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黒い竜の物語  作者: 緋翠
29/63

四聖竜の事情

 

 それは、彼らが長年探し続けていた“神の心臓”が見付かって数日後の事――


「水竜ぅぅぅぅぅぅっ! 会いたかっ……!」


 ――ごす。

 問答無用で放たれた水竜の拳は、火竜の顔面にめり込む。


「ウザい。暑苦しい。近寄るな」


「ううっ……酷いわ。水竜。でも……それが貴方の愛情表現なのよね♪ こんな人前で抱擁なんて……ちょっと照れくさいだけよね♪ 分かってるわ。言わなくても!」


「……なぁ。こいつ殺して良いか?」


「ちょっと待て。水竜。それはさすがに……こんなんでも欠けると後が困る。特に俺が」


「『こんなん』とは何よ!? 地竜! あんた、私に喧嘩売ってんの!?」


「まあまあ♪ せっかく私達四人揃ってのお茶会なんだし……少し落ち着きましょ♪ ねっ?」


「……風竜。お茶会じゃないんだよ? 一応、報告しておかないといけない事があるから集まってもらっただけで……」


「あら? そうなの? それにしても私達が全員揃うなんて何千年振りかしら。楽しいお茶会になりそうね♪」


「いやだからお茶会じゃないって……」


「その前に……何で俺ん家なんだよ!? 集合場所が!」


 一通り全員が喋り終えた所で、水竜が痺れを切らしたように声を張りあげた。

 地竜は困ったように眉根を寄せ、


「いや……多数決で決めたら……お前の所に」


「多数決で決めるからだろうが!」


 ばんっ! と水竜がテーブルを叩き付けた瞬間、一瞬カップやケーキの乗った皿が宙に浮いた。

 その後、またきっちり元の場所に戻る。

 紅茶の一滴も零れる事は無く、手元に戻って来たカップを手に、風竜がやや的外れに窘める。


「まあ、落ち着いて。水竜。せっかくのお茶が台無しになるところだったわよ? エイが私達の為に頑張ってくれたんでしょう?」


 すると、水竜の背後に控えていたエイが手を挙げ、


「はいっ! 皆様がお揃いなると聞いて……私、張り切っちゃいました♪」


「…………」


 乱暴に立ち上がった時、吹っ飛んでいった椅子を引き寄せ――水竜は、どかっと座り込む。


「……もういい。さっさと本題に……」


「それにしても良い香りね、このお茶。私達は食事なんて必要無いんだけど、こうして見た目は勿論、香りや味を楽しむのは良いモノよね♪」


「お前は一番料理と縁遠いからな」


「……何か言ったかしら? 水竜?」


「……別に。もういいからさっさと話を……」


「ちょっと水竜! どうしてさっきから私には話し掛けてくれないの!?」


「話を始めろ」


「無視!?」


「…………」


 色々と思う所はあるが、いちいち突っ込んでいるとキリが無いので、地竜が仕切り直す。

 軽く咳払いをしてから、


「報告って言うのは、先日見付かった“神の心臓”についてだ」


「確かブラックドラゴンの子供と同化してるのよね?」


「うん。って風竜……話す前から核心に触れるの止めてくれないか?」


「あら。だって仕方無いじゃない。地竜。私は“風”だもの。外に出なくても色々と聞こえて来るのよ。ここを荒らすだけ荒らしてどこかに行っちゃったんでしょ?」


「……うん。そう」


「おい。こいつ呼ばなくても良かったんじゃねぇか?」


「あらいやだ。水竜ったら。私だけ仲間外れにするつもり? せっかくのお茶会に」


「だから、茶会じゃねぇって言ってんだろが」


「……取り敢えず……結論から言うと、あのドラゴンは当面、様子見と言う事になる」


 地竜がそう言うと、風竜は軽くカップに口を付ける。

 紅茶の香りを楽しんでから、


「――そう。地竜がそう言うならそれで良いんじゃないかしら? 何かあれば天竜も動くでしょうし」


「……ちょっと……私だけ置いてけぼりなんだけど」


「はい。解散~」


 ぱんぱんと手を叩き、水竜が他の者に退出を促す。


「まあ。今来たばかりなのに……もう解散? ブラックドラゴンの子供の事は兎も角、もう少しゆっくりさせてくれても良いんじゃないの?」


「話さないでも聞こえてんだったら、集まる必要もねぇだろ」


 水竜が吐き捨てるように言う。

 しかし、風竜はそれをさらっと受け流す。


「“私は”でしょう? 他の人はちゃんと情報共有して、状況を把握しておかないと駄目なんじゃない? それに……今回は“心臓”が見付かったタイミングが悪いわ」


「…………」


 言われて、水竜も含め、他の者も黙り込む。

 その沈黙を破ったのは地竜だった。


「――確かに、風竜の言う通りだ。“心臓”が見付かったのは一つ良かった事だが……万一、あの力が暴走した時……今の俺達じゃ止められない可能性が高い。今はちょうど俺達の魔力が落ち込む時期と重なるから」


