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黒い竜の物語  作者: 緋翠
31/63

思い付きお茶会 2

 

「このタルト美味しい」


「お茶も良い香り……」


「ホント? 良かった~♪」


 漸く茶会らしくなってきて、エイは嬉しそうに笑っている。

 茶を飲みながら、バランが呟く。


「――こうしてみると、風竜様のお言葉の意味もよく分かる気がするな」


「そうね。食物で私達が満たされる事は無いけれど、精神的な充足感は得られるわよね」


「地竜様にも、帰ったら何か作って差し上げないと……」


「フィリーは地竜様の事、大好きだもんねぇ♪」


「だっ! だだだっ……大好きだなんて! そんなんじゃ……!」


「おわっ!? 危なっ……!」


 何かと地竜を気に掛けるフィリーに、エイが何気なく放った一言。その瞬間、顔を紅潮させたフィリーの拳がバラン目掛けて飛ぶ。

 バランは、すんでのところでそれをかわしたが……


「あ……ごめん。バラン。大丈夫?」


「あっ……ああ。まあ、何とか……」


「ちょっとフィリー! 気を付けなさいよ! 貴女の出鱈目な拳がバランに当たったらどうするの!?」


「ご……ごめんなさい」


 フィリーは地の精霊で、一見大人しそうに見えるが、四大精霊の中で一番の怪力の持ち主だった。

 その力は拳どころか、料理用のお玉でさえ、岩をも砕く凶悪な武器になる。

 怒りで興奮気味のクレアを、バランとエイが宥める。


「大丈夫だよ。クレア」


「そうそう♪ 落ち着いて♪」


「落ち着いてられますか。フィリーの力は知ってるでしょ? フィリーは地竜様から武術の手解きを受けてないから型も無いし、どこから攻撃して来るか分からないんだから!」


「……そういう所はクレアにもあるぞ」


 バシッ! と、今度は狙い澄ましたような鋭い拳がバランを襲う――が、これは受け止め、


「ほらな」


「……貴方が余計な事言うからでしょう?」


「あれ? 今、体術の訓練してるんだっけ?」


 いつの間にか、バランとクレアの蹴りや拳の応戦になると、エイがぽつりと呟く。


「お茶会なんだから、喧嘩は止そうよぉ。私、体術は得意じゃないし」


「あ……どうしよう。私のせい?」


 おろおろと狼狽えるフィリーに、エイは苦笑混じりにかぶりを振り、


「フィリーのせいじゃないよ。あの二人が勝手に始めちゃっただけだし」


 言って、エイはいつも手にしている箒を手に取ると、かぽっと先っぽと柄を分けた。すると、箒は鋭い穂先の槍へと変わる。

 エイはその槍をくるくると回し、


「はいはい♪ そこまで、そこまで~♪」


 エイは隙を見て、二人の間に槍を投げつけた。エイの放った槍はバランとクレアの間に突き刺さる。


「!」


 間に割って入った文字通りの“横槍”に、クレアが声をあげた。


「エイ!」


「二人の決着が着くの待ってたら、お茶が冷めちゃうでしょ~?」


 エイは、何か言いたげなクレアの声をさらっと流す。

 タルトの乗った皿とカップを手に、


「今日はお茶会♪」


「…………」


「それに、そんなに騒いでたら水竜様が起きちゃう」


「あ……」


「水竜様も、風竜様程じゃないけど地獄耳……」


 刹那。

 ――ごっ。


「誰が地獄耳だ」


「す……水竜様……痛い……です……」


「だろうな」


 思い切り頭上に落ちてきた踵に、エイは涙目になりながら呻く。振り向くと、明らかに不機嫌そうな顔をした水竜の姿があった。

 水竜は、大きく溜め息をついて、


「お前ら……静かにしろって言っただろうが」


「水竜様!」


「も……申し訳御座いませんっ!」


「……いいけどよ。訓練なら余所でやれ」


「は……はい」


 立ち去って行く水竜の背中を見送って、僕同士顔を見合わせる。


「早く片付けちゃおうか」


「あっ、待って。私、まだタルト一口しか食べてない」


「俺もこのハーブティー。おかわり貰いたいな」


「じゃあ、淹れ直してくるね♪ 水竜様もお目覚めなら、お茶をお持ちしなきゃいけないし♪」


 改めての改めて。

 “お茶会”らしく、雑談に戻る。


「……そう言えば気になってたんだけど……」


「何? バラン」


「いや……先日、“神の心臓”が見付かったって話……」


「ああ! あれねぇ……あれ? バランのとこには連絡いかなかった?」


「あれあれ」と連発するエイに苦笑しながら、


「いや。昨日……地竜様から」


「何で昨日? 見付かってからもう結構経つよ? そして何で火竜様じゃないの?」


「『めんどくさかったから』だそうで……昨日なのは遺跡調査から戻って来たのが昨日だから」


「あらまあ。相変わらずバランは大変だねぇ……」


「まあ……いつもの事だけど。で――エイは会った事あるんだろ?」


「あるよ~」


 エイはバランのカップにハーブティーを注ぎながら、


「でも、黒竜様が来ると家が壊されるから修復が大変なんだよねぇ……」


「……“黒竜様”?」


 バランが訊くと、エイは頷く。


「そう。“神の心臓”を持つあの方は、事実上、四聖竜と同等の扱いになるから」


「……でも、一介の竜族であるブラックドラゴンに“心臓”を持たせたままで大丈夫なの?」


