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黒い竜の物語  作者: 緋翠
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賞金稼ぎ 2

 

 見逃して欲しいが、案内までする気は無いらしい。

 まあいいかと、黒竜は男の側を通り過ぎる。

 その時、


「――なんて、そのまま行かせられるか!」


「……意外と仲間思いなんだね。アンタ」


 男は短剣を手に突っ込んで来るが、その攻撃は透明な壁に阻まれ、黒竜には届かなかった。


「んなっ……!?」


 まるで鉄の壁にでもぶつかって行ったかのような感覚に、男は驚愕する。

 おまけに、いつの間にか鈍く光る帯のような物が男の身体を縛り付けていた。


「何だ!? これは!」


「仲間を売って自分だけ助かろうとするなんて見下げ果てたクズ野郎だなぁと思ったけど、それは取り消してあげる」


 男の身体を光の帯が締め付けてゆく。


「ぐぅっ……!?」


「盗賊には盗賊なりに仲間を思う気持ちがあるんだね。別に感動とかはしないけど」


「て……てめ……」


 男の手から短剣が落ちた。

 強烈な魔力に当てられて、男は意識を失う。

 黒竜は腰に手を当て、


「――よし。じゃあ、残りもさっさと締め上げちゃおう♪」


 そう言って、洞窟の奥――賞金首の部屋へ向かう。

 その部屋は、何とも言えない悪趣味な内装だった。

 やたらゴテゴテと装飾の施された家具と剥製などで埋め尽くされているその部屋は、“悪党の部屋”と呼ぶに相応しい。


「……わざわざ塗りたくったのかね? この壁」


 真っ赤な壁に手を触れさせ、黒竜は呻く。

 床には真っ赤な絨毯が敷かれている。


「理解出来ない趣味だなー。まあ、人の趣味にどうこう言う気は無いけど……」


 黒竜はポリポリと頭を掻いてから、部屋の奥に目をやった。

 薄い布で遮られた向こう側から、荒い息遣いと女の嬌声が聞こえてくる。


「……どうしよう。このままぶっ飛ばしたら攫われて来たっていう女の人も巻き込んじゃうな」


 かといって、事が済むまで放置しておくのもどうかと思う。

 ひょっとしたら、そのまま殺されてしまう事もあるかもしれない。

 特に人助けをしようと思っている訳では無いが、目の前で死なれると寝覚めが悪い。


「うーん……あっ。そうだ」


 黒竜はポンと手を打つ。

 これだけ近い距離に居るのだから、こちら側に強制転移させれば良い。

 長距離移動させると途中で死んでしまうかもしれないが、この距離なら問題無いだろう。

 黒竜は素早く魔力を編み上げると、布の向こう側に居る影をこちらに転移させた。


「なっ……何だ? 急に……何が起こって……」


 強制転移させられた全裸の男は、辺りを見回す。

 黒竜はにっこりと笑顔で、


「お楽しみのところ、邪魔して悪いね」


「なっ……何だ。てめぇは……」


「俺は賞金稼ぎだよ♪ アンタが、ガトール・フラム?」


「……だったら何だ」


 男は妙に大人しい。

 まあ、素っ裸で怒鳴り散らされたところで怖くも何とも無いが。

 黒竜は一つ頷くと、指先を天に向け、


「そうか。だったら――大人しくお縄に付けーっ!」


「なんっ……ぎゃあああああっ!?」


 男――ガトールは、黒竜の生み出した光の帯に締め上げられて悲鳴をあげる。


「見苦しいんでね。ちょっとキツめに締めといた。死にゃしないから安心するがいい」


「なん……何だ……てめぇは……」


 地べたに這いつくばったまま、ガトールが呻き声を漏らす。


「だから、俺は賞金稼ぎ。アンタはこの手配書のヒゲハゲに間違い無いんだろ? なら、どうなるか……分かるよね?」


 邪悪な笑みを浮かべる黒竜に、ガトールが引き攣った表情で声を絞り出す。


「……賞金稼ぎ? お前みたいなガキがか?」


「そのガキに捕まっちゃってんのに、何言ってるの」


 黒竜は部屋の中を見回し、


「……にしても、何だか手下が少ない気がする。アンタの仲間ってこいつらだけ?」


 と、先に縛り付けておいた盗賊達を示す。

 ガトールはふいと視線を逸らした。


「答えないならそれでもいいよ。手下の方は賞金の上乗せあったら良いなぁって思って捕まえただけだから」


「悪魔か! てめぇは!」


「悪魔じゃありませ~ん。竜族です」


「……は?」


 ガトールはきょとんとして、


「竜族……? ドラゴンだってのか?」


「そっ。でも別に信じてくんなくていいよ」


 黒竜は盗賊達を床に転がすと、布で仕切られた部屋の奥を覗いてみる。


「ありゃ。これは可哀想」


 中を覗いて、黒竜は思わずそんな事を口にする。

 そこに居たのは、五人の女。

 皆、衣服を身に着けておらず、一人はベッドに縛り付けられている。

 黒竜はスタスタと女の許へ歩み寄ると、縄を切ってやった。

 すると、女は驚いた顔をしてから、パッと身を隠す。


「大丈夫?」


「だ……誰?」


