始まりのトアル村
太陽が眩しく照りつける。吹き抜ける風が心地よく肌を撫でる。農作業に勤しむ大人を尻目に子供たちの明るい声が村のあちこちから響き渡っていた。
そんな明るい声の集まりの中、ひときわ周りに響く力強く、それでいて聞くものを引き付ける不思議な魅力を持った声が聞こえる。
「よ~し、みんな! 今日はなにして遊ぼうか!」
まだ幼い、少年少女たちの集まり。年の頃はおよそ5歳から7歳ほどの集団。その中心いるのは一人の少年。
少年の名はアレン。ここ、トアル村で暮らす子供たちの一人であり、周囲の子供たちから慕われてリーダーのような役割を担っている少年であった。
夜闇を照らす太陽のような燃えるように赤い髪、向かい合う人間の本質を見抜くような鋭い眼差し。まだ子供ながら持ち前のリーダーシップを発揮し、村の子供たちを纏め上げ誰隔てなく接するその性格は村の大人でさえも将来有望な子供だと感じさせる何かを感じさせる。
「俺! 英雄ごっこがいい!」
「ええ~。この間もそれやったじゃん。今日は魚釣りに行こうよ~」
「あたし、聖女様ごっこがいいな~」
「かくれんぼ!」
アレンの問いかけに少年少女は口々に己のしたい事を声に上げる。自分の意見を彼に聞き入れたい一身で思わず身を乗り出し、彼に詰め寄る者もいるくらいだ。
アレンはそんな彼らの意見を一つ、一つ聞いたうえで今日の遊びをいったい何にしようかと悩み始めた。
「う~ん、確かに言われてみればこの間は英雄ごっこやったしな~。どうすっかな~」
そう口にして考えを纏めていると、不意にいつも自分が悩んだ時にすぐさま助言をくれる彼にとって唯一の相棒の姿が周りに見えないことに彼は気がつく。
「あれ? そういや、カイトのやつは?」
「知らね~。どうせまた、教会の手伝いとかだろ」
「そういえば今日は姿が見えないね」
「あたし知ってるよ! 今日神父様のお手伝いで教会の掃除するって昨日言っていた」
周りの子供たちがあげる声の中から自分の相棒が今どこにいるかということを知ったアレン。そういえば昨日の別れ際、彼から明日は教会の手伝いで掃除と庭の草取りをすると言っていたことを今更思い出す。
他の子供たちは今か今かとアレンが今日の皆の予定を口にするのを待ちわびていた。そんな彼らの姿を見てアレンは少しだけ申し訳ないと思いながら
「よし、決めた! 今日はみんなで教会を掃除してピッカピカにしてやろうぜ!」
と、この場にいない己の相棒の手伝いを口にするのだった。当然、そんな彼が口にした言葉に子供たちは落胆の色を隠せなかったが、アレンが言うのならば仕方ないと諦めながらもすぐさま教会へ向かい始めた彼の背を追うのであった。