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黒い竜の物語  作者: 緋翠
45/63

手に職 6

 

 黒竜を見送って、テオドラは小さく笑みを零す。


「……無駄に長く生きるモンじゃないと思っていたが……こういう面白い事もあるんだねぇ……」


     ◆◇◆◇◆


 テオドラの店を出て、黒竜は譲ってもらった杖に視線を落とした。


「――さて。魔導器創る前に、この物騒な杖を返して来ないとな」


『このような禍々しい魔導器を所持している者に、お心当たりがあるのですか?』


 エアリルの問いに、黒竜は頷き、


「うん。あいつらは多分、これ使わないと思うけどね」


『……しかし、これはとても危険な感じがします。使わずとも、災いを招くでしょう』


「だから返すんだよ。そーゆー災いを防ぐ為に」


 黒竜は杖を肩に担ぎ上げ、


「これは……四聖竜が管理してる遺産の一つだと思う」


『四聖竜……まさか』


「もし違っても、そのまま売り払って良いとは言わないだろうしね。そんな訳で、俺はちょっと水竜んトコ行って来るから、エアリルは遊びに行って良いよ」


 言われて、エアリルは心得たように頷いた。


『分かりました。ではまたご用がありましたら、風に声を乗せて下さい。いつでも駆け付けましょう』


「うん♪ ありがとね♪」


 黒竜はエアリルの姿が見えなくなってから、水竜の神殿まで空間転移する。

 いつも通り、神殿の側までやって来て――ふと思う。


「……返す前に使ってみようか」


 どれ程の物か……少し興味はある。

 ここなら、どれだけ破壊的な力が発生しても“外”には影響が無いと聞いていた。

 困るのは、水竜とその(しもべ)である水の精霊だけだ。


「よしっ! じゃあ、ちょっと振ってみよう♪」


 と、黒竜が杖を振り上げた瞬間、足下が青白い光を放つ。


「……あり?」


 小さな呟きと共に、黒竜は強制転移させられた。

 転移してきた場所は、何という事は無い。水竜の神殿――その内部。

 顔を上げると、目の前にはあからさまに不機嫌そうな表情をした水竜が立っていた。


「おや。これは水竜様。わざわざのお招きありがとうございます」


「……てめぇ……今、何しようとしてた」


 黒竜の声は無視して、水竜は低く呻く。

 黒竜は持っていた杖を示し、


「いやね? 何か凄いやばい魔導器を手に入れたからちょっとばかし使ってみようかなと」


「アホか!」


 水竜は思い切り怒鳴り付けると、黒竜の手から魔導器をひったくる。


「あっ」


「妙な魔力を感じると思ったら……んなモン、無闇に使おうとすんじゃねぇ!」


「何だよー。お前らの所有物かなと思ったから親切に持ってきてあげたのに」


「だからそれを使うな!」


 水竜は額に手を当てると、深い溜め息をついた。


「……どこで見付けてきた……」


「ついさっき知り合った魔術士のお姉さんの家にあったんだよ。商品として棚に並んでた。人が触ると干からびるとかで、買いに来た客はみんな死んじゃったらしいけど」


 黒竜の話を聞いて、水竜はあっさりと言う。


「……だろうな。こいつは触れた者の命を吸い上げる」


「じゃそれ、使えなくない?」


「人間にはな。だが、その力に耐えられる者……そして、命の無い者には使える」


「……命の無い者?」


「そうだ。これは生者を死者に……アンデッドに変える杖。神の力を用いて創られた魔導器」


「えっ」


 それを聞いて、黒竜は少し驚いた。


「それ……神様が創ったの?」


「……いや。違う」


 黒竜の問いに、水竜はかぶりを振る。


「これは神の僕が創り出した。昔、これを使って、あらゆる生物をアンデッドに変える奴が居てな。それこそ、その辺の国の人間が丸ごとアンデッドモンスター変えられるような代物だ」


