表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い竜の物語  作者: 緋翠
22/63

旅立ち 2

 

 黒竜は口元に手を当て、


「要するに……アンタら……盗人ってコト?」


「なんだ。今頃気付いたのか」


「……ふぅ~ん。つぅ事は……悪い人達ってコトだね?」


「まっ、世間一般でいうところの“イイ人”じゃあねぇかもなぁ……」


 男がニヤニヤと笑いながら言う。

 黒竜はきっぱりと言い切った。


「そうか。だったら尚更付いてく必要ないな」


 男は溜め息を吐く。


「……まだ分からねぇのか? ガキ。てめえにゃ選択権はねぇんだよ」


「そっちこそ。ホントに分かってないな。俺がその気になれば、お前ら全員一瞬で消せるってのに」


「ははっ! 出来るモンならやってみろよ。子供の水遊びで俺達全員やれるならな」


 言われて――黒竜は不機嫌そうな表情を浮かべた。


「……死にたいってんなら止めやしないけど。後で後悔するなよ」


 その呟きと共に、一瞬辺りは強い光に包まれた。


「!」


「なっ……! 何だ!?」


 男達が狼狽えた声をあげる。


「落ち着け。こんなただの目暗まし……」


 シオが仲間に声を掛けた――その時。


「…………!? 体が……動か……」


「シオ! 足……体が……石に!」


「何っ!?」


 シオが足下に視線を向けると、もう腰までが石になっていた。


「石化の術だと……? こんな高位魔法……こんな……こんなガキが……!」


 シオは黒竜を睨み付ける。


「今すぐ術を解け! 首へし折るぞ!」


 必死の形相で言ってくる彼に、黒竜は気楽な様子で答えた。


「やれって言ったのはアンタらだろ? だからやってみせたのに」


「いいから解け! さもないと……」


 シオが黒竜の首に手を掛けた――瞬間。

 黒竜の姿がフッ……と消える。


「んなっ……!?」


「魔力も封じてないのに……ただ掴んでるだけで、俺がおとなしくしてると思う?」


 背後から、少年の笑い声が響く。


「アンタはちびっと魔力があるみたいだけど――あるだけで、その力の差を判断出来る程じゃあないんだねぇ」


 少年はくつくつと笑いながら、


「ま、分かってたらあんな捕まえ方してないだろうけど」


「…………」


 既に体の半分以上が石化している。

 シオは僅かに首だけを動かした。


「お……お前は……一体……」


 彼の問いには答えず、黒竜は固まって動かなくなっている男の肩から、少女を下ろす。


「ケンカ売るならちゃんと相手見ないと……怪我じゃ済まないよ?」


 黒竜が言い終えた直後、男達が完全に動きを止めた。

 それを見た黒竜は深々と嘆息する。


「……やれやれ。詰まんない連中だな。こ~んな初歩的な幻術に引っ掛かるなんて」


 男達の周りをくるりと回り、


「……まぁ、魔力を持たない人間じゃあしょーがないか」


 黒竜がそう呟いた時だった。


「……う……ん……」


「ん?」


 少女が意識を取り戻したようだ。

 黒竜は少女の許へ歩み寄り、声を掛けた。


「気が付いた?」


「……ここドコ……? あなた誰?」


 目が覚めた少女は辺りを見回し、黒竜に質問してくる。

 黒竜は僅かに視線を上に向け、


「ここがドコかは知らない。俺は黒竜。あー……まぁその……通りすがりの旅人みたいなモンかな?」


「コク……リュウ? 変わった名前。アタシはサラ。ねぇ、どうしてこのおじさん達は動かないの?」


 目が覚めた途端、色々訊いてくる少女。

 黒竜はパタパタと手を振りながら、


「いーの、いーの。そいつらはほっとけば。そのうち術が解けるから」


 盗賊達を見上げていたサラは、不安げな表情を浮かべた。


「……なんだか……怖い……お家に帰りたい」


「…………」


 黒竜は少女を見やる。


(……来た道戻ってコイツらが出てきた道を辿る? いやでも……この娘を攫って真っ直ぐ来たとは限らないし――下手したら本格的な迷子に……)


 あれこれ考えを巡らせていた黒竜の腕をサラが掴む。


「おっ?」


「ねぇ、コクリュウ。私……村に帰りたい」


「うーん……帰してやりたいけど……」


 ぽりぽりと頬を掻く。

 じっとこちらを見詰める少女。

 黒竜は小さく息を漏らした。


「……取り敢えず、街道を歩けばどっか街に着くだろ。そっから村へ帰る道訊けば良いんじゃねぇかな」


「それで帰れる? お家に?」


 期待を込めた眼差しを向けるサラに、黒竜は曖昧に答える。


「まぁ……多分」


 恐らく村へ帰る事は出来ると思う。

 ただ、盗賊に襲われたのだとしたら、村が無事である保証は無い。

 それは口に出さず、黒竜は少女の手を引く。


「そうと決まれば、さっさと行こ。この森抜けて街までは送ってやるから」


「このおじさん達はいーの?」


「それはいーの。ほっといて」


 盗賊達の横を通り抜け、黒竜はサラの手を引きながら街道を歩き始めた。


     ◆◇◆◇◆


「…………」


 男は無言で()()を眺めた。

 ()()はピクリとも動かない。


(……幻術……か)


