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黒い竜の物語  作者: 緋翠
23/63

旅立ち 3

 

 黒竜はサラの肩を抱く。

 少し驚いたような表情のサラに、黒竜は苦笑した。


「……ホントはあんまり使いたくなかったけど……しゃーない。ちゃんと掴まってろよ。落っこちるから」


 そう言うと、黒竜は自分の周囲の重力を中和し、体を宙に浮かせる。

 そして、徐々に加速しながら飛行した。

 最初は驚いていたが――やがて、サラが歓声をあげる。


「スゴイ、スゴイ! コクリュウ、空飛べるんだ!」


「まあね。はしゃいで落ちるなよ」


 キャッキャッとはしゃぐ少女に黒竜は嘆息した。


「ねぇねぇ? どうして初めから飛んで行かなかったの? 飛んだ方が速いんじゃないの?」


 彼女の問いに黒竜は小さく答える。


「……魔力を持たない人間がいきなり強い魔力に触れると、その魔力に当てられるからだよ」


「…………?」


 いまいち理解出来ないと言うふうな表情の少女に、黒竜は言い直した。


「……具合が悪くなるの」


「……そうなの?」


「うん」


 自分一人なら兎も角、人間――しかも幼い子供を連れていたのでは長距離の飛行は出来ない。

 それでも――


(……それでも足跡は消えるし……せめてこのまま森を抜けられれば――……)


 そう思った時。


「……コクリュウ……」


「ん?」


「……気持ち悪い」


「もう!?」


 真っ青な顔でサラが呻くのを聞いて、黒竜は慌てて魔力を解き、地に降りる。


「……大丈夫?」


 サラの顔を覗き込む――が、その顔色は悪い。


「……空飛ぶのって楽しそうって思ってたけど……もういい……」


「…………」


 ぐったりとするサラを見て、黒竜は胸中で独りごちる。


(……こんな調子じゃ歩かせる訳にも……)


 結局――黒竜は彼女を背負い、歩き出した。


     ◆◇◆◇◆


「シオ。ホントにこっちで良いのか?」


「ああ」


 シオは頷きながら地面を指し示す。


「昨日の雨でぬかるんだ地面に真新しい足跡が残ってる。ガキ共はこの道を通った。間違いない」


「…………」


 歩きながら、男達が声をあげる。


「……ガキを見付けて……連れ帰ったら……俺達どうなるんだ?」


「さあな……」


「無駄口叩いてねぇでさっさと歩け」


 シオが会話を中断させる。

 それから男達は無言で歩き続けた。



「……コクリュウ……」


「ん?」


「まだ……街に着かないの?」


「……まだ森も抜けてないからなぁ……」


 サラはぐったりと黒竜の背にもたれる。


(……早くどっかで休ませてやらないと……)


 黒竜は少女の顔に視線を向けた。

 すっかり血の気が引き、呼吸も弱々しい。


(……まさかここまで弱いなんて……)


 自分の魔力に僅かに触れただけ。

 ただそれだけなのだが――この少女は今にも死にそうな表情をしている。


「こんな事で死ぬなよ」


 黒竜は少女に声を掛けた。

 と――その時。


「……結構足速いのな。アンタら」


 ガサッ――と、草を踏み分ける音と共に、先程の盗賊達が姿を現した。


「……やっと追い付いたぜ。さっきはやってくれたな」


「やれって言ったのはそっちだろ?」


「……コクリュウ……」


 盗賊達は黒竜と少女を取り囲む。

 黒竜は小さく息を吐いた。


「しかし……しつこいな。そんなにこの娘が欲しいワケ?」


「勘違いするな。ガキには興味無いと言っただろう。それと――……」


 男――シオはスッと黒竜を指を指し、


「用があるのはその小娘じゃなくて、お前だ。黒チビ」


「黒ち……っ!?」


 黒竜は、一瞬言葉を詰まらせたが――激しくかぶりを振って叫んだ。


「誰が黒チビだっ!? 誰がっ!」


「お前だ、お前。怪我したくなかったら、おとなしくするんだな」


 それを聞いた黒竜は鼻で笑う。


「ふん。それはこっちのセリフだ。今度は夢見る程度じゃ済まないぞ」


「その小娘を背負ったままじゃ、ろくに動けんだろ?」


 盗賊達は徐々に近付いて来る。

 黒竜は、ちらと少女の顔を見た。


「……どうかな?」


「ガキを捕らえろ!」


 その声と共に盗賊達が一斉に襲い掛かって来る!

