パラダイスロスト
カイトの助力により再び気力を取り戻したアレンは〝神器〟である光剣を手に、〝魔王〟へと突進する。
先ほどまでは〝魔王〟の僅かな隙を伺い剣を振るっていたアレンであったが、今はカイトのサポートもあり果敢に攻めに転じていた。
「うおおおおおおおおお!」
目にも留まらぬ速さで振るわれる数々の斬撃。さすがの〝魔王〟も二人同時の攻撃を避けきる事は不可能なのかアレンが繰り出す攻撃を身に纏った炎の鎧で防いでいた。
だが、一方的に攻撃を受け続ける気は〝魔王〟にもないのだろう。アレンが剣を引いた瞬間、一瞬の隙を突いて生み出した炎をアレン目掛けて打ち放つ。
〝魔王〟の攻撃が放たれる直前、アレンは背後に控える相棒に目配せをすると、
「カイト!」
「ああ!」
視線だけでカイトとの意思疎通を行い、瞬時に攻撃の斜線上から飛びのき〝魔王〟から距離を取った。
「精霊様! お願い!」
アレンが飛びのいたことを確認したカイトは祈りの言葉を声に出すとカイトの周りを漂う光の玉の数々が一斉に〝魔王〟に向かって襲い掛かった。
それらは〝魔王〟に触れた途端、これまでにない爆発を生み出し、雨で抜かるんだ地面から空高く泥の飛沫を撒き散らした。舞い散る泥と共に黒煙が空に上がる。
「やったか!?」
さすがの〝魔王〟もこれだけの攻撃を喰らって無事ではすまないだろう。そう考えたアレンだったが、胸の内から湧き上がる不安はその想像を否定するように消えてくれない。
「……ふむ。さすがは精霊……か。〝英雄〟以外の人間に傷をつけられるなど、いったいいつ振りのことだろうな」
頬から流れる黒い血を指で拭いながら〝魔王〟は関心した様子でカイトを見つめていた。
「まさか精霊を使役する人間がいるとはな。いや、使役しているというよりは精霊が好んでお前に力を貸しているといった様子だな。
生まれたばかりの〝英雄〟の始末をするだけだと思って来てみたが、これは嬉しい誤算だ。今だかつて精霊に力を借りる人間など見たことがない。
この力、このまま生かせばいずれ我ら魔族に禍根を残すだろう。若き〝英雄〟共々貴様はここで殺す」
〝魔王〟はアレンとカイトにそう宣告すると流れる先ほど拭った自らの頬を流れていた黒血を地面へと垂らした。
瞬間、世界に悪寒が走った。
「あ、アレン……」
「わかってる! 何かマズイ!」
何かが良くない事が起こる予感を本能的に感じたアレンとカイト。このまま〝魔王〟の行動を見過ごせば取り返しのつかないことになる。そう判断したアレンは再び〝魔王〟に襲い掛かった。
「くたばりやがれええええ!」
寸分の躊躇いもなく〝魔王〟の首目掛けて渾身の力を込めた光剣の一撃を振りぬくアレン。 その一撃が〝魔王〟の首を刈り取ると思われた瞬間、〝それ〟は現れた。
「出て来い、〝ベルセリオス〟」
〝魔王〟の言葉に応えるように現れたのはまるで胎動する血筋のような紅い刻印を刻んだ一振りの黒槍だった。地面に〝魔王〟の血が垂れたと思った次の瞬間、まるで自らの主の身を守るように突如地面から突き出てきたその槍は〝魔王〟の首を刈り取るはずだったアレンの全力の一撃を難なく防いだ。
「なっ!?」
「光栄に思え、〝英雄〟。そして名も知らぬ小僧よ。
〝魔王〟たる我、ヴァルドの持つ〝魔神器〟を顕現させたのだ。貴様らは我が本気を出すに足ると判断した敵対者。頼むから一撃で果ててくれるなよ?」
これまでとは違い、常に余裕と慢心に満ちた表情を浮かべていた〝魔王〟はもうそこにはいない。
そこには〝魔王〟としてただ己に牙を向いた得物を狩る事に意識の全てを集中させる一人の狩人の姿だった。
「――ッ!? カイト!」
これまで〝魔王〟、ヴァルドとの戦いの中で幾度となく死の予感を味わってきたアレンであったが、己の光剣を防いだ〝魔神器〟が顕現してからというものの、これまで感じてきた死の予感などまるで児戯に等しいと言っても過言ではない濃密な死の気配をアレンは感じた。
