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黒い竜の物語  作者: 緋翠
36/63

賞金稼ぎ 1

 

「あっ。こいつ、こないだの……」


 黒竜が街を歩いていると、壁に貼られているポスターのような物が目に入る。

 よく見てみるとそれは手配書で、黒竜が潰した盗賊団の頭の顔だった。


「賞金……あいつ、賞金首だったのか」


 黒竜がじぃと手配書を眺めていた時。

 ベリッと、その手配書が剥がされる。


「……およ?」


 黒竜は背後に視線を向けた。

 そこには、背の高い男が一人。皮の鎧などで身を包んで、どことなく物々しい雰囲気が漂っている。

 黒竜は、ぴっと壁を指差し、


「なんでその紙剥がしちゃったんだ?」


「……うん? ああ。もう必要無くなったからだよ。武装盗賊団の首領、レヴィン・ドーマは捕まった。その部下も残らずね」


「ふ~ん?」


「どうやら、魔導器の暴走でアジトもろとも自滅したようだ」


「あっ。それ違う。あいつらのアジト潰したのは俺」


 黒竜がそう言うと、男は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに笑う。


「あはは。面白い事を言うね、君は。アジトの周辺は大規模な土砂崩れが起きていて、今も復旧の目処は立っていない状況だ。魔導部隊が救助活動を続けている」


 男は、ぽんぽんと黒竜の頭を叩き、


「この辺りは現場からだいぶ離れているけど、面白半分で近付いたらいけないよ」


「…………」


 そう言い残し、立ち去る男の背中を見ながら、黒竜は不満げに頬を膨らませる。


「む~。全っ然信じてねぇな」


 完全に子供扱いされている。

 確かに、外見は人の子供とそう変わりは無いので、仕方無いかもしれないが。

 黒竜は男の姿が見えなくなってから、もう一度、壁の方へ視線を向ける。そこには、いくつもの手配書が貼られていた。

 あの盗賊団の首領が賞金首……


「……って事は、ここにある連中を引っ張ってくれば、賞金が貰えるって事だよな」


 街に来たは良いが、黒竜は文無しである。

 食事をしたくても金が無いので、食べられない。

 実は今も、物凄く良い匂いがしてきていたりするのだが……


「賞金首なら賞金首と言ってくれりゃあ生け捕りにしたのに」


 しかし、あの程度の連中を捕らえるだけで大金が手に入るなら、実に簡単な話である。

 黒竜は一つ頷き、


「――よし。取り敢えず、一番額の大きい奴から狙っていこう♪」


 そう言って、手配書を片っ端から剥ぎ取った。



 手配書を眺めながら、黒竜は考える。


「……持ってきたのは良いけど……どうやって捜すかな」


 倒すだけなら、さほど手間は掛からない。

 問題は、どのようにして賞金首を見付け出すかだ。先の盗賊団の事を考えてみても、これらの賞金首達も人目を避けて生活していそうな気がする。

 人の手が入りにくそうな場所を探るのが良いか……


「けど、ちょっとくらいは情報欲しいかなー。どの辺りで見掛けたとか」


 同じ捜すにしても、場所に目星が付いているのと、いないのでは効率が違う。


「……どこに行けば情報が得られるかな」


 道行く人間を引き止めて訊いてみたりもしたが、誰も相手にしてくれない。

 黒竜は手配書を持ったまま街を出ると、近くの森へ入る。

 キョロキョロと辺りを見回し、


「あっ! ちょっと待った!」


 手に魔力を込め――くいっと、目に留まった小さな精霊を捕まえる。


『きゃあっ!? ななっ……何をするんですか! 離して下さい!』


「あのね。ちょっと訊きたいんだけど……」


『離して下さい!』


「話を聞いてくれたら離してあげる」


 黒竜はぴらっと手配書を示し、


「こーゆー顔した人間を見なかった?」


『知りません! 離して下さい!』


「ちゃんと見て答えてよ」


 精霊はひたすら逃げようとして、バタバタもがいている。


「お前、風の精霊だろ? こーゆーのに詳しいよね?」


『離して下さい!』


「……あのね。俺は四聖竜の指示で動いてるんだよ。協力してくれないと困るの」


 その瞬間、精霊の動きが止まる。


『……四聖竜の? どなたですか?』


「えっとねぇ……水竜」


 黒竜は適当な事を言う。

 しかし、自然界の精霊は四聖竜に逆らえない。


『水竜様の……』


「こいつらは悪者なの。四聖竜の役目にも……まあ、良い影響は与えない」


『……この人間なら見覚えがあります』


「えっ? ホント?」


『この先にある山の奥に、近頃多くの人間が出入りしています。奴らは山を荒らし、土地を穢しています。その中に……この人間が居ました』


「ほう」


 思ったより早く情報が得られた。

 黒竜はニヤリと笑い、精霊を解放する。


「ありがとね♪ 水竜にもちゃんと伝えとくから♪」


『このような事で水竜様のお役に立てるのでしたら、いつでも力を貸しましょう』


 風の精霊が協力的になってくれると、非常に助かる。

 噂好きで、中にはだいぶ誇張する者も居たりするが、最も情報が早い。

 そして、名前だけでも四聖竜は役に立ってくれる。

 今後も「ちょいちょい使わせてもらおう」と、黒竜は考えた。


(あいつらも俺の事は“神の器”と考えてるみたいだし)