 男が眺めていたのは、手下の盗賊だった。

 彼らは石にでもなったかの様に一点を見据えたまま、固まっている。


「…………」


 男は意識を集中させ、魔力を解放した。

 瞬間、彼らを縛っていた魔力が砕け散り、全員が意識を取り戻す。


「あ……れ? 俺達……一体……」


「……確か……石にされて……」


「やっと目を覚ましたか。バカ者共が」


「――――っ! か……頭っ!?」


「何故ここに……」


 盗賊団の頭――レヴィンは、額に手を当てながら呻く。


「あんな小さな村ひとつ襲うのに何年掛ける気だ。お前らは」


「何年って……俺達がアジト出てまだ数日――……」


 レヴィンは、反論しかけた手下の男を睨み付け黙らせる。


「……まあいい。お前ら……ここで何をやっていた?」


「あー……いやその……アジトへ帰る途中だったんですよ。頂いたお宝と一緒に。帰る途中だったんですけど……」


「……けど?」


 促され、男達は視線を泳がせた。


「……けど……その……妙な力を持ったガキが……」


「ガキ?」


 レヴィンは眉を顰めた。

 男達はもごもごと呟く。


「そ……そのガキの頭をコイツが蹴り飛ばして、キレたガキが俺達を石に……」


「おっ……おい!」


 狼狽える男は無視して、レヴィンは口を開いた。


「お前らは石になんぞなっちゃいない。幻術を掛けられていただけだ」


「幻術?」


「じゃ……じゃあ、あれが幻だと……?」


 レヴィンは嘆息した。


「お前達の頭の悪さには呆れ果てる」


「…………」


 全員が項垂れる。

 その時、レヴィンがふっと笑った。


「……が。そのおかげで面白いモノが見付かった」


「……へっ?」


 レヴィンは落ちていた荷物を拾い上げ、


「お前ら、お宝は俺が捌いておいてやる。お前らはそのガキを見付けてアジトへ連れて来い」


「なっ……! お頭っ!?」


 レヴィンは踵を返す。


「一人でこれだけの人数をやれるんだ。少なくともお前らよりは見込みがあるだろうよ」


「まさか……そのガキを仲間に……?」


「さあな? それはガキの力を実際に見てから考える」


 レヴィンは歩きながら呟いた。


「本当に使えるなら……お前らは必要無くなるかもしれねぇがな?」


「!」


「そんな……頭っ!」


「お頭ぁっ!」


 レヴィンは肩越しに手を挙げる。


「ガキを見付けて、生かして連れて来い。命令だ」


 そう言い残し、レヴィンは森の奥に姿を消していった。


「…………」


「ど……どうするよ?」


「……どうするったって……」


 男達がざわつく中、一人の男が歩き出す。


「シオ」


 仲間が呼び掛ける。

 シオは背を向けたまま口を開いた。


「頭はガキを連れて来いと言ったんだ。探し出して連れて来るしかねぇだろ」


「だ……だけど……」


「ガキの足でさほど遠くに行けるとも思えねぇ……あの小娘も居ねぇ所をみると、あのガキと連れ立ってる可能性もある。なら、なおのこと遠くには行ってねぇだろ。近場の村や街を徹底的に探すぞ。時間が経てば経つ程探しにくくなる」


「…………」


 男達はそれぞれ顔を見合せ――そして、無言で頷いた。


     ◆◇◆◇◆


「……ねぇ、コクリュウ……」


「んあ?」


「疲れた。休も?」


「…………」


 歩き始めてから二時間程だろうか。

 サラは黒竜の手を引っ張り、


「喉も渇いた」


「……って言われても……」


 サラの言葉に黒竜は眉根を寄せた。


(……まぁ……人間の女の子だしな。しょーがないか……)


 ぽりぽりと頬を掻きながら、


「後少しで森を抜けられると思うから、もうちょっとだけ――……」


 頑張れと、黒竜がそう言おうとした時だった。


「!」


「どうしたの?」


「……静かに」


 黒竜はシッと人差し指を口元に当てた。


(幻術が解けたのか……まだ距離はあるけど……)


 こちらに近付いて来る気配がある。

 黒竜は、ちらとサラの方に視線を向けた。のんびり歩いていたのでは追い付かれてしまう。


(思ったより解けるのが早かったな……大した術じゃなかったけど)


「ねぇ? どうしたの? さっきから黙って……」


「どうやら……さっきのオッサン達がこっちに向かって来てるみたいだ」


「えっ!?」


 それを聞いた途端、サラの表情が強張る。


「……やだ。怖い」


 そう言って黒竜にしがみつく。

 自分にしがみ付いてくる少女を見て、黒竜は小さく息を吐いた。


「……俺も人間とやり合うつもりは無い。つまんないし」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