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12ールディロ

 狼頭の宙賊が構えた銃から弾丸が放たれ、ノキアに迫る。しかしノキアは、今度は躱すことをしなかった。代わり逆手に構えた右手の短剣を抜き放ち、絶妙な角度で弾丸に打ちつけたのだ。


 ギャリィン! という金属音とともに、ノキアの腕に衝撃が走る。そして弾丸は、その軌道を逸らして上の方へと飛んでいった。


 すると次の瞬間、狼頭がノキアの背後の空中に姿を現した。その手には銃剣を構えているが、その狙いはノキアの上の何もない空間に向けられている。狼頭は再び銃を撃ったが、足場がなかったために態勢を崩し、銃口は上にそれていた。そして狼頭がそこから姿を消す瞬間、その顔に驚愕の色が浮かんでいた。


 そして、狼頭が艦橋の天井に叩きつけられる音が響いた。場所は、ノキアから見て右前方だった。狼頭が天井から離れ、うめき声とともに床に激突した瞬間を見逃さず、ノキアはその上にのし掛かって首元に短剣の刃を突きつけた。同時に足で、衝撃で弛緩(しかん)した狼頭の手から銃剣をもぎ取り、蹴り飛ばす。


「動いたら喉を切る。大人しくするんだな」

「グルル……あんた、今一体何をした……」


 うつ伏せに押さえつけられた狼頭は、目だけをノキアに向けて唸った。


「跳弾だよ」


 ノキアが短く答えるのを聞いて、狼頭は全てを理解したように項垂れた。


「どうやって見破った……?」

「最初、お前は自分の瞬間移動の能力に『予備動作がない』と言った。その時からおかしいとは思っていたんだ。わざわざ自分の能力を相手に明かす意味なんてあるはずがない。その情報がフェイクでない限りはな……お前の能力の本当の特性は、『銃弾を撃った先に瞬間移動する』なんだろ? だから一番最初と、刃で攻撃した後は必ず瞬間移動せずに銃を撃つ。撃たなければ瞬間移動できないからな。そしてその度に何か話をしたのは、次に撃つ弾道を計算するためだ。距離や角度を少しでも間違えれば、自分が壁や天井に叩きつけられることになる」

「……それで、跳弾で弾道をずらせばオレの動きを乱せると思ったわけか……まいった、降参だ。全部あんたの言う通りだよ。煮るなり焼くなり、好きにすればいい」


 しかし、ノキアはその喉を掻き切ることはしなかった。代わりにベルトポーチにしまってあった細いが頑丈なワイヤーで、狼頭を後ろ手に縛り、床に固定されている座席の足に結びつける。


「なんだ、殺さないのか。中々やる奴だと思ったが甘いな……敵を見逃せば禍根(かこん)が残る。ここで殺さなければ、いつかオレがあんたを殺すぞ」

「俺は人殺しはしない。たとえそれで背中から撃たれようとも、な」


 ノキアは落ちていたクォータースタッフを拾い上げながら言った。脇腹の傷は最低限の応急処置だけで済ませてある。何よりケファを助け出すことが先決だ。


「それにお前だって、俺を殺す気なんかなかったんじゃないのか?」

「……どういう意味だ」

「さっきの戦い、その気になれば俺を殺せるタイミングはあったはずだ。だが、そうはしなかった」


 ノキアのその言葉に狼頭の宙賊船長は目を逸らしてフンっと鼻を鳴らした。


「生け捕りにするのが仕事だったからだ。情けを掛けた訳じゃない」

「……ま、理由はなんでもいいけどな」


 話しながら、ノキアは探していたものをやっと見つけた。艦橋の上にある上甲板に上がるための梯子(はしご)だ。早速その最初の段に足をかける。


「……アロール・レッゲルだ」


 その時、不意に狼頭が言葉を発した。ノキアは一瞬何のことか分からなかったが、やがて狼頭が名乗ったのだと分かった。


「俺はノキア・ハイトだ。じゃあな、宙賊船長さん」


 それだけ言い終えると、ノキアは梯子を登って天井にあるハッチを開け、甲板へと去っていった。


 それを目の端で見送ったアロールは、溜息と共に呟いた。


「気に食わん奴だ……どいつも、こいつも」






 真っ黒な宙の中心に、太陽――恒星へレアが光っていた。大気の存在しない宇宙では、太陽が照っていても空が水色になったりはしない。何もない空間は、太陽ですら照らし出すことはできないのだ。


 ノキアは上甲板に出ると、鼓動を頼りにケファの行方を追った。船外に出たお陰か、魂の鼓動はさっきまでよりも明瞭に聞こえるようになっている。


 ケファと、もう一人の鼓動は船尾方向へと移動していた。ケファを連れて逃げ出すつもりなら、船尾側に脱出艇か何かがあるのかもしれない。


 ミストがいない今、宙賊船のバリアから離脱されてしまえばあとを追うことはできない。ノキアは痛む脇腹の許す限りの速さで鼓動の聞こえる方へと走った。


 やがて前方に、二人の人間が(もつ)れ合っているのが見えた。片方は小柄な少女、もう片方はひょろりとした学者然とした男だが、左腕だけが袖の内側で大きく膨らんでいる。


 どうやら、男が右腕をケファの首に回し、強引に連れて行こうとしているようだった。しかし、ケファの抵抗が予想以上だったために手間取っているらしいのが見て取れた。


「おい、お前! ケファを放せ!」


 ノキアの言葉に、男が振り向いた。


「ちぃっ! アナタ、もう追ってきたのデスか。まったく、やはり宙賊なんてものはアテにならないデスね」

「ノ……キア……っ!」


 男の愚痴る声と、喉を押さえられたケファが苦しそうに呼ぶ声が重なった。


「いいから、今すぐケファを放せ。力づくで取り返してほしいというなら別だがな」

「それ以上近づくと、コレも無事じゃ済みまセンよ!」


 学者風の男――恐らくはクエルが言っていたルディロとかいうスペルリタスの高官だろう――の脅し文句に一瞬ひるんだノキアだが、すぐに負けじと言い返す。


「お前たちの目的はケファの誘拐だろう! 傷つけることはできないはずだ!」

「……試してみマスか?」


 ルディロはニヤリと笑ってそう言うと、左腕を口元に持っていき、袖口にあった結び目を歯で噛んで解く。すると、元々切れ込みが入っていたのだろう、袖は付け根まで左右に分かれて後ろへとたなびいた。それにより、隠されていた左腕が(あら)わになる。


 なぜ左腕だけがアンバランスに大きかったのか、その理由は一目で分かった。それは、パイプや歯車などの機械部品で覆われた、赤銅色の義手だったのだ。

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