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4.何も知らないボクの何も分からない一回目 2


 ボクの体に、矢が貫通している。


 口から吐瀉物がせり上げてきて、吐き出した。体がふらつく。支えられない。倒れた。苦しい。気持ち悪い。

 おいコレ死ぬ。おいこれ死んじゃうって。おいおいおいおいおいおいお……


「ミヤザワ、そんなの全然序の口だ! しっかりしろ!」


 ハヤシ先輩が、ボクを無理やり立ち上がらせた。


「……序の口?」


 矢が刺さってるのに?

 人生で一番痛い経験なんですけど!


 ボクは口から胃酸を垂れ流しながら周囲を確認する。アンデッドが増えている。


 さび付いた長剣を持ったのが3体。。

 そして真後ろの、弓を持っているのが2体。


 その数、5体


 最初に動いたのはコミヤマ先生だった。

 どっしりどっしりと中年太りした体を揺らしながらアンデッドに近づき、斧を大きく振り下ろす。


 当然、そんな遅さじゃ当たらない。


 よろけるように半歩下がったアンデッドに簡単に避けられてしまう。


「オォオオオオ――」


 低いうめき声と共に、長剣が先生の胸元にぶっ刺される。

 先生が絶叫する。


 勇者コミヤマヒロシ:HP 3000→1943


 引き抜かれた傷口から、勢いよく血が噴出する。

 ボクは『序の口』の意味を、理解し始めた。

 ここじゃ、矢に撃たれるよりもっと痛いことを経験しなくちゃならない。


「先生っ!!」

「焦るなミヤザワ!」


 ハヤシ先輩の忠告を無視し、ボクは先生に駆け寄った。

 周囲をよく確認しなかった。


 グサッ。グサグサグサ――


 何本もの矢がボクに突き刺さる。 足、腕、背中、脇腹……


「っぐあ!」


 ボクの足ごと矢が地面に突き刺さり、ボクは転倒する。


 勇者ミヤザワトシキ:HP 2947→2078

 勇者コミヤマヒロシ:HP 1943→1043


 ものの数分で、ボクの命の残量は2/3まで減った。

 最悪なことに、足に刺さった矢のせいで動きも封じられた。


「立て直せ! 立て直せ!」


 ハヤシ先輩が必死で叫ぶ。

 迫られる0.1秒単位の取捨選択と判断。


――先生はどうする。 自分の足が先か?

――周囲の確認が先?ミカミちゃんはどうした?


 ボク、今どうなってる?


 首を振る。 

 正面、数センチに黒い影。

 眼球が姿をとらえる。

 大きく口を開けたアンデッド。


 噛まれる。 


 以下は感想。逆食べログレポート。

 痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!


 肩を思い切り噛み付かれた。肉に歯が食い込む感覚が全身を駆け抜ける。

 肉が食いちぎられる。飛び散る多量の血。

 ボクが、ボクがボクがボクがボクが――


 ボクが、食われてる。


「だあぁらあああっ!」


 ハヤシ先輩が、両手で噛み付いたアンデッドを引き剥がしてくれた。


 勇者ミヤザワトシキ:HP 2078→712


 命の残量が1/3を切った。

 先輩が、ボクの足に付いた矢を引っこ抜く。ボクは立ち上がれなかった。


「……何ですかっ!? 何なんですかコレ!?」

「考えるな! 早く立て! 早くしないと」


 背後で先生の叫び声が途絶えた。

 勇者コミヤマヒロシ:HP 1043→0


「……くそ。前回よりもダメじゃねえかよおおおおお!」


 ハヤシ先輩は叫びながら、剣を構えなおす。

 やみくもに、大振りに長剣を振り回す。

 ど素人丸出しの剣術。

 しかし、動きはアンデッドより数倍素早い。

 刃が風を斬る音が、初めて戦闘それらしく聞こえた。


 カァアンッ!


 ハヤシ先輩の剣が、アンデッドの長剣とぶつかる。

 その時、おかしなことが起きた。



 周囲のアンデッドが、凍ったように動かなくなったのだ。

 動きの止まったアンデッドの隙を逃さず、先輩が首を斬ろうと――


「ミヤザワくん! 後ろおおおおおおお――」


 ミカミちゃんの声が最後まで聞こえることがなかった。


 いきなり、見てる世界が低くなって驚いた。


 自分の鼻の先が急に地面にぶつかる。額に石が刺さり痛かった。

 声が出ない。 動かしたつもりもなく背後の世界が見える。

 首から大きく大噴火のごとく出血している誰かの肉体が見える。


 ――あれ? ていうか、ボクの胴体じゃないか?


 ボクの首は、地面を数回跳ねた。


 勇者ミヤザワトシキ:HP 712→0


 意識は、闇に溶ける。


×××



「ようやく目覚めたか」


 目の前にいたのはハヤシ先輩だった。

 大きな切り株。そして、そこに刺さる自分の武器

 ボクは目をこすってから、あくびをする。


「……なんだ、夢か。いつから寝てたんですかボク」

「夢じゃないぞ?」

「へ?」

「お前はさっき一回『死んだんだ』」


 ハヤシ先輩に真顔で言われた。


「……死んだ?」

「ああ。首を切られて死んだ」

「じゃあ何で生きてるんですか今」

「生き返ったんだ。俺もお前も」

「バカじゃないですか?そんなわけないでしょ」


 ボクは笑った。



 先輩はいっさい笑ってくれなかった。



 さっきまでと態度が違う。


 すぐそばには、うずくまるミカミちゃんとそれをなだめる先生がいた。

 何もしていないのに、体中から汗が湧き出てくる。自分の体が震える。


 右の手のひらを見た。唇はついたままだ。


「ジリ……ボクは、死んだのか?」


 ボクが求めていた回答は『すみませんが、よくわかりません』だった。




『はい。ミヤザワトシキさんは先ほど『森』にて『一度』死亡しました』




「……一度? 二度も三度も死ぬことがあるんですか先輩?」


「ああ。俺は既にお前と会う前に一度死んでる。前回で合計二回死んだ。チャンスはあと一回しかない」


「チャンス?」


 聞き直した瞬間、ハヤシ先輩の胸元にポツリと青い光が点滅する。一つだけ。


「ミヤザワ。この森で、ライフを3つ消費した人間――つまり、三回死んだ人間は、復活できない。与えられた武器だけ残して、消滅するんだ」


 ハヤシ先輩がうつむく。そして苦しげにこう言った。


「――ここにある全ての武器はな。森を超えられずに……消滅した人間の数を表しているらしい」


 唾を飲み込もうとした。しかし、口の中が乾いていて何も飲み込めなかった。


数えるまでもない。

 見ただけでボクらを囲う武器の数は、100を超えていた。


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