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3.何も知らないボクの何も分からない一回目


 ボクがこの世界にやってきたのはトラックに跳ねられたとか、魔法使いに召喚されたとか、そういう特別なイベントがあったわけじゃない。


 入学式の校長先生のお話があまりにも眠たくて、パイプ椅子の上でうとうとしていた。そして気づいたら森の中だった。起きた時、地面にうつ伏せになっていたので、土を吸い込んでしまったのをよく覚えてる。土は苦かった。


「ようやく目覚めたか!」


 咳き込んでいたボクに声をかけてくれたのは、同じ高校の制服を着た人だった。短髪で、色黒。彫りの深い顔。


「……生徒会長?」

「おお、よく知ってるじゃないか」


 目の前にいたのは、ボクが所属する高校の生徒会長 ハヤシ先輩だった。さっきまで生徒代表挨拶をしていたから顔は分かる。ニヤニヤしながらボクの方を見てくる。


「お前一年だろ。何か部活とか入る気はあるのか」

「……まだ決めてません」

「おおそうか! バスケットボール部とか入る気ないか? 楽しいぞ」

「……特にないです」


 初対面なのにやたら馴れ馴れしい。ボクは初対面で会話のペースを握ろうとしてくる人が苦手だ。こういう人は心の底で、ボクのことを下に見てることが多い。

 立ち上がり、服に付いた土を払った。その際、自分の手の平になんか違和感を感じたが、無視。他に人がいないか探すためにあたりを見回す。周りにいたのは先生らしい格好をした大人一人と……


「やだやだやだやだ!!! ここから動きたくな~い!!」


 ボクの高校の女子生徒が一人。泣きじゃくって暴れてる。

 ボクは人の好き嫌いが激しいので、ああいう幼い行動をとるヤツも嫌いだ。そしてその印象はよっぽどのことがないと覆らない。


「……先輩」

「お! 心を開いてくれたか一年生!」

「一年生って呼ばないでください。ミヤザワトシキです」

「おお! トシキか!よろしくなトシキ!」


 ボクは先輩を少し睨んでしまったかもしれない。


「ミヤザワって呼んでください」

「……お、おう。よろしくなミヤザワ!」


 会ってすぐに下の名前で呼ぶなんてありえない。学園ドラマの見すぎだ。


「聞きたいことがあります」

「ん?」

「どこなんですか? ここは」


 ボクが立っている場所は、絶対学校の中なんかじゃなかった。


 入学したばかりのボクでも、意味不明なくらいに地面に突き刺さりまくってる剣とか槍とかを見れば、ここが校内じゃないことは分かった。


「ミヤザワ」

「はい」

「それはな……俺も先生もミカミちゃんも分からないんだ」

「へ?」

「だから、分からないんだ。分かるのはここが『元いた世界と違う』ということぐらい」


「何を言ってんだコイツ」と思った。

 先生の方を見る奥で腕を組んだおっさん教師――コミヤマ先生が口を開いた。


「ミヤザワくん。そこの切り株に剣が突き刺さってるだろ? それは持ってきた方がいいよ。君専用の武器だ」


 コミヤマ先生がボクのそばにあった切り株を指差した。


 金色の柄。高そうな装飾。

 見ると、両手で握っても持ち上げられなさそうな大きな剣が突き刺さっている。

 刺さっているところの傍に「ミヤザワトシキ用」という木の札が置いてある。


「……アレですか?」


 コミヤマ先生はうなづく。


「……いや、あんな重そうな剣。ボクが持ちあげられるわけがないですよ。ボクの体見れば分かるでしょ?」

「いや、そんなこともないんだ。驚くことに私だってほら!」


 先生は、傍にあった自分の肩幅の3倍くらい大きな刃の付いた斧を片手で持ち上げてみせた。


「……その斧が軽いだけなんじゃないですか」

「ミヤザワ。そうじゃないんだ。自分専用の武器だけは軽々と持ち運べる仕組みになってる」


 珍しく真面目な顔で言う先輩。

 面倒だが言われた通りにしようと思った。剣の柄を両手で握る。


「よい……っしょ!! ってうわわわ!」


 剣があまりに勢いよく引っこ抜けたもんだから、またも尻を打ってしまった。

 なんだコレ、見た目より全然軽いな!