 その瞬間、黒竜は少女を背中から降ろし、そのまま高く飛び上がった。


「なっ……!?」


「自分だけ逃げる……か?」


 男の声に、木の上から黒竜が言い放つ。


「別に俺がその娘を護ってやらなきゃならない理由は無い。一緒に居たのは成り行きだ」


「……にしても、あっさり見捨てるとは……薄情なヤツだ」


 男はぐったりと動かない少女の体に手を伸ばした。


「そうでもねぇよ」


 男を見据えながら、黒竜は右手を掲げる。


「少し距離置かないと、また具合悪くなっちまうからな」


 黒竜がそう言った――刹那。

 彼の掌から黒い帯状の光が伸びる。

 その光は盗賊達を撃ち据え、弾き飛ばした。


「何だっ!? これは……!」


「ぐわっ!?」


 盗賊は悲鳴をあげて、次々倒れていく。

 黒竜は木の上から降りると、少女を抱き上げた。


「さて……と。今のうちに……」


 黒竜が一歩踏み出した――その時。


「!」


 背後から鋭い気配を感じて、黒竜は大きく飛び退いた。

 黒竜のすぐ横を、風の刃が通り過ぎていく。


「……風……」


 風の刃が飛んできた方へ視線を向けた。

 見ると、一人の男がこちらに手を翳している。


「……シ……シオ」


「そうか……アンタ、少しは魔法が使えるんだ」


「……おとなしく俺達と来い。悪いようにはせん」


 他の誰も動けない中、一人立ち上がり、攻撃まで仕掛けてきた――

 黒竜は面白がるような表情でシオを見据える。


「せっかく良い力を持ってるのに……こんな所で失うのは勿体なくない?」


「……俺達と来い」


 黒竜は嘆息した。


「嫌だって言ったろ?」


「なら……無理矢理にでも連れて行く」


 シオは再び魔法を放とうとする。


「……はぁ。参ったなぁ……」


 少女を抱えたまま、黒竜は呻いた。

 シオが突き出した両腕に風が集まっていく。


「コク……リュウ……」


「――仕方ねぇ」


 黒竜はそう呟くと、右腕を頭上に突き出す。

 黒竜の掌から強烈な熱波が巻き起こり――周囲の木々を一瞬で焼き払う。


「何っ!?」


 シオが狼狽えた隙に、黒竜は背中から漆黒の翼を生やし上空に舞い上がった。


「んなっ……!?」


「じゃあな! 俺は人間殺す趣味は無いから!」


「待っ……」


 盗賊達が呆気に取られ何も出来ずにいる間に、黒竜は少女と共に空の彼方に消えていった……


「……なっ……何だあのガキ……」


「背中から羽根が……」


 盗賊達は信じられないというような表情で呻く。


「……シオ。あのガキ……」


「……人間じゃねぇ。アレを見りゃ分かるが――……」


「まさか……獣人か? 確か翼を持つ連中が居ただろ?」


 仲間の問いにシオはかぶりを振った。


「翼人がこんな低地に下りて来るか」


「と……とにかく後を追った方が良いんじゃねぇか? 向かった方角だけでも確認しておかねぇと……」


 未だに頭は混乱しているが、やるべき事は分かっている。


「……そうだな。行くぞ。急げ」


 盗賊達は全力で駆け出した。


     ◆◇◆◇◆


「……さすがに空までは追って来ねぇか。でも……」


 眼下に広がる景色を見ながら――黒竜は少女に視線を移す。

 少女は驚いたような表情を浮かべたまま固まっていた。


(魔力で飛んでるんじゃないから、体には影響無いはずだけど――……)


「……コ……コクリュウ。それ……」


 夢から覚めたように、少女が声をあげた。

 震える指で黒竜の翼を指差す。

 黒竜はぽりぽりと頭を掻いた。


「うん。まぁ……見ての通り」


「……モンスター……なの……?」


「そうだなぁ……“そっち”から見たらそうなるかな」


 黒竜は少女から視線を逸らした。


「……私を食べるの?」


「……は?」


 少女の問いに黒竜は眉根を寄せた。


「魔物は人を食べるってお母さんが言ってた。コクリュウは魔物なんでしょ? 私のコト食べるの?」


 黒竜は深々と嘆息し、呻く。


「……俺は人間なんか喰わない。好き好んで喰うヤツもいるけど……少なくとも俺は喰わない」


 不安げな表情を浮かべる少女に、黒竜は軽く笑った。


「もしそのつもりがあるなら、森で見付けた時に喰ってらぁ」


「……あ。そっか。そうだよね」


 少し安心したのか、サラが小さく息を漏らす。

 と、視界の端に街が見えた。


「おっ。やっと見えたな」


 黒竜は速度を上げ、街へ向かって行った。



 街から少し離れた場所に着地し、そこから歩いて街へ向かう。

 街に着くなりサラが声をあげる。


「あっ! ここ、おばあちゃんが居る街だ!」


「……おばあちゃん?」


 黒竜は首を傾げた。

 サラは嬉しそうな表情で頷く。


「私のおばあちゃん。お家に遊びに行くと、いつもお菓子くれるの♪」


「……へぇ」


 街へ着いたは良いが、幼い少女がたった一人で帰るとなると大変だろうと思っていた黒竜は、漸く肩の荷が下りた気がした。



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