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黒い竜の物語  作者: 緋翠
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賞金稼ぎ 4

 

 黒竜はぐいっと、黒い光の帯を引っ張る。

 盗賊達は皆気絶――いや、よく眠っている為、微動だにしない。犬の散歩でもしているような気安さで、黒竜は盗賊達を引き摺る。

 実は、街に入って暫くしてから、人々の視線がシャーリーは気になっていた。

 小さな子供が人相の悪い男を何十人も縛り上げている姿というのは――どう考えても目立つ。

 異常な光景だ。


「そういえば……君は一人なの?」


 歩きながら、先程まで泣いていた女――モニカが、黒竜に話し掛ける。

 モニカは、黒竜が助けた女達の中で一番年が若かった。十四、五歳……といったところか。見た目の年齢だと、黒竜より少し上になる。

 モニカの問いに、黒竜は頷く。


「そだよ~」


「えと……家族とか知り合いは……」


「居なくなっちゃった」


「そう……なんだ」


 モニカの問いに、黒竜は短く答える。

 彼は終始明るかったが、家族の話を振った途端、表情が曇った――ように見えた。

 モニカは自分の質問が悪かったと思い、頭を下げる。


「……ごめんなさい。私、悪い事訊いたみたい」


「ん? 何で謝んの?」


 黒竜は首を傾げた。


「何か……辛い事訊いたかなって」


「あ~……別に気にしないでいいよ。みんな、それぞれ事情があるんだしさ」


 黒竜は笑っていたが、その笑顔はどこかぎこちない。


「君の住んでた所も……盗賊に襲われたの?」


「……違うよ。そういうんだったら、もっと話が早かったかな。俺は……あの日の事を誰かのせいにして恨む事も出来ないし、復讐する事も出来ないから」


「……えっ?」


 少年の言葉の意味は、モニカにはよく分からなかった。


「あっ!」


 その時、黒竜が何か見付けたらしく、急に走り出す。


「ちょっと、そこのお兄さーん!」


「……うん?」


 黒竜に呼ばれた男は振り返る。

 それは、黒竜が街に来た時、手配書を剥がしていた男。


「君は確か……」


「お兄さん! 俺、賞金首捕まえて来た! だから、賞金ちょーだい!」


「……は?」


 黒竜の口から飛び出した言葉に、男は間の抜けた声をあげ、


「賞金首を捕まえて来たって……」


「こいつ、こいつ! このゲスヒゲハゲ! こいつがそーなんだろ?」


「えっと……ちょっと待ってくれ。これはどういう状況……」


 男は明らかに混乱していた。


「彼は……この盗賊団から私達を救い出してくれたのです」


「……なんだって?」


 シャーリーが男の前に出てそう告げると、男は何故か眉間に深い皺を作った。

 暫く黒竜を見据え、


「……そうか。なら、一緒に来てくれるか? 賞金を支払うと言っても、俺の懐から出す訳じゃ無いんでね」


「分かったー!」


 黒竜は黒い帯を握った手を振り上げて、元気よく頷く。


「君達も。少し話が聞きたいので……」


「分かりました」


 シャーリーは頷いた。

 どの道、ギルドには一度足を運ぶつもりだったのだ。他の女達も行く当てが無い訳だし。

 ただ、シャーリーは何となく違和感を覚える。男の顔が少し強張っているように思えたからだ。

 子供が盗賊団を捕らえ、虐げられていた者まで救い出したとなれば驚きもするだろうが、彼の顔に浮かんでいるモノはそういった感情ではなかった。

 もっと別の――恐怖に近い色が浮かんでいた。



 目的地に着いて、男は振り返り、


「じゃあ、君……えっと名前は……」


「あっ、黒竜」


「……そう。じゃあ、黒竜君はここで座って待っててくれるかい?」


「はーい」


 男は何とも言えない微妙な笑みを浮かべながら、女達と別の部屋へ向かう。

 それを見送って、黒竜はテーブルの上に置いてあるお菓子に手を伸ばした。



「……さて。君達にはいくつか聞きたい事があるのだが……」


 黒竜の居る部屋から三つ程離れた客室で、男――ジャンは女達に問い掛ける。


「君達はあの少年の仲間……ではないんだね?」


「仲間とは?」


 シャーリーが訊き返すと、ジャンは目を伏せた。


「彼――いや。“あれ”は魔物だ。君達はそれを知っていたか?」


 シャーリーは、他の女達と顔を見合わせ、


「……いえ」


 そう言って首を横に振る。

 ジャンの口調は厳しいモノに変わっていた。


「俺はあまり強い魔力は持って無いし、感知能力も低いんだが……それでもはっきり見えるくらい、あれは強い竜気を纏っていた。初めて会った時には見えなかったが、恐らくあの盗賊を捕らえている魔法から魔力が流れて見えるようになったのだろう」


 シャーリーは軽く胸元で拳を握る。

 ジャンはきっぱりと言い切った。


「あれは人の形をした魔物。竜族だ。竜は――ドラゴンは危険過ぎる。あれは直ちに排除しなければならない」


「排除? 一体、何をするつもりなのです?」


 シャーリーが問うと、ジャンは深い溜め息をついた。


「……魔物が街に侵入して来た場合、抹殺するのが決まりだ」


「殺す……という事ですか?」


「そうだ。とはいえ、あのドラゴンの力は未知数。我々で退治出来るかどうかは分からない。故に一度拘束し他の街と連携を取って……」


「ま……待って下さい!」


 シャーリーは思わず声をあげた。


「あの少年は……魔物なのかもしれませんが……私達にとっては命の恩人です。それに、人に危害を加えるような凶悪なモンスターなら兎も角、あれほど大人しいモノをいきなり抹殺するなど……」


「この先も大人しいとは限らない。人と魔物は相容れない」


「しかし……」


「君達と話がしたい理由はそこにあるんだ。君達が“あれ”の仲間で、洗脳されていると困るから」


「私達も疑われて?」


「魔物と行動を共にしているからには、何か理由がある筈だからね。あれと一緒に街を滅ぼそうと言うのなら君達も排除しなければならなかった」


 シャーリーは絶句する。

 あの少年は確かに自分から「竜族だ」と言ってはいたが、人に危害を加えようというのなら、何故人助けなどしたのか。

 あれほど人を気遣う者が、人と相容れないとは思えない。


「――兎に角。俺はあのドラゴンを捕らえなければならない。君達はここで指示があるまで待っていてくれ」


 ジャンはそれだけ言い残して、部屋を出て行く。


(あの少年は殺されてしまうのか……?)


 助けてもらった礼も出来ていない。

 恩義に報いる事も出来ないまま、ただ結果を待つだけなのか。

 その時、


「……竜が――……居なくなってる!」


 部屋の外から聞こえてきた声に、シャーリーと他の女達は僅かに安堵した。


 そして。

 この日を境に、彼女らが少年竜と会う事は二度となかった。



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