだった。


 まだ開きかかりのシャッターの下に滑り込むようにして、ノキアは内側に入った。イリア灯のぼんやりした光に照らされた船倉内には、荷は一切積まれていなかった。ミストを閉じ込めるために使うことを初めから予定していた、ということだろう。


 その中央に、ミストが横たわっていた。口、前脚、後脚、翼と全身を鎖や縄でグルグル巻きにされている。明らかに過剰な拘束であり、宙賊がいかに竜の力を恐れていたかが如実に表れていた。


「これだから宙賊って奴は……」


 さっきと同じことを呟きながら、ノキアはすぐさまミストの救出に取り掛かった。

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