 その“器”が壊れるような事は、彼らにとって不都合の筈だ。

 地竜の言葉に悪意は感じなかった。ただ、全てが善意という訳でも無い。

 黒竜の身の自由が許されているのは、黒竜が“心臓”の力を抑制し、コントロール出来ている間の話。“器”としての役目を果たせなくなれば、即座に封印される。

 彼らはあくまでも世界を守護する為に存在している。

 特別、黒竜の味方では無い。

 ただ皮肉な事に、今現在は彼ら以上に黒竜の味方となり得る存在は居ない。


(好きにすれば良いって言ったのはあいつらだしな)


 そういう意味では無いだろうが、別にその存在を言いふらして回る訳では無いし、名前を借りるくらいなら大して問題にはならない筈だ。

 黒竜は一人で納得すると、先程精霊から教えられた山に向かって歩みを進めた。



「ここか」

 山に住む精霊達に道を訊ねながら、黒竜は洞窟の入口で足を止めた。

 中を覗くと、松明の明かりが足下を照らしている。

 こんなところに魔物が住んでいるという事は無いだろう。わざわざ、侵入者が自分の寝床まで安全に来られるようにする理由が無い。

 因みに、洞窟の入口には見張りと思われる男が数人ウロついていたが、魔法で気絶させてある。


「手下も捕まえといた方が良いのかなぁ? 賞金の上乗せとかあるかな?」


 ふと、自分の足下に転がっている男達を見る。

 悪事を働く盗賊なのだから、捕まえて咎められるという事は無いと思う。

 取り敢えず、黒竜は黒い光の帯で男達を締め上げ、洞窟の中を進んだ。

 内部は結構入り組んでいる。

 途中、毒矢が飛んできたり、落とし穴があったりしたのだが、どれも黒竜の命を脅かすような罠では無い。

 洞窟の奥に辿り着くまでに、引き摺る男の数が少し増えていた。盗賊がアジト代わりに使っている洞窟なのだから、中に入れば盗賊達に見付かるのは当然である。

 なので、見付かる度に黒竜は問答無用で盗賊を気絶させていった。


「うん。死んでないから大丈夫だよね♪」


 少し重たくなってきたので、縛り上げた盗賊達の身体は浮かせて運んでいる。


「な……何だ!? お前は!? どっから入って来た!」


「えっとね。入口から入って来た。ここに賞金首が居るんだろ?」


「……はあ? 何言ってんだ? ガキ」


 洞窟の一番奥に辿り着いて、黒竜はその手前に居た男に呼び止められたので、気楽に話し掛けた。


「俺は賞金稼ぎになろうと思ってここに来た。この手配書にあるヒゲハゲのオッサンは、記念すべきカモ第一号なの♪」


「賞金稼ぎだぁ?」


 男は素っ頓狂な声をあげる。


「お前みたいなガキがそんなモンになれる訳ねぇだろ。奴隷商人に売っぱらわれるか、殺されるのがオチだ」


「そうでも無いよ。俺はすーっごく強いから」


 そう言って、黒竜は連れて来た盗賊達を示す。


「こいつら。仲間だろ? こんなの、モノの数に入らない」


「なっ……!? ガキ! そいつらに何をした!?」


「何もしてないよ? いきなり武器持って殴り掛かって来たから、ちょっと夢見てもらってるだけ。ちゃんと生きてるから大丈夫」


 何やら得体の知れない真っ黒な帯にぐるぐる巻きにされている盗賊達は、皆、額に脂汗を浮かべ、苦悶の表情で喘いでいる。

 黒竜は、そんな男達の様子を全く気にする事無く、笑顔で告げた。


「――で。賞金首のオッサンはどこ? 殺さないから大人しくその身を差し出せ♪」


「…………」


 男は無言で固まる。

 憤って、この少年に攻撃を仕掛けても他の連中と同じような目に遭うだろう。たった一人で、ここまで乗り込んで来るような常識外れの子供だ。

 勝ち目は薄い。


「……教えれば……俺は見逃してくれるか?」


「うん?」


 黒竜は首を傾げた。

 どうやら、仲間の身と引き換えに、自身の安全を確保しようという腹のようだ。

 仲間意識はあまり無いのかもしれない。


「う~ん。そだね~。目的はあくまでも、このヒゲハゲのオッサンだからね。他はおまけみたいなモンだし。もう悪さしないんだったら見逃してやっても良いよ。俺は寛大だから♪」


「……頭は自分の部屋で酒を呑んでる。攫って来た女共とお楽しみ中だ」


「ふ~ん? じゃ、その部屋まで連れてって」


「部屋はこの奥入ってすぐの所にある。行きゃ分かる。言ってみりゃ、ここが頭の部屋の入口みてぇなモンだからな」



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