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10-望むこと

「……どうしてそう思うんだ?」

「オレも、あの子が何者なのかを知ってるわけじゃねえ。だが、一つ確かなことは、あの子と一緒にいれば相当やばい事に巻き込まれるだろうって事だ」


 クエルの言葉の真意を測りかねて、ノキアは黙って先を促した。


「この船はただの宙賊船じゃねえ……あのスペルリタスの子飼いの私掠船だ。そいつに狙われてるってことは、あの子はスペルリタスに狙われてるってことになる」

「スペルリタス……あの機械帝国か」


 スペルリタスは、オーロラ海でもかなり幅を利かせているアステラだ。その発達した工業技術は全アステラでも最高と言われ、おこぼれに与ろうと胡麻を擦るアステラは後をたたない。


 その上最近では、その技術を軍事目的に転用して他アステラの侵略を目論んでいるという黒い噂も上がっている。


「……だが、この船がスペルリタスの私掠船だからと言って、ケファがスペルリタスそのものに狙われているという証拠にはならないだろ。単に金稼ぎのためっていう可能性も……」

「船にスペルリタスの人間が乗っているのを見た。ルディロ・ノージオという名の、皇室付き技術顧問だ。そんな奴が、なんの理由もなく私掠船に乗ってるわけがない」


 ノキアの反論は、あっさりと否定されてしまった。ノキアが束の間怯むのを見て、クエルはさらに言い募った。ミストは何も言わず、そのやり取りを見守っている。


「今回の件もそうだが、このところのスペルリタスにはきな臭い動きが多い。何を目論んでいるのかは分からないが、あいつらに目を付けられるようなことは避けた方が……」

「なら、なおのこと助けてやらなきゃな」


 そう呟いたノキアの声は大きくはなかったが、込められた静かな決意に気圧されたのか、クエルは一瞬言葉を途切れさせた。


「なぜだ? 今日たまたま出会っただけの他人だろ? なんでそこまで……」

「ケファは記憶がないんだ。しかもひとりぼっちで、何がなんだかも分からずスペルリタスに利用されようとしてる。そんなの、放っておけるかよ」


 ノキアの声は次第に大きくなっていった。元々思っていたことだったが、口にすることで確信はさらに強くなっていった。


「危険かどうかなんて関係ない。俺は自分の心が望むことをするだけだ。だから、お前たちに押し付けるつもりはない。関わりたくないなら、俺を置いて脱出してくれればいい。助けてくれた礼は後でちゃんとする」


 そこまで一息で言い切ると、ノキアはクエルたちの返事も待たずに出口へと向かって行った。


「ちょ、ちょっと、ノキア……」


 呼び止めかけたミストを、クエルは手で制した。ミストが問いかけるような目でクエルを見ると、意外にもクエルは呆れ顔の端にニヤリと笑みを滲ませていた。


「ま、あいつならこうなるか……それにしてもあいつ、ミストもなしでどうやって脱出するつもりなんだろうな?」

「クエルさん、まさか全部分かってて……」

「さ、こっちも行こうぜ、ミスト。あいつとオレたち、どっちが最後に格好良く決められるか、見ものだぜ」

「本当、意地悪な人ですね……」


 ミストがため息混じりに言うと、クエルはまるで褒め言葉を言われたかのようにその笑みを深めた。




*****




 ノキアは宙賊船の螺旋階段を駆け上っていた。さっきまでいた大船倉はこの船の最下層に当たる。その一つ上が、ノキアが捕らえられていた牢やノキアの持ち物が置かれていた小船倉のある層だ。しかしこの層を探索した時、ケファはどこにも見当たらなかった。ということは、ケファが捕らえられているのはそれよりも上の層ということになる。


 さらに言えば、追突される直前に見た規模から、この船の階層は三つ程度だろうとノキアは推測していた。となれば、残るは一層だ。その予測を裏付けるように、三つ目の層に上がったところで螺旋階段は途切れた。ここが最上階だ。


 ノキアは通路へと突入する前に、扉の影に隠れて様子を窺った。ミストを救出するまでの行程でそれなりの人数を倒してきたが、先程ミストの炎から逃げていった面々も含め、まだこの船には戦える状態の宙賊が何人もいるはずだ。焦りは禁物だった。


 実際、何人かの宙賊が通路を巡回警備しているのが見えた。下層、中層にあった設備から消去法で考えれば、この上層には機関部や艦橋など重要な施設が存在するはずだ。そう考えれば他の層よりも警備が厳重なのは必然だろう。


 しかし幸い、ノキアは魂の鼓動を聞くことで、死角なく周囲の状況を把握することができる。ノキアは監視の目を巧みに躱しながら、通路を先へと進んでいった。


 魂の鼓動がくぐもって聞こえるのは相変わらずだったが、距離が近づいたお陰か、ケファの鼓動はなんとか識別できた。鼓動を頼りに進んでいくと、ある扉の前にたどり着いた。位置的には船の上層前端部にあたる部屋だ。内側からはケファを含めて三人の鼓動が聞こえる。


 部屋内の人間に感づかれないようにドアノブをそっと押したが、やはり鍵が掛かっていた。そこで、前に気絶させた宙賊から頂戴しておいた鍵束を取り出す。


 いくつか試した後、そろそろ巡回の宙賊が戻ってくると焦り始めた頃になって、正解の鍵が見つかった。ノキアは意を決し、その部屋――艦橋へと突入した。

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