咄嗟にその場を離れ、溢れ出る死の圧力に押しつぶされそうになるカイトの前へと立ち、光剣を構える。ヴァルドは黒槍〝ベルセリオス〟を手に持つと、強大な力を持っていた槍に力に込め、槍を振るった。
まるで、世界が裂かれたかのような強い衝撃がアレンとカイトを襲う。ヴァルドが振るった一撃に続くようにして轟音が世界に響き渡った。
ヴァルドから距離を取っていた二人目掛けて放たれた一撃は、視認できる黒き斬撃となり二人を襲う。黒き一撃はアレンが盾代わりにと咄嗟に地面に突き立てた光剣とぶつかり合う。
ギィィンッと鼓膜が破れるほどの音が響く。だが、均衡は一瞬。どうにかヴァルドの一撃を防いだアレンの光剣であったが、今の一撃を受けた結果その刀身を粉々に砕かれ、受け止めきれなかった衝撃の余波が二人を襲った。
余波だけでトアル村の家屋は見る影もなく吹き飛ばされ、アレンとカイトもまた捨石のように無様な姿で地面を転がり続ける。
吹き飛ばされた衝撃で全身を強打し、地面に落ちていた小石の数々に切り刻まれ、それでもなお勢いは止まらない。
吹き飛ばされた家屋の残骸にぶつかり、どうにか制止した時にはカイトの体中の皮膚は裂け、いくつもの骨は砕かれ、体のあちこちから血が流れ出ていた。
徐々に自分の身体が冷たくなっていくのを感じながらも、かろうじて繋いだ意識でどうにか体を起こそうとするカイトであったが、意思に反して指先一つもピクリとも動かない。
「ぐっ……ゲホッ、ゲホッ」
そんなカイトがどうにか動かせたのは呼吸器官のみ。痛みの限界を超えている事を告げるかのように反射的に吐き出した血はこのまま何もせずに放置されていたとしても彼に死が訪れるという事実を告げていた。
(……アレ、ン……)
視線を動かすとカイトのすぐ近くには彼と同じように全身から血を流すアレンの姿があった。だが、一つだけカイトと違う点がアレンにあるとすれば、それは吹き飛ばされた家屋の破片、鋭く尖った木材が彼の腹部に深く突き刺さっているということ。
一目見て致命傷と分かるほどのアレンの姿。突き刺さった木材はアレンの体から大量の血を今も流し続けている。
(たす、けなきゃ……。ぼく、が……アレ、ンを……)
そう思うが、カイトの体はまるで動かない。徐々に意識も薄れ始め、暗闇が彼の視界を覆い始める。だが、そんなカイトを守るように彼よりも遙かに重症であるアレンは残された力を込めて起き上がり始める。
「ぐっ……が、ああああああ!」
僅かに残された力で己を鼓舞するようにして雄たけびを挙げてどうにか立ち上がったアレン。だが、満身創痍であることに以前変わりはなく、軽く触れただけでもその命の灯火はたやすく掻き消えてしまいそうなほど微弱なものだった。
「くっ、くくく。さすが、〝英雄〟。致命傷だというのにそれでもなお立ち上がるか。
それほどまでそこにいる小僧の命が大事か? それとも貴様の持つ〝英雄〟の天職が〝魔王〟たる我に屈する事を許さないと無理やり命を繋いでいるか?」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふん。言葉を交わす事も出来ぬほどもはや弱ったか。まあ、よい」
ゆっくりとアレンに死の一撃を振るうために近づくヴァルド。死はもう目の前にまで迫っていた。
「カ……イト……。おまえだけ……は、おれ……が」
薄れ行く意識の中、カイトは最後まで〝魔王〟に対して立ち向かう〝英雄〟の姿を目にした。ついに限界を迎えたカイトの意識が途切れる直前、
「なっ!? し、〝神装〟だと!? ば、馬鹿な! 生まれたばかりの〝英雄〟がまさかッ!?」
「う、おおおおおおおおおおおおおおおお!」
残された命の全てを力に変えて眩い光に包まれるアレンと、驚愕にその表情を染める〝魔王〟の姿だった。
◇
「――ト。――イト!」