 すっかり怯えきった様子の女に、黒竜は人懐っこそうな笑顔で、


「お姉さん達を助けに来たの♪ 悪い盗賊達はみ~んな捕まえたから大丈夫だよ♪」


 部屋の隅でそれを聞いた女達は、のろのろと立ち上がり、


「ほ……本当に……助けに来てくれたの?」


「うん♪ こっち覗いてみて? 悪い人達はぐるぐる巻きにしてるから♪」


 言われて、一人の女がそっと部屋の外を覗く。

 確かに盗賊達は、黒い帯のような物で拘束されている。


「……君が奴らを捕らえたのか?」


「そだよ♪」


 黒竜は頷く。

 女は呆然と立ち尽くしていた。


「あっ。そーだ。お姉さん達、良かったら一緒にここ出る? 何なら街まで連れて行ってあげるよ?」


「……えっ? 出られるの? ここから?」


「勿論♪ けど……その前に着る物用意しなくちゃね」


 床には服だったと思われるモノが、バラバラに切り刻まれ散らばっている。

 これを復元させる事も出来るが……


「新しい服の方が良いかな?」


 この様子だと、女に恐怖を与える為にわざと切り刻んだのだろうし、その服をもう一度着るのはあまり気分が良くないと思う。


「ん~……どんなのにしよ? 街のお姉さんが着てたようなワンピースとかで良いかな」


 黒竜は服のイメージを固めると、早速魔力を編み始めた。


「……あの子。何をしてるのかしら?」


「……さあ。でも……あいつらの仲間じゃない……のよね?」


「多分……」


 と、女達がぼそぼそ会話をしていると、


「――で~きた♪ お姉さん達、服出来たよ~♪」


『えっ?』


 女達の視線が一斉に黒竜の方へ向かう。

 黒竜は服を女達に手渡す。


「はい。ど~ぞ♪」


「あ……ありがとう……」


 女達に渡されたのは、フリルたっぷりのふわふわなワンピース。

 胸元に小さなリボンなども付いていて、可愛らしいと言えば可愛らしいが、


「……私もコレを着るのか……」


 先程、盗賊達の様子を見に立ち上がった女が複雑な表情で呟く。

 彼女は冒険者で、盗賊に襲われる前までは剣士として旅をしていた。それ以前も、所謂“女の子らしい格好”というのをした事がなかった為、少し気恥ずかしい。

 無論、裸よりはずっと良いのだが。


「それはね~、俺が魔力込めて創った服だから、その辺の刃物じゃ切れないし、魔法にも耐性がある優れ物だよ~♪」


「……つまり……このワンピースは魔導器という事なんじゃ……」


「あー、そうとも言うねー」


 女の言葉に、黒竜はあっさりと頷く。


「あの……魔導器って何?」


 既に服を着ていた別の女が口を開く。

 冒険者の女――シャーリーは、説明する。


「魔導器とは魔力のこもった道具の総称で、通常、武具に魔力を付与したり、特殊な素材を用いて創られる物だが……」


 シャーリーは、渡された服に視線を落とした。


「……これは……そういう物を使用しないで創られている」


「えっと……それはどういう……」


「無から有を生み出すにも等しい……神の業ともいえる物だ」


「そんな大袈裟なモンでも無いけど」


 と、黒竜が口を挟む。


「単に人間の魔力じゃ不安定過ぎて形にならないってだけで、俺くらいになったら魔力で物を創るなんて事は難しくも何ともない」


 言って、黒竜は軽く拳を握ると、少し魔力を込めて小さなペンダントを創った。


「な……!? 今、どうやって……」


「ちょっと魔力を固めただけ。こんなのはいくらでも創れるよ。これは大した力込めて無いから、すぐ壊れちゃうけどね」


 話しながら、黒竜は女の首にペンダントを下げる。


「けど、ちょっとしたお守りにはなるから、あげる♪」


「……君は……何者だ?」


 シャーリーは服に袖を通しながら、


「私の知る限り、これは人の力では不可能な事だ。それを容易くこなしてしまうとは……」


「俺は竜族だよ。ドラゴン」


「……竜族?」


「そう♪」


 シャーリーは、この少年の言葉が理解出来なかった。

 竜族が人助けをするなどという話は聞いた事が無い。竜は人の国を滅ぼし、災いをもたらす者として恐れられている。

 ごく稀に、竜と心を通わせ、共生してゆく者もあるというが……

 人が竜を訪ねて行くのではなく、竜から人を訪ねて行くというのは、あまり例が無いと思う。

 しかも、会話に不自由しない程、この竜は人語を理解している。高い知力と魔力を持っている証拠だ。

 魔物とこれほど友好的に会話をした者もそう居ないだろう。


「……よく分からないけど……坊やはあいつらの仲間じゃないのね?」


「違うよ~。あいつら――てか、ここのボスが賞金首だから捕まえに来たの。俺の飯代にする為に♪」


 さらっと、とんでもない事を言っている。

 竜が自分の住処を離れ、人里にやって来る事自体が稀だというのに、この少年は賞金首を捕まえて食事代を稼ぎ出そうとしていた。

 何もかもが理解の範疇を超えている。



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