真実との邂逅 3
「じぃちゃん――君のおじいさん?」
その問いに、黒竜はかぶりを振る。
「じぃちゃんとは、血の繋がりは無い。そう呼ぶのがめんどくさいから、『じぃちゃん』って言ってるだけ。じぃちゃんは、俺達ブラックドラゴンの長だ」
「ブラックドラゴンの長……」
「……竜王アルガディロス」
竜界最強と言われた強大無比な魔力と知力。
“竜王”の証を持った唯一のドラゴン……
「……何? じぃちゃんの事知ってんの?」
「――いや。面識は無い」
地竜はかぶりを振り、複雑な思いで黒竜を見詰める。
「……そうか。アルガディロスの……」
「……結局、何の話がしたいんだよ?」
どこか苛立ちを見せる黒竜に、地竜は問う。
「黒竜。君は……君の持つ“力”について族長から何か聞いてないか?」
「“力”?」
黒竜は暫し虚空を見据え、
「……そう言えば何か言ってな。昔、俺は二つの力を持ってるって」
「二つの力?」
黒竜はフォークを口にくわえる。
あまり話したく無いのか……先程と比べて、口数が少ない。
「――……一つは竜族としての力。もう一つは……」
黒竜は口を閉ざす。
言葉を選ぶようにして、小さな溜め息と共に言葉を吐き出す。
「……大切なモノを護る力だって言ってた。運命を変える特別な力だって」
「…………」
地竜は目を閉じる。
そして、改めて名乗った。
「……俺は地竜。この世界を守護する四聖竜の一人だ」
それを聞いて、黒竜は目を丸くする。
「四聖竜の? って事はやっぱりこいつも……」
黒竜は水竜を指差す。
地竜は頷き、
「そう。水竜。俺と同じ四聖竜の一人」
「ほら! やっぱりそうなんじゃん!」
「うるせ」
水竜は半眼になって呻く。
地竜は苦笑しながら、
「口も態度も悪いが、性根はそこまで腐った奴じゃない。ちょっと感情表現が下手なだけだ」
「……地竜。てめぇ……」
睨み付けて来る水竜は無視して、地竜は話を戻す。
「黒竜。君の持つその力は確かに特別なモノだ……俺達はずっとその力を探していた……」
「……どゆ事?」
無邪気な顔で訊き返して来る黒竜に、苦笑いを浮かべ、
「君の持つその力は……かつて俺達が封印した破壊神の力だ」
「!」
「俺達は“そいつ”を封じる為に、あちこち探し回った。けど見付からなかった……それもそのはずだ。“そいつ”には自我が無い」
地竜は黒竜に向けて、軽く左手を翳す。
「力も記憶も全て君の中に飲み込まれ、完全に君の支配下にある。だから今まで気付かなかった……」
「……つまり?」
遠回しな地竜の言に飽きたという風に、黒竜が促す。
「……つまり、“そいつ”を封じるには今が絶好の機会って訳だ」
言って、地竜は僅かに琥珀色の瞳を陰らせる。
「……ただ、それは――黒竜。君の死を意味する」
「…………」
地竜は手を下ろす。
黒竜はフォークをテーブルに置き、
「……それ……どういう事だよ?」
「“神の力”は絶大だ。君は、そうしている間にも命を削られている。魔法なんて使おうものなら更にだ。だが、封印する為には君の中から“神の力”を取り出さないといけない。恐らく……その瞬間、君の命は尽きる。仮令、そうでなくても長くは生きられないだろう」
「…………」
「――そして、もうひとつ。力を抜かずに封じる方法がある」
地竜の言葉は待たず、黒竜は吐き捨てた。
「要は、この身体ごと封じる――って事だろ?」
「……ああ」
地竜は頷き、
「それが一番安全で確実なやり方だ。無理に“そいつ”を引き出せば、その力が暴走する可能性が高い。だが、器があれば、その危険性を減らす事が出来る」
それを聞いて、黒竜は深々と嘆息した。
「……全く。コレだから神様ってのは好きになれない。厄介事ばっかり押し付けやがって」
黒竜は、地竜と水竜――交互に見やり、
「……で? 結局どうするんだ?」
「そうだな」
地竜は手を組み、何か考える仕草を見せ、
「――君はどうしたい?」
「どう……って……」
「俺達の立場から言わせてもらえば、このまま大人しく封じられてくれるのが有り難い……でも、正直なところ……俺はそれをしたくない」
怪訝な表情を浮かべる黒竜に、地竜は笑う。
「君には自分で進む道を選ぶ権利がある」
地竜の言葉に、黒竜は半眼になって呻く。
「それって選択の余地あんの?」
いずれにしても自分は死ぬしか無いという残酷極まりない真実。
何かを護るどころか、自分の生はここで終わるというのに?