優しく己の体を揺らす感触に深い闇に沈んでいたカイトの意識が徐々に浮上する。それまで意識を失っていた事により途切れていた全身の痛みが一気にカイトの意識を表層へと釣り上げる。
「……ぁ」
痛む瞼をどうにかこじ開け、かろうじてかすれた声を吐き出すカイト。
「ぼ、く……」
「おお! 気づいたか! よかった、もうこのまま目を覚まさぬかと思ったぞ」
目の前にいたのは育ての親である神父、ロットンの姿だった。ゆっくりと視線を左右に動かすと心底心配した様子で彼を見つめる村の人々の姿がそこにはあった。
少しずつ散漫する意識が固定化される。だが、身体中に走る痛みのせいでロクに起き上がることもできない。
(よかった……みんな、無事だったんだ)
目の前に現れた事で村人たちの無事を確認でき、安堵するカイト。だが、同時に彼の脳裏に疑問が浮かび上がる。
(あれ……? でも、〝魔王〟は?)
あれほどまで強大な存在がいくら取るに足らない存在だとは言え村人たちを捨て置くだろうか? いや、そもそも殺すとまでわざわざ宣言した自分を見逃す理由などない。
そこまで考えたとき、カイトは己の視界の内に真っ先に写したいと思った親友の姿がないことに気がついた。
(アレン? アレンは?)
激痛に顔を歪めながらも、どうにか無理やり上体を起こすカイト。キョロキョロと視線を動かすが大切な親友の姿はどこにも見当たらない。
そんな彼の様子を見てカイトが誰を探しているのかを誰もが察したのだろう。だが、皆一同に悲しげな表情を浮かべ、顔を伏せていた。
「神父様……。アレンは? アレンは、ぶじ、なんですよね?」
途切れ途切れになりながらもどうにか言葉を紡ぐカイト。だが、彼の問いかけに応える者は誰もいない。
そんな彼らの姿を見たカイトの背筋が凍りつく。全身を駆け巡る悪寒。痛みと己が想像する最悪の事態の恐怖から吐き気が止まらない。
カイトが意識を取り戻した事を村人の誰かが声を挙げた。すると、人々の間を縫ってウィングラムが姿を現した。
彼の両腕には一人の少年が抱えられていた。右足の膝から下を炭化させ、左手は肩から先が千切れている。全身血に塗れたその少年は、己にとって何より大事な親友であるアレンだった。
「あ、ああ……ああああああ……」
カイトの口から嗚咽が漏れる。アレンはウィングラムの腕の中でピクリとも動かない。それを見てカイトはアレンがもう二度と目を覚まさないのだと理解した。
カイトの脳裏にアレンとトアル村で過ごしてきた日々が駆け巡る。孤児であった自分に分け隔てない態度で接してくれたアレン。いつも明るい笑顔で周りにいる人々を惹きつけ、進むべき道を真っ先に進んでくれた親友。
山ほどめんどうをかけられながらも自分なんかを頼りにしてくれた大事な、大事な親友。
その彼がもう二度と目を覚まさない。笑わない。面倒を押し付けてくれない。それを理解して止め処ない涙がカイトの瞳から零れ落ちる。
「うっ……ぐっ、うっううう……」
歯を食いしばりながら、人目もはばからずボロボロと大粒の涙を流すカイト。そんな彼に村人たちが何か言葉をかけようと迷っていると、
「なんで! なんでよ!」
涙を流す彼の元に同じように大粒の涙を流すイオナが詰め寄った。
「えっ……?」
「なんでアレン様を助けてくれなかったの! 助けてくれるって……わかったって言ったじゃない!」
涙を流しながらも行き場のない怒りをカイトにぶつけるイオナ。彼女から告げられた言葉にカイトは呆然とする。
「イオナ! 何をしている!?」
アレンの屍骸を抱えながらカイトの両肩を掴み、約束を違えた彼に怒りをぶつける娘に近づくウィングラム。だが、初恋の相手を失った悲しみに囚われたイオナは止まらない。
「アレン様は……アレン様は最期まであなたを守るために戦っていた……。なのに、あなたは……。
なんであなたが生きててアレン様が……アレンが死んじゃうのよぉ……。英雄だったのに。私にとって……たった一人の英雄だったのに!」
