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黒い竜の物語  作者: 緋翠
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賞金稼ぎ 3

 

「君は……竜族なんだろう? 賞金稼ぎなどしなくても食事くらい、いくらでも出来るんじゃないのか? 村や街を焼き払えば……」


「え~っ? それじゃ、こいつらとやってる事変わんないじゃん。それにそんな事したら俺まで賞金首になっちゃうよ」


 黒竜は眉根を寄せ、


「人間が賞金欲しさに襲って来たら相手すんの面倒だしさ。片っ端から賞金稼ぎ皆殺しにしてたら、そのうち世界中から狙われそうじゃん? 『危険だー』っつって。そうなったら人間界が滅んじゃう」


「……君の発想は……なんて言うか……色々凄いね」


「自分が殺される」という考えは、微塵も持ち合わせていないらしい。


「それより。お姉さん達はすぐ動ける? ちょっと休んでからの方がいい?」


 黒竜はパッと話題を変える。

 女達は顔を見合わせ、


「……少し休んでから……ここ数日、殆ど何も食べてないし……」


「あら。それはいけない。ご飯はちゃんと食べなきゃ」


 黒竜はガトールの許へ歩み寄り、


「やい、ゲスヒゲハゲ。何か食いモン無いの?」


「てめぇは……どこまで俺を馬鹿にすりゃ……」


「質問に答えなさい」


「ぎゃあああああっ!? あぢぢぢぢぢぢっ! あるあるっ! そこの食料庫にたんまりある!」


「最初から素直にそう言えば良いのに」


 魔力の帯に“軽く”熱を通してやると、ガトールは悲鳴をあげて白状した。

 黒竜は適当に食料庫を漁る。


「あっ。果物とかもあんね。丁度良い。盗ってきたばかりなの?」


「…………」


 ガトールは答えない。

 死ぬほどのダメージにはなっていない筈だが。


「まいっか」


 黒竜は腕一杯に食料を抱えて、


「はい。お姉さん達。好きなの食べていいよ♪ お水もどーぞ♪」


「ありがとう……! 喉カラカラだったの!」


 こうなってしまうと、今は少年の正体が何であるかなど、どうでもよくなる。

 女達は夢中になって、水や食料に手を付けた。

 黒竜も干し肉などかじりながら、


「食べ物はいっぱいあるし、ちょっとゆっくりしてから外に出ようか。俺も腹は減ってたから」


「さっさと出て行け!」


 ガトールが何やら悲痛な叫び声をあげる。

 黒竜はちらとそちらを見やり、


「あのね? 俺は賞金稼ぎなんだよ? 賞金首のお前をここに置いて出て行く訳無いでしょ?」


 酒樽に目を付けると、黒竜はそのまま酒を飲み干す。


「あっ。結構美味しー♪」


「てめ……俺の酒を……!」


「馬鹿だねー。お前は」


 黒竜は手の甲で口元を拭いながら、嘲笑した。


「俺に捕まった時点で、ここにお前のモノなんか一つも無いんだよ。酒も食料もお宝も♪ 後、ついでにお前の命もね。それは俺の食事代に変わるけど。どう? ちょっとは踏みにじられる弱者の気持ちってのが分かった? 良かったね~。これからは思い遣りの心を持って人に優しく接する事が出来るようになるよ♪ その前に処刑されるだろうけど」


「このクソッタレが!」


 最早、どちらが賊なのか分からないやり取りが繰り広げられている。

 と――


「……てめぇが余計な手出ししなけりゃ、あの女共はこの先苦しまずに済んだってのによ」


「苦しめた張本人がよく言うよ。それにね。この先の人生をどうするかなんてのは、お姉さん達の自由でしょ? 屈辱に堪えかねて身投げするか、そいつを踏み潰してでも生き長らえるか。どの道を選ぶのかはお姉さん達の自由。少なくとも、お前が決める事じゃない」


