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黒い竜の物語  作者: 緋翠
35/63

精霊取り替えっこ 4

 

 自分の主に「役立たず」とか「使い物にならない」と思われていたら……そう思うと、居た堪れない気持ちになる。

 と――


「……まあ、それはあくまでもエイの話であって、“他の連中”は随分と出来が良いからな。俺から見れば羨ましい限りだ」


「…………」


 フィリーは水竜の顔を見上げ、


「……地竜様も……“そう”思って下さっているでしょうか?」


「……さあな。それは傍であいつを支えてるお前が一番よく分かってんじゃねぇのか?」


 水竜はそれ以上何も言わず、茶を口にする。

 フィリーもそれに倣って、静かに茶を楽しんだ。

 実際、言葉にして誉める必要も無いほど、水竜の用意してくれた茶と茶菓子は美味しかった。


     ◆◇◆◇◆


 それから――……


「フィリー。迎えに来たよ」


「地竜様!」


 ちょうど、フィリーと水竜が朝食を終えて一息ついていた頃――地竜がフィリーを迎えに来た。

 勿論、エイと共に。

 フィリーは主の姿を目に留めると、迷わずそちらに駆けていく。


「ご連絡頂ければお手を煩わせずとも自力で帰れましたのに……またご無理をなさっていたのでは……」


「大丈夫だよ。フィリー」


「そうそう♪ 昨日、地竜様とはお茶したり、ゆっくり本読んだりしてのんびり過ごしてたから大丈夫♪」


「エイ……」


 エイはフィリーに笑いかけてから、主の許へと向かう。


「水竜様! 只今戻りました♪」


「ああ。見れば分かる」


「水竜様。何か他に掛けるお言葉……ありませんか?」


「地竜ん所が気に入ったなら向こうに居ても良かったんだぞ。その方が静かだし」


「水竜様っ!?」


「……水竜」


 地竜はフィリーの頭を撫でてやりながら、


「突然の事にも関わらず、エイはよくやってくれたよ。労いの言葉くらい掛けてやったらどうだ?」


「…………」


 言われて、水竜はエイから顔を背ける。

 やがて、深い溜め息と共に、


「……まあ……地竜の邪魔にならなかったなら良い」


「地竜様はもっと褒めて下さいました!」


「だから、地竜ん所が気に入ったなら向こうに行けって言ってるだろうが」


「……水竜……それは労いの言葉じゃない」


 地竜は控えめに突っ込んでから、


「じゃあ、俺達は帰るから。エイ。また遊びにおいで」


「はいっ! 地竜様!」


「…………」


 地竜とフィリーが去った後、水竜は小さく呟いた。


「……ご苦労だったな」


「水竜様!」


 エイは、ぱあっと表情を明るくし、


「では水竜様! 朝のお茶! 淹れて来ます♪」


     ◆◇◆◇◆


「――では、風竜様。俺はそろそろ失礼します」


「ええ♪ とっても楽しかったわ♪ また遊びに来てね♪」


「はい――ああ。クレアも戻って来たみたいですね」


「みたいね」


「風竜様。只今戻りました」


「お帰りなさい♪ クレア」


 クレアは、主への挨拶もそこそこに済ませると、まだ滞在していたバランの許へと歩み寄る。

 クレアは、がっ! とバランの胸ぐらを掴み、


「ちょっとバラン! 貴方、火竜様を甘やかし過ぎてやしない!? 向こうを任された私がどれだけ苦労させられたか……貴方に分かる!?」


「ええっ!? え……えと……苦労したのは想像が付く……」


「想像以上よ! 火竜様はただでさえ一番重要な役割を担っていらっしゃるのだから! それをしっかり補佐するのが貴方の役目でしょう!?」


「……仰る通りで」


「まあまあ、クレア。ちょっと落ち着いて♪」


「風竜様! 風竜様からも何か言ってやって下さい!」


「バランはよくやってくれているわ。これ以上の事を求めるのは酷ってものよ」


「風竜様!」


「火竜には私からも一言釘を刺しておくから。バランを責めないであげて。バランは自分に許された力の範囲内で精一杯の事をしてくれているわ」


「風竜様……」


 主に窘められ、クレアはバランから手を離す。


「……ごめんなさい。八つ当たりだわ。貴方を責めても仕方無いのに」


「――いや。クレア。気にしないでくれ。クレアの言う事には一理あるから。無理をさせて……すまなかった。もっと早く帰っていれば良かったな。風竜様の事は早めにクレアに任せるべきだった」


「……バラン」


 バランは風竜とクレアに頭を下げ、


「――では、これで失礼します。火竜様を一人にしておくのは心許ないので」


「――ええ。気を付けてね。バラン」


     ◆◇◆◇◆


 空間転移で戻って来たバランは、神殿の前で暫し考え込んだ。


「……さて。何と進言したものか……」


 取り敢えずは、主の姿を確認しておかねばならない。

 バランは神殿の扉を押し開く。


「火竜様。只今戻り……」


「バラァァァァァァン!」


「!?」


 神殿(うち)に入るなり、火竜はバランに抱き付いてきた。

 火竜は泣きながら、バランの帰宅を喜んだ。


「お帰り! お帰り!」


「……只今戻りました。あの……いかがなさいましたか?」


 こんな事は初めてである。

 完全に混乱しているバランは置き去りに、火竜は一人で喋る。


「私が悪かった! 私が悪かったから!」


「あの……火竜様?」


「これからはちゃんと真面目に浄化する! だからもう置いて行かないで!」


 バランは、その言葉を聞き逃さなかった。


「……火竜様。今のお言葉。本心で御座いますね?」


「本心よ! 本心! もうクレアと二人にされるのだけは御免だわ!」


「――分かりました。火竜様がそうまで仰るのでしたら、暫くはお傍におりましょう」


「バラン!」


「……ですが」


 バランは静かに言い放つ。


「火竜様が邪気の浄化を怠るようでしたら、今度はクレア“にも”手伝って貰いますので、そのおつもりで」


「ええっ!?」


「では、俺はこれで下がらせて頂きます。ご用がありましたらお呼び下さい。それと――くれぐれも水竜様のご迷惑となるような行動はお控え下さいませ」


 何があったのかは知らないが、言質は取った。

 バランは悲鳴じみた声をあげる主の身からするりとすり抜けると、自室へと下がる。


     ◆◇◆◇◆


「――水竜に仕えてみて……どうだった?」


「はい。とても勉強になりました。水竜様は粗雑な方だと伺っておりましたが……とても物静かでお優しい方でした」


「……物静かで優しい……」


 フィリーの淹れた茶を飲みながら、感情なく地竜は呟く。


「どうかなさいましたか? 地竜様」


「……いや。色んな見方があるんだなぁと改めて思って……な」


 不思議そうな顔のフィリーに、地竜は苦笑いを浮かべる。



 ――こうして、地竜の束の間の“息抜き”と、僕達の勉強会(?)は幕を閉じた。



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