「ああ……一振りで国を滅ぼすって言ってたから、てっきり廃墟になるのかと思ったけど、そっちの方向で滅ぶのか」


「……まあ、お前が想像しているような力も無くはない」


 水竜は手にしている杖を複雑な表情で見やる。


「これに込められている魔力は膨大だからな。そいつを破壊の力に変換すれば、人の国の一つや二つ。跡形も無く吹っ飛ばせる」


「へ~」


「ただ、そうするよりも魔物に変えて手駒にした方が都合が良かったんだろうよ」


 水竜の話を聞いた黒竜は僅かに眉を顰め、


「何というか悪趣味な魔導器だな」


「そりゃそうだ。破壊神の僕が創ったモンなんだ。所謂、平和に役立つ魔導器なんか創る訳がねぇ。あいつらは……この世の破滅を望んでる」


「そーゆー事するから、魔物が誤解されちゃうんだよ。迷惑な話だ」


 黒竜はぶつくさと誰にともなく文句を言ってから、


「――あ。そうそう。その杖を見付けたお姉さんがね。杖のヤバさに気付いて遺跡に返そうとしたけど、行ってみたら遺跡が無くなってたんだって。取り壊しちゃったの?」


「壊してねぇよ。人間には視認出来なくなってるだけだ」


 水竜は持っていた杖をエイに手渡すと、片付けてくるよう指示を出す。


「俺達が管理してる遺跡は常に結界を張って他種族が侵入出来ねぇようにしてる。けど、どうしたって効力は落ちてくるからな。恐らく、その魔術士は結界が弱まった時、偶然遺跡に入る事が出来たんだろう。今は結界に近付く者があれば、指定した場所に強制転移するようになってる」


「めんどくさいから全部壊しちゃえば良いのに」


「……破壊した方が安全な物はそうするが……大抵は壊すと厄介な事になるんでな。迂闊に手は出せねぇんだよ。特に……神が直接創り出した物は」


「ふ~ん? お前らも大変だねー」


 まるっきり大変さが伝わらない軽い口調で黒竜。


「ま、取り敢えず。落とし物は届けたし……俺は仕事に取り掛かろうかな」


「……仕事?」


 水竜は怪訝な表情を浮かべる。


「そっ。さっき言った魔術士のお姉さんが魔導器買い取ってくれるって言うからさ。創って売るの」


 その瞬間、水竜の眉間に皺が出来る。


「……何を創る気だ」


「そんな警戒しなくても、さっきの杖みたいに物騒なヤツは創んないよ」


 言って、黒竜はパッと一つ魔導器を創ってみせた。

 それは、テオドラの店で見た灯り玉。


「ほら。こんなヤツ。他にも、ちょっとした火を起こせるようなのとかが売れるんだって」


「…………」


「あまり強い魔力はこもっていませんね。これなら問題無いのでは?」


 黒竜の創った魔導器を水竜が無言で眺めていると、エイが横から口を挟む。


「……まあ、この程度のモンなら……」


 この魔導器に込められている魔力量なら、大した事は無い。

 魔導器から魔力を抜いても、使い道は限られる。

 尤も、人間が直接魔導器から魔力を抜き取るには、それを行う為の別の道具が必要になるが。


「俺は世の為、人の為、自分の為、役立つアイテムを創ろうと思う!」


「……好きにしろ」


「じゃ、そゆ事で♪ また遊びに来る♪」


 黒竜は力強く拳を握ってから、例のごとく壁を破壊して出て行く。

 と――


「あっ、そだ。今度、火竜と風竜に会いたいから話付けといてね♪ すっごい美人だって聞いたから楽しみにしてる♪」


 黒竜の口から放たれた言葉は、場の空気を一瞬で凍り付かせた。

 その事に何の疑問も抱く事無く、黒竜は姿を消す。


「……あの。水竜様……」


 エイは冷や汗を垂らしながら、


「まだ地竜様とお話ししてから、さほど時間は経っていないみたいなんですけど……」


「……知らん。俺は何も言ってねぇ」


 水竜はさっさと壁を直すと自分の部屋に引っ込んだ。


     ◆◇◆◇◆


「こんにちは~♪」


 翌日。

 黒竜は再びテオドラの店へと足を運んだ。

 中に入ると、テオドラが店の奥から顔を出す。


「おや。いらっしゃい」


 黒竜は軽く手を振り、


「テオドラさん。魔導器持ってきたよ♪」


「そりゃまた……えらく早いねぇ」


「仕事は早い方が良いでしょ?」


「まあね。とは言っても、急ぎでもないんだが」


「俺が急いでるから」


 扉を閉め、カウンターの側に寄ると、黒竜は早速魔導器を並べる。

 テオドラは一つ一つ検分を始めた。


「言われた通り、使い易さを重視してるよ」


「……そうみたいだね。だけど……」


 テオドラは深い溜め息をつき、


「何で全部呪われてるんだい?」


 手前にあった指輪を人差し指で弾き、テオドラは呻く。


「しかも、呪われてる方が性能良いじゃないか」


「そりゃそうさ。だって、そーゆー風に創ったんだもん」


 黒竜はあっけらかんと告げる。

 普通の魔導器もあるのだが、それは全体の一割程の数……


「人間向きの魔導器を創るって言っただろ? 強い力が簡単に手に入ると思ってはいけない。豊さと便利さの裏には危険もあるのだという事を忘れないように――と。俺なりの配慮」


