たいせふの記
復か。私はさう思つた。此れで幾度目であらうか。告白と云ふものに対して私は左程重要な意味を最早見出せなくなつてゐた。今回のこの女も同様である。私が毎回振り続けてゐるのを知らないのだらうか。噂位流れても好い筈ではないか。さふいふ訳で、私がこの女を振るのも極一瞬の出来事であつた。元から大した風貌でも無く、性格も到底明朗とは言へぬといふのに、一体何故私が心を動かさるると云ふのだらう。女は相当覚悟して来たらしく、ずっと俯いた儘で微動だにせぬ。僅かに髪から覗く耳が、上気して居ることを物語る已である。
< Spectator >
キット成功する。だってコンナに準備してきたんだから。ズット焦がれ続けてはや五年、もう限界。今日こそは告白するのよ。計画通り、シッカリことを運ばなければいけない。アア、緊張する。ダッテあの人よ? ああもう! 昨日は一睡も出来なかったのに、マッタク眠くならない。コンナ事もあるのね。ああ、ズンズン時間が迫ってくる
全て持ったかしら? よし、モウ行くしかないわ。絶対うまくいくんだから。絶対。
< Actor >
何かおかしい。様子が変だ。普段ならばこの時点で女は別れを言ふか、直ぐに去って仕舞ふのだが、けふの女は全く動く気配を見せぬ。それどころか、拳を確りと握り締めて居る。一体如何したのだらう。
それから数分も経つただらうか、女は急に動いた。ポケツトから注射器を取り出したかと思うと、それを床に叩き付けた。それは瞬時に飛散し、液体と破片に分離。床を照らす夕陽を反射したそれらは、宛らスパンコオルのやうに見えた。
私は、二の句を継ぐ事ができなかつた。
< Letter >
ナンデ? ドウシテ巧くいかないの? 妾はイツモこうなる。他人に疎まれ、蔑まれ、そうして周りにはダァレも居なくなる。妾が一体何か悪いコトでもしたと言うのかしら?ソレとも前世の妾の罪なの? ソンナの妾の手には負えないわ。ドウシテこんな世界なの? ドウシテ妾はここに居るの? もうコンナ解毒剤なんて要らないわ。社会が妾を疎むなら、妾は進んで疎まれてやる。
< After >
家に帰つても私の恐怖は払拭されぬ。あの後女が倒れ、私が医務室に連れ込んだ時から、私は一種の罪悪感に囚われてゐた。明日、若し私が毒殺犯であると疑はれたら如何しよう。それ程に完璧を尽くされていたのだ、この自殺は。嗚呼、私はこの先、此の事を忘れずに居られやうか。
私の境遇は起訴するには十分、もう私の逃げ道は塞がれたのだ。
一体如何してこのやうな目に遭わなければいけないのだろう。
後日、ある薬売りが川に浮かんでいるのが発見された。だが、この話はまた別の話。
私情によりペンネーム変えました、Hypothesisです。Hyp∅nexじゃありません。なんとなく折りたたんで書きました。また書くのかそれともいずこか……時間が知るのみです。一笑に付していただいて結構です。ま、読んでくださってありがとうございます。Bon Voyage.