×××


「……デカすぎかよ」


 見上げるほどに巨大な鉄の門を見て、ボクはそう言った。

 おそらく、10mはあるだろうその門は、武器だらけの森をしばらく歩いた先に存在した。ボクらの元いた位置から真っ直ぐに伸びた道を塞ぐようにそびえ立ち、門の隙間からは霧のようなものが漏れている。

 門を前にして突然、弓を担いだミカミちゃんが泣き始めた。「もう行きたくない!」と喚き、膝をついて土を叩く。そばにいた先生は何も言わない。


「……いったい、何があるんですかこの先に」


 ボクがハヤシ先輩に聞くと、先輩はしかられる前の子供みたいな顔をした。


「ミヤザワ。信じられないかもしれないけどな。この門を向こうにはモンスターがいるんだ」

「モンスター?」

「ああ。ゾンビによく似たモンスターだ。行けば分かる」


 ハヤシ先輩が両手で門に触れた。そして、足を一歩踏み出そうとする。


「待つんだハヤシくん。ミカミちゃんの準備ができてない」

「……門の傍には、『アンデッド』は基本いないとジリから聞いています。だから……大丈夫なはずです」


 先生が止めようとしたがハヤシ先輩はそのまま、門を両手で押し開けた。門の中から霧が溢れ出し、ボクらの視界を覆いつくす。嫌だ嫌だというミカミちゃんの声は絶えずボクの耳に聞こえていた。

 白い世界がすーっとボクのそばを通りすぎ、霧が晴れる。


 ポツリと、水滴が落ちてきた。


 瞬間、雷の音が鳴り響き、ボクらのいた場所を豪雨の森に変える。周りを見ると地面に突き刺さっていた武器が消え失せ、門もなくなっている。着ていた服に雨が染み込み、寒い。


「……何、コレ? どこココ?」


 急に天気が変わり、あたりの風景が変わればさすがに動揺する。


『はい。ここは『試練の森』です。今回の命の残量をご確認ください』


 ボクの手に付いたのジリが、ボクの質問に答える。

 途端に突き刺すような頭痛。

 数字の羅列が、脳内に出現する。


 勇者ミヤザワトシキ :HP 3000

 勇者ハヤシケンジ :HP 3000

 勇者ミカミカナコ :HP 3000

 勇者コミヤマヒロシ:HP 3000


『皆様はこれより『知の試練』『武の試練』に挑んでいただきます』


「は? え、いや、え?」

「ミヤザワ。とにかくまず、進むぞ」


 ハヤシ先輩が先頭を歩き、ボクはそれに続いた。

 ずぶぬれになりながら歩くというのは気分が悪い。

 試練の森? HP? 何コレ、ゲームかよ?

 全く意味が分からないんだけど?

 今ボクたちはどこに向かってるんだ?


 ミシリ、と落ち葉を踏みつぶす音がした。


「ミヤザワ! 準備しろ!」

「え、何を!?」

「『アンデッド』が、来るぞっ!」


 ハヤシ先輩が注意したそのときだった。

 グサリッ

 ボクの背中に何かが突き刺さった。腹を見ると、矢のようなものが貫通している。

 えっ、なに、これ? 刺された? いや撃たれた? 撃たれたのボク? 誰に?

 後ろを振り返る。3メートル程度離れた木に人影。

 隠れていたのは『人でないモノ』だった。

 生気を失った眼球。 肌が剥がれ落ちてむき出しになった筋肉。体の数か所は既に腐っているように見える。動く人体模型に革の鎧を着せたような化け物

 ソイツが打ち放った矢に、俺の体が貫かれている。


 アレが、アンデッド?


 勇者ミヤザワトシキ:HP 3000→2947


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