「人間向きって……向きが明後日の方に向いてる気がするんだけど」


 テオドラの呟きは無視して、黒竜は魔導器を示す。


「後は、まあほら。お店の特色を出してあげようかなと思って」


「どんな特色だよ」


 テオドラが半眼になって問うと、黒竜はどこか芝居がかった口調で、


「人が足を踏み入れる事が難しい深い森。その森の奥に住む一人の魔女。森の番人として長く生きる魔女が取り扱う魔導器……神秘的で妖しく……何か呪われてそうな気がしない?」


「そういうノリで創ったのかい」


「イメージも大事だと思うんだ」


「要らないよ。そんなイメージ。うちは呪われてないから」


 素っ気なく言ってから、


「取り敢えず、呪われてるヤツは解呪しとくれ」


「解呪すると効果変わるよ?」


「……訳の分からない作りだね。アンタの魔導器は」


「面白い物を創りたいなーと思ったからね。まあ、解呪は難しくない。この“浄化の雫”があれば、あっという間に呪いは解けます。解呪前と後の性能については、取扱い説明書――略して取説があるのでそちらを読んで下さい」


「神秘だ何だ言う割に奥深さがまるっきり無いね」


「これなら魔導器と解呪薬がセットで売れるからよりお得♪」


「とんでもない詐欺商法じゃないか」


 テオドラは思い切り突っ込んだ。

 黒竜の持ち込んで来た魔導器を見ながら――ふと、気付く。


「……おや……これは呪われてないね」


 呪われた魔導器の中に混じって一つ。呪いが掛かっていない物が目に留まった。

 それは、表面に複雑な紋様が刻まれた銀色の指輪。


「ああ。それはこっちの指輪と二個セットの魔導器」


「二個無いと駄目なのかい?」


「そだね~。それは身に着けてる者同士が心話で話せるようになるって代物だから」


「……心話で?」


 不思議そうな顔をするテオドラの指に、黒竜は指輪を嵌める。

 ついでに、自分も指輪を着け、


「試しに何か言いたい事思い浮かべてみて」


「何かって言われてもねぇ……」


 指輪を見詰め、テオドラは考える。


《……これで伝わるのかい?》


《うん♪ 伝わってるー♪》


 頭の中に直接声が響いてきて、テオドラは驚いた。

 しげしげと指輪を眺め、


「へぇ……これは凄いね。こういうのは今まで無かった」


「この距離なら普通に会話すれば良いけど、内緒話したい時とか役に立つよ。遠くの相手とも話せるしね。小さな子供の迷子対策にもなるし、敵国に忍び込んだ際の連絡にも使える」


「……例えがおかしくないかい?」


 極端過ぎる例えに、テオドラは思わず呆れ顔になる。


「要するに、『使い方はあなた次第♪』って事。シャイな人は意中の相手に指輪を贈って、心から想いを伝えればきっと気持ちが通じ合うハズ! ただ油断すると考えてる事がダダ漏れになるので、そこは気を付けないといけない。用事が無い時は外す事をオススメする」


「あなた次第にもほどがあるだろうに……」


 テオドラは溜め息をついてから、改めて魔導器を見やる。

 戦闘用の物は勿論、日常生活で利用する物にも優れた防御能力が備わっていた。

 どれも、人の手で加工するのは難しい。


「魔女に対する妙なイメージは兎も角、確かに店の特色は出そうだね。これだけ高性能な魔導器……余所じゃ、ちょっとお目に掛かれない」


「そーだろ、そーだろ♪」


 黒竜は腕組みしてふんぞり返った。


「安心安全! おまけに高品質! 一度手にしたら手放せないような物ばかりだろう」


「安心と安全を謳うなら、呪いを掛ける必要はなかったと思うけどねぇ」


 テオドラの率直な感想に黒竜はしれっと、


「別に命に関わるような呪いは掛けてないよ? 単に、身に着けると外せなくなったり、軽く錯乱状態に陥って敵味方の区別が付かなくなったり、偏頭痛に悩まされるようになったり、使う度に地獄の筋肉痛を味わうようになったり、タンスの角に足の小指をぶつけるようになったりするだけだから」


「……呪いの種類も何かおかしいね」


 途中から呪いなのか、体質的なものなのか、単なる不注意なのか分からなくなっている。

 黒竜は椅子に身体を預け、気楽に笑う。


「ま、何にせよ。テオドラさんとはちょっぴり長いお付き合いなるだろうし。これからもイイモノ持って来るよ♪」


「出来れば呪われてないヤツを頼むよ」


 テオドラは正直に希望を伝えた。


 ――その後。

 黒竜はテオドラと百五十年程交流を続けた。

 そして、テオドラは後に『竜と心を通わせた魔女』として名を残す事になる。



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