 それを聞いた瞬間、一人の女が泣き崩れた。

 攫われて来たのは彼女達だけではない。

 他にも大勢居た。しかし、その多くの女達は自分の意思とは関係無く、凌辱の果て殺されていった。

 口を塞がれ、憎しみの言葉を吐く事すら出来ずに。

 盗賊団の首領が無意味な叫び声をあげ続ける中で、女達は涙を流しながら黙々と食事を続けた。



「――いや~、本当は賞金首だけ狩るつもりだったけど、軽くおやつが食べられた上に、お小遣いまで手に入るなんて♪ 賞金稼ぎって良いなぁ♪」


 アジトに蓄えられていた食料を食い尽くし、盗賊達が貯め込んでいた宝も根刮ぎ没収した黒竜は、上機嫌で山を下りる。

 盗賊団を丸ごと引っ張りながら、


「これは“天職”ってヤツだな。うん」


「……こういう輩が居ないと成り立たない職だけど」


 シャーリーは控え目に突っ込む。

 “職”と呼んで良いのかどうかは微妙だ。


「こーゆー悪党は次から次へと涌いて出るから心配無い♪」


「う~ん……」


 ちょっとこの少年の考えにはついていけない。

 シャーリーが思い切り呻いていると、


「……本当に……出られたのね」


 一人の女がぽつりと呟く。


「私達が逃げ出そうとしても、同じところを歩かされて……クタクタになったところで捕まっていたのに」


 女の呟きを聞いた黒竜は、少し首を傾げた。


「……幻術かな? けど、あの洞窟にそんな術仕掛けてあったっけ?」


 たまたまそこを通らなかっただけだろうか? と、黒竜は思ったが、行きはあちこちウロついた。

 しかし、そのような術に引っ掛かった覚えは無い。


「さっきも少し道に迷うかと思ったんだけど……」


「そーなんだ? って事は一応、術の範囲には入ってたんだねぇ。全然効いてないけど」


 言われて、黒竜はどこにそんな(モノ)があったのか思い出そうとしてみる。

 よくよく思い返してみると、途中で少しだけ違和感があったような気がしないでもない。


「もしかして“アレ”がそーだったのかな? まあ、結局効いてないから意味無いけど。そんなショボい術より、温泉の湯煙の方がよっぽど心惑わされそうな気がする♪」


「……それは……何だかよく分からない……」


「しっかしまあ……こいつは本気でゲスだな」


 困惑の色を隠せない女は置いておいて、黒竜は気絶させている盗賊団の首領を睨み付けた。

 わざと逃げ出せる形を作り、女達が絶対に逃げられない場所に追い詰めて、抵抗する気力が無くなったところで追い討ちを掛ける。

 それを何度繰り返していたのか。

 逃げる気力を失い、無抵抗になった者は殺されていったと言う。

 だから、残った女達は逃げられないと分かっていても足を止める事は無かったのだと。


「……君……が……来てくれた……から、私達……外へ出られたの……」


「うんうん。間に合って良かったよ。もっと早くここに辿り着いてたら、みんな助けてあげられたんだけど……でも、お姉さん達だけでも連れ出せて良かった」


 再び泣き出す女の背中を、黒竜は軽くさすってやる。

 決して、「無事に」とは言わない。

 実際、無事では無い訳だし。

 それは黒竜のせいでは無いのだが、少し罪悪感のようなモノを覚えた。

 黒竜はかぶりを振って、


「お姉さん達は一緒に街まで来る? それとも、自分の故郷に帰る? 帰るなら送ってあげるけど」


「……私は街まで行こうと思う。村は焼けてしまったし」


 攫われて来た女達は皆、行く当てが無いようだ。

 黒竜は頷いて、


「分かった。じゃあ、歩くと疲れるだろうし、街まで転移するね♪」


「えっ? 転移……って?」


「はーい♪ 俺と一緒に街まで行きたいお姉さんはこの指とーまれ♪」


 黒竜は明るい笑顔で、人差し指を天に向けた。

 女達は一瞬怪訝な顔をしたが、その無邪気な子供の姿に気持ちが緩んだのだろう。

 一人、また一人と、黒竜の指を握る。

 全員が指に止まったのを確認すると、黒竜は編み上げていた魔力を解放する。


「お姉さん達御一行、街までごあんな~い♪ もしかしたらちょっと酔うかもしれないので、お気を付け下さ~い♪」


 その言葉と共に、黒竜と女達――ついでに盗賊団は一瞬で街まで転移する。


「はい、到着~♪」


 その声に誘われるようにして女達が目を開けると、景色は一変していた。

 街の喧噪。

 行き交う人の息遣い。

 生活感溢れる空気。

 暗く淀んだ洞窟の空気とは明らかに違う。


「こ……ここは……」


 シャーリーが驚いていると、


「俺が手配書剥がした街♪ 適当に歩いてたらここに着いてねー」


「…………」


 説明が大雑把過ぎる。

 しかし、


「……君にはどれほど感謝の言葉を述べても感謝しきれない」


 救いなど期待出来ない状況で、突然現れた少年。

 生きる希望を見失いかけていた彼女達にもう一度光を見せてくれた。

 シャーリーは黒竜に深く頭を下げた。


「本当に……ありがとう」


「いーの、いーの♪ 困った時は助け合わなきゃね♪」


 シャーリーは軽く笑いながら、どこか偏見を持っていた自分を恥じる。

 魔物といえば人類の敵。倒さねばならない存在だと、そう思い込んでいた。

 しかし、実際はどうだろう。

 自分達を苦しめていたのは人間で、その苦しみから救ってくれたのは魔物だった。

 幾つも例がある話では無いとはいえ、こうして分かり合える者も居る。


「君は……」


 と、言いかけて、シャーリーはふと気付く。


「そうだ。名前。まだ君の名前を聞いていなかった」


「あー。そーいや、名乗ってなかったね」


 黒竜はお辞儀をしてから、


「俺は、ブラックドラゴン・黒竜。お姉さんは?」


「私はシャーリー。冒険者だ。と言っても、仲間はそこの盗賊に殺されてしまって……今はこの有り様だけれど」


 聞けば、シャーリーは旅の途中で立ち寄った村で騒動に巻き込まれ、連れ去られてしまったのだと言う。


「ありゃりゃ。そりゃまた災難だったねぇ……」


「まあ……でもまだ命があるから」


 シャーリーは複雑な思いで、苦く笑う。


「取り敢えず、お話は後でゆ~っくりするとして。まずはこいつら換金して来ないと」



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