 今度訊いてきたのはクレアだった。

 これにも、エイは頷いてやり、


「今のところはね。まあ、地竜様も色々とお考えがあるようだったし……大丈夫なんじゃないかな。黒竜様の機嫌さえ損ねなければ」


「でも……四聖竜と同等なんて……」


「実力は天竜様に匹敵するって地竜様は仰ってたよ♪」


「天竜様に!?」


「……そりゃ“様”扱いになる訳だ……まあ、“神の心臓”は強大な魔力を秘めているからなぁ」


「それを抜きにしても、四聖竜に匹敵する魔力は持ってるって。だから暫くは様子見らしいよ♪」


「様子見……か」


「まだ子竜らしいし」


「でも食欲だけはしっかり一人前で、胃袋ブラックホールなんじゃないの? ってくらいよく食べるよ~♪ まあ、作り甲斐はあるけどねぇ♪」


「…………」


 ニコニコと笑顔を浮かべるエイに、一同は嘆息する。

 それから、程なくして粗方皿の上とカップが空になった頃――


「……さて。あまり長居しても、また水竜様にご迷惑をお掛けするかもしれないし……俺はこの辺で失礼するよ」


「……そうね。私も風竜様が心配だし……帰るわ」


「じゃあ……私も……」


「そう? 残念~」


 お開きの雰囲気が漂い、エイは残念そうに俯く。

 バランは微笑み、


「美味しかった。またこういう機会があると良いな」


「――そうね。たまには悪く無いわね」


「また遊びに来てね♪」


「勿論」


 ふわり……と、空間転移の光がバランの身体を包む。

 バランは軽く手を振り、


「じゃあ、また」


「うん♪ 気を付けてね~♪」


「じゃあね。エイ」


「またね」


「今度は“女子会”って言うのも良さそうだね~♪」


「……そうね。機会があれば……ね」


 フィリーとクレアも姿を消すと、後にはエイだけが残される。

 全員を見送って、エイはよしっと気合いを入れ直す。


「……さてと。後片付けしなくちゃ!」


     ◆◇◆◇◆


「火竜様。只今戻りました」


「……あら。バラン。もう帰って来たの。もう少し遊んで来たら良かったのに」


 ソファーの上でゴロゴロしている火竜に向けて、バランはかぶりを振る。


「そう言う訳にもまいりませんでしょう。あまり長居しては、水竜様にご迷惑が掛かっ……」


「水竜!」


 バランの声は遮り、火竜はがばと飛び起きる。


「……火竜様?」


「そうよ! あんたが水竜の所に居れば、あんたを迎えに来たって大義名分が立って、堂々と水竜に会いに行けるじゃない!」


「……火竜様……」


 バランの呻きは無視して、火竜はさっと外を指差す。


「バラン。もっかい行ってきなさい」


「嫌です」


 キッパリと言い切って、バランはさっさと自室に戻った。


     ◆◇◆◇◆


「地竜様!」


「んっ? ああ、フィリー。お帰り」


「はい。只今戻りました」


 地竜は読んでいた本を閉じて、フィリーを出迎える。


「茶会はどうだった?」


「はい。とても楽しかったです」


「そうか。それは良かった」


「……また……お休みになられていなかったのですね」


 フィリーは積み上げられた書物を見て溜め息をつく。

 すると、地竜は笑う。


「別に無理はしてないよ。少し調べておきたい事があっただけだから……でも……そうだな」


 地竜は手にしていた本を棚に戻し、


「今日はゆっくりフィリーの話を聞いて少し気を抜こうか。根の詰め過ぎは良くないから」


「地竜様!」


 フィリーは、ぱぁっと表情を明るくし、


「では、お茶を淹れて来ますね。エイからとても香りの良い茶葉を分けて貰ったんです」


「へぇ。それは楽しみだな」


 茶を淹れながら、フィリーは「やっぱりこの方の傍に居られるのが一番幸せだな」と思うのだった。


     ◆◇◆◇◆


「風竜様。只今戻りました」


「クレア。お帰りなさい♪」


 まるでクレアが戻る事を予知でもしていたかのように、風竜はクレアを出迎えた。


「お茶会。楽しめた?」


「ええと……あの。はい」


「そう。良かった♪」


「あの、風竜様……」


「たまには貴女達も親睦を深める事が必要だものね♪」


「はい。それは……そうなのですが……」


「で、今度は“女子会”とか言うのを考えてるんでしょう? 私も行って良いかしら?」


「……はい。勿論です」


「楽しみね♪ いつにしましょう?」


「…………」


 クレアは無言で溜め息をついた。

 聞いては貰えないだろうが――念の為言っておく。


「風竜様。突発的な行動は控えて下さい。今日も水竜様にはご迷惑をお掛けしてしまいましたから」


「――そう。分かったわ。水竜にはまたお礼を言っておくわね」


「えっ? あ……はい」


 珍しく耳を傾けてくれた――と思っていたら。


「私が『人の忠言に耳を傾ける訳がない』って思われたままでも困るものね」


「…………」


 聞かれてた。


「あの……くれぐれも水竜様と揉めたりはしないで下さいね?」


「分かってるわよ♪」


 クレアは、うふふ。と笑う自分の主に改めて底知れぬ恐怖を覚えるのだった……



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