暴走するイオナを止めようとアレンの亡骸を騎士の一人に受け渡し、イオナをカイトから引き剥がそうとするウィングラム。だが、イオナは決して超えてはいけない一線を超えた言葉をカイトへとぶつけてしまう。
「あなたが……あなたがアレンの代わりに死ねばよかったのに!」
その言葉を聞いた瞬間、カイトの心に永遠に消える事のない傷が刻みこまれた。
「イオナッ! この大馬鹿物がああああ!」
娘の愚行を止めることができなかったウィングラムは後悔と怒りの表情を浮かべ、拳を強く握りしめて最愛の娘であるイオナを全力で殴りつけた。
頬を全力で殴られたイオナは吹き飛ばされた先で父に殴られた箇所に手を当てて驚愕の表情を浮かべていた。
「お前は……お前は自分がいったい何を言っているのか分かっているのか!
私たちがこうして五体満足でいられるのはいったい誰のおかげだ!
アレンと、カイトが! その身を投げ打って〝魔王〟に立ち向かったからであろう!
それをお前は……こともあろうに願いを託すだけだった分際でカイトに対してアレンの代わりに死ねばよかったなどと……よくもそんな事が言えたものだな!」
「お、おとうさま……」
「父などと呼ぶな! 今だけはお前が私の娘である事をこれほど呪ったことはない!
お前がイデアと私の娘でいなかったのならば今すぐにでもその首を断ち切ってしまいたいほどだ!」
これまで彼の懐広く、穏やかな姿しか見てこなかった村人たちは激昂するウィングラムを見て思わず後ずさる。それほどまで今の彼から発せられる怒りは深いものだった。
そう感じるのは村人だけでなく、常日頃から彼のことをよく知る騎士たちもまたここまでウィングラムが怒りをあらわにする姿を見るのは初めてなのだろう。身体を強張らせ、事の成り行きを黙って見守っていた。
「今すぐにこの場から失せろ! 貴様にはアレンの死を悲しむことも、カイトを罵倒する資格もない!」
ウィングラムの言葉に先ほどよりも更に多くの涙を流しながらイオナは一目散にこの場から立ち去った。一連の成り行きを呆然とした様子で見ていたカイトであったが、イオナから告げられた言葉の衝撃と〝魔王〟との戦いで傷ついた身体が二度目の限界を迎え、その意識は再び闇の中へと落ちていった。
◇
次にカイトが目を覚ましたのは夜空に星がまたたく深夜のことだった。今は見る影もなくなったトアル村は崩れ落ちた家屋を種として、あちこちで焚き火を焚いていた。
一度目覚めたときとは違い、全身に痛みが伴うもののどうにか起き上がることができたカイト。彼の傍では神父のロットンとシスターのコロンの二人が今にも消えてしまいそうな焚き火の前で静かに眠りについていた。
夜空を見上げると満点の星空が輝いていた。しばらくの間空に輝く星たちをカイトが眺めていると、一筋の軌跡を描いて一つの星が夜空を流れた。
「あっ……」
流れた星を見て思わず声を上げるカイト。まさに今夜空を駆け抜けた星がまるで、その命を燃やし尽くした親友のようだと何故か彼には思えた。
己の命を賭して村人や自分を守った親友の姿を思い起こし、カイトの瞼に再び涙が滲む。同時に、イオナから告げられた言葉が彼の脳裏に蘇る。
『あなたが……あなたがアレンの代わりに死ねばよかったのに!』
その言葉を思い出したカイトは悔恨した。いったい自分は何を勘違いしていたのだろうと。
「僕が、僕がいなければアレンが死ぬ事はなかった」
イオナは言った。アレンは最期まで自分を守って戦ったのだと。〝魔王〟の姿がこの場にないということは彼をアレンは打ち滅ぼしたか撤退させたのであろう。だが、代償に彼はその命を落とした。
もしあの時、自分がイオナの言葉に頷かず彼らと共に村から離れていればもしかしたらアレンは誰かを守りながら戦う必要もなく、その命を散らす事はなかったのではないか?