「……まぁな」


 水竜は頬杖を付いて同意した。

 四聖竜は常に世界を安定させ、破壊神が目覚めないよう結界を張り、それぞれが司る力の源を清め続けている。

 だが、古代神戦の時に受けた傷が原因で、四聖竜の魔力は千年に一度、急激に弱まる時期があった。

 それは自身の傷を癒やす“休息時間”のようなものだが、その時、封印していた“心臓”の結界が解け――結果、ブラックドラゴンと同化するという事態に至った訳だ。


「……だから、封印しなかったのは、何もあの竜の事ばかりを気遣った訳じゃない。俺達が護る“奴の身体”をこれ以上、目覚めさせない為でもある」


「じゃあ、私達の力が戻ったら封印する事になるのかしら?」


 風竜が地竜に問う。

 すると、地竜は難しそうな顔をした。


「それなんだが……正直、“心臓”発見のタイミングより、そのドラゴンの方が問題で……」


「どういう事?」


「……“奴”が同化出来たのは、あのブラックドラゴンにそれだけの“力”を支える素質があった――って事だ」


「そうね」


「その上、あのブラックドラゴンは、神の力を抑え込んで自分の物にしてる……」


 地竜はちらと風竜に視線を向け、


「……多分、あのブラックドラゴンは、歴代竜族の中でも最強と言って良い魔力を内に秘めてる。“それ”と同時に“心臓”の力を抑えるのは……難しいと思う」


「……つまり……その子は私達と同じように……“神の身体”と悠久の時を生きる――って事?」


「……今のままならそうなりそうだ」


「地竜。それは――世の……生物の理を乱す事だわ。死すべき種族に不死の力を持たせたままにするのは危険過ぎる」


「ならどうする?」


 口を挟んだのは、水竜だった。


「また、この世界を全部巻き込んでドンパチやらかすか?」


「そうは言ってないわ」


「同じ事だ。“奴”は、今は大人しくしてる。だが、封印しようとすれば必ず反発するだろう。無意識にでもな。その時、万が一にもブラックドラゴンの意識が乗っ取られるような事になれば、面倒な事になるのは確実だ」


「だからって……」


「だからと言って、このままで良いとも思わない」


「地竜?」


 地竜は苦笑し、


「だから言ってるだろう? 様子見だって。封印するのは“難しい”であって“不可能”じゃない」


「…………」


「多大な犠牲を払う事にはなるだろうが……もし“奴”が目覚めるようなら封じなければならない。そして、世の理を乱すかどうか“監視”出来るのは俺達しか居ない――って事だ」


 ふぅ……と、風竜は溜め息をつき、


「“監視”……ね」


「そう。どの道、今動くのはリスクが高過ぎる。最終的にどうするかは天竜の判断に委ねられる――かな。単身で“心臓”を抑えられるのは“神の頭脳”を持つ彼女しか居ないだろうし」


「……そう……ね。結局、私達には抑えきれなかった訳だし」


「……ああ。だから同じ過ちを繰り返してはいけない。俺達で封印するなら時期を考える必要がある――って事」


 地竜は、ふっと難しい表情を崩し、


「……と、まあ話しておきたい事はそのくらいかな。だから、“心臓”――いや。“黒竜”に会ったら、取り敢えず俺達と同等の扱いになる。それは水竜の所に張ってあった結界をすり抜けられた事からみても明らかだ。黒竜が“心臓”を持ってる限り弾けない」


 すると、エイが嫌そうな顔をして口を開く。


「えっ! じゃあ“黒竜様”って呼ばなきゃいけないんですか!?」


「いや……呼び方は別にどうでも……」


 どこか呆れたように、地竜は応じる。


「兎に角。下手に刺激しない事。大人しくしててくれれば、普通の子竜と変わらないから」


「分かったわ」


 地竜の言葉に風竜は頷く。

 水竜は嘆息して、


「……じゃあ、今度こそ――……」


 水竜の声を遮り、風竜がにこやかに提案する。


「今度こそ、みんなでお茶会ね♪」


「――じゃねぇだろ!? 帰れよ! お前ら!」


 と――今まで完全に空気と化していた火竜は、がばと跳ね起き、


「私は帰らないっ!」


「お前が一番に帰れ!」


「ふ~……やっぱりこのお茶美味しい♪ エイ? おかわり貰える?」


「はい♪ 喜んで♪」


「…………」


 目の前の光景を眺めながら、地竜は思う。

「次からは個別に連絡取ろう」――と。



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