すると、地竜が口を開いた。
「その力を封じるなら君は死ぬ。封じなければ君は死なない」
黒竜は目をぱちくりさせ、
「封じないと困るんじゃねぇの?」
「……まあね。でもそれは君の意識が無い場合の話だ」
「よく……」
意味が分からないと言いたげな黒竜に、地竜は苦笑混じりに告げた。
「君の精神が全て乗っ取られて、何もかも全て破壊し尽くす――という場合なら封じないとならない」
「…………」
「――けど、君は違う。そうだろう?」
「うん」
頷く黒竜を見て、地竜は笑った。
「まあ、そう言う事だ。危険が無ければ、その命を奪ってまで封印する必要は無い」
「……本当に危険が無いとは言えねぇがな」
「…………」
水竜の言葉に黒竜は眉を顰める。
地竜は、一瞬水竜を睨んでから、
「悪く思わないでくれ。水竜も悪気があって言ってるんじゃ無いんだ」
「……まあ、別に良いけど……」
黒竜は頭の後ろで手を組み、地竜に問い掛けた。
「結局、俺はどうすりゃ良いんだ?」
黒竜の問いに、地竜は事も無げに答えた。
「君の好きにすると良い。世界を滅亡させるような真似をしなければ、君は自由だ」
地竜はカップを手に取り、軽く口を付ける。
「……君の持つその力――俺達は“神の心臓”と呼んでいるが……それを持っている限り、君が死ぬ事は無い」
「……死なない?」
地竜は頷く。
「神は不死だ。その力を持つ君も、不死の力と強大な魔力を持っている」
「不死……」
感情の無い声音で黒竜が呟く。
「君は今まで自分の意思で生きてきた……それを俺達の都合で終わらせる事はしたくない」
「…………」
「その力が何かの弾みで暴走したなら、それは止めなければいけない。仮令、君の命を奪う形になったとしても……だが――……」
地竜は、黒竜の眼を見据え――続ける。
「だが、もし君が“その力”を抑制し、コントロール出来るなら、君の自由を奪うような事はしない」
「…………」
それを聞いて、黒竜は皿の上に残っていたケーキを平らげ、
「……ん~、取り敢えず……俺が“俺”でいる間は自由って事だな?」
「ああ」
「……分かった。じゃあ好きにさせてもらう。思ったより退屈な話だったから眠くなった。今日は帰る」
そう言うと、黒竜は再び壁に手を当て――壁を粉砕させて無理矢理出口を作る。
「てめぇ!」
「じゃあな♪ ケーキは美味しかったからまた来る♪」
水竜の怒声は無視する形で、黒竜はそのまま姿を消して行った……
「……あンの野郎……また壁ブチ抜いて行きやがって」
「お前だってやっただろうが」
言われて、水竜は地竜を睨み付ける。
地竜は軽く肩をすくめ、
「それはそうと……今日は珍しく大人しかったじゃないか」
「……いちいち説明すんのが面倒だっただけだ」
水竜の指が触れた壁は、一瞬で元に戻る。
「そんな事より……あれで良かったのか?」
「……分からない」
水竜の問いに、地竜は複雑な表情を浮かべる。
「この先、あの竜の力がどれだけ増すか定かじゃないが……もしかしたら俺達の力じゃ止める事が出来なくなるかもしれない」
「…………」
それは充分に考えられる事だ。
ブラックドラゴンの魔力が他竜に比べて、ずば抜けて高いと言っても、あの少年竜の力は強大過ぎた。
今より成長した彼の力がどれだけのモノになるのか――考えるだけで寒気がする。
「……天竜も何も言って来ない所を見ると、これで良いのかもしれない。もしかしたら、天竜の手にも負えないのかもしれないが……今は様子を見るしか無い」
「……面倒な事にならなきゃ良いがな……」
水竜は、黒竜の消えていった方向を見やる。
日は落ち、辺りは深い夜の闇へと沈んでいた……