そんな想像がカイトの脳内を徐々に侵し始める。ありえたかもしれない〝もしかしたら〟の想像は次々と彼の内から溢れ出た。
「そうだ……僕が、僕が余計な事をしなければ」
一度そんな考えが浮かんでしまえばもう止まらない。カイトはいつしか自分のせいでアレンは死んだのだと結論付けてしまっていた。
「は、ははは。いったい僕は何を勘違いしていたんだ」
かつてアレンから告げられた言葉は深い後悔に襲われる彼には決して浮かばない。〝英雄〟として選ばれたアレンが誰よりも信頼し、カイトを凄い人物だと評価し、そして自分がそれほどまでに評価している相手が己の価値を自ら貶める事は許さない。
そう語り、カイトもそんな彼の言葉を受けて己を卑下するのはよそうと思ったこともあった。だが、かつてのように力強い言葉で自身を責め続けるカイトを否定する親友の声はもう彼の耳には届かない。
「そうだ、僕はただの凡人だ。そんな僕が、僕がでしゃばったせいでアレンは死んだ」
誰よりもその生を望まれ、その身に授かった〝英雄〟の天職により将来は数々の偉業を成すはずだった親友。だが、彼の命は己のせいで断たれ、アレンが世界にその名を馳せることはもう二度とない。
「……イオナ様の言うとおりだ。僕が、僕こそが死ぬべきだったんだ」
頭を抱え、自らを罰するカイト。不幸にして、本来ならばそんな彼に慰めの言葉を口にするはずだったもっとも身近な存在は深い眠りについていた。そんな状況が彼の心を深い絶望へと誘う。
痛む身体に鞭を打ち、亡霊のような足取りでふらふらとカイトはその場から歩き出す。まるで、夜闇を照らす明かりに近づく事でさえ罪だとでもいうように。
「アレン……ごめん。ごめんよ……」
そうして光の届かない深い、深い闇を求めるようにしてカイトはその場から立ち去った。トアル村に住んでいる者であれば誰もが絶対に近づかない、日が暮れた後の深い闇に覆われた〝迷いの森〟へとカイトは進む。やがて、彼の心を覆う絶望に似た深い闇が彼の姿を完全に覆い隠した。
翌朝。夜が明け、焚き火の傍で眠りについてたロットンはすぐにカイトの姿が消えている事に気がついた。村の大人たちや騎士が総出でその姿を探すも、どこにもカイトの姿は見つからなかった。
どれだけ手を尽くしても、もう二度とカイトが彼らの目の前に姿を表す事はなかった。
〝英雄〟の天職を授かった新星はこうして空を流れ、〝精霊士〟の天職を授かったもう一人の選ばれし少年は世界から消え去った。
始原の精霊に選ばれた二人の少年が過ごしたトアル村という名の楽園は失われ、人類の未来を明るく照らすはずだった〝英雄〟の死はやがて世界に深い悲しみをもたらすのであった。