表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い竜の物語  作者: 緋翠
12/63

認識 5

 

「おい! お前達!」


 少年らが途方に暮れていると、村の大人達がやって来た。


「あっ、父ちゃん!」


「ああ、良かった! みんな無事だったか」


 少年は、父親に縋るように駆け寄る。


「俺たちは大丈夫だけど、あの黒い兄ちゃんが閉じ込められちゃったんだ!」


「……なんだって?」


 言われて、洞窟を見やる。

 入口は完全に埋もれていた。


「……ここは脆い。下手に手を出せば、俺達まで埋まっちまう」


「じゃあ、どうすれば良いんだよ!?」


 少年の問いに、父親は苦い表情を浮かべる。

 他の大人達も複雑な顔をしていた。


「……彼は村の人間じゃない。余所者だ」


「そんな! このまま見捨てるのか!?」


 洞窟の入口へ駆け出そうとする少年を、父親はその腕を掴んで止めた。


「よせっ! あそこはもう崩れる! 近寄ったらお前まで生き埋めだ!」


「でも……っ!」


掴まれた腕を振り払おうともがく少年は、やがて力無く項垂れる。


「……兄ちゃんが……」


 少年はただ洞窟を見詰めていた。


     ◆◇◆◇◆


「……う~ん。どうしたモンかなぁ」


 完全に土砂に埋もれて、黒竜は座り込んだまま小さく呟いた。

 結界の中に居る為、その場所だけは無事なのだが身動きが取れない。

 結界の外では巨大ミミズが無意味な攻撃を繰り返している――が。まあ、それはどうでもいい。

 腕組み等しつつ、考える。


「はぁ……空間転移でさっさと出れば良かった」


 ぼんやりと目の前の光景を眺め、黒竜は呻く。

 今となってはそれも難しい。

 土砂を弾き飛ばすにしても、空間転移で脱出するにしても、一度は結界を解かねばならない。

 結界を解けば、当然――即座に埋まる。

 魔導器で結界を維持したとしても、結界の内側に居たのでは攻撃的な術は意味を成さない。


「う~……」


 と――

 あれこれ考えを巡らせる黒竜の脳裏に、閃くモノがある。


「…………」


 今までその事を忘れていた。

 こちらに来てから戻った事が少なかったせいで。

 黒竜は、自分の掌に視線を落とし――そして、ニヤリと笑う。


「お前ら……幸運に思えよ?」


 そう言って、立ち上がる。


 黒竜の周囲に黒い霧のようなモノが渦を巻く。


「こんなトコロで、俺様の本当の姿が拝めるんだからな♪」


 黒竜がそう言うと、結界が弱まり、洞窟は崩壊を始めた。


     ◆◇◆◇◆


 洞窟が本格的に崩れ始め、村人は子供達を下がらせる。


「危ないっ!」


「早くここを離れるぞ!」


「兄ちゃんっ!」


 子供達が叫ぶ。

 その時。

 ピシッ、と乾いた音を立てて、岩肌に亀裂が入る。

 轟音と振動――そして、大量の土砂を吹き上げ、洞窟が崩壊した。


「…………」


 子供達はその様子をただ無言で見詰めている。

 洞窟は跡形も無く崩れ去った。


「ああ……」


「……あの中に居たなら……助からない」


 崩れた洞窟を見ながら、低い声音で――それでも大人達はどこか安堵したように子供達の頭を撫でる。


「お前達だけでも無事で良かった」


「……彼には気の毒な事になったが――……」


 村人の一人が呟いた――その時だった。

 ふっ……と、突然辺りが暗くなる。


「……なんだ? 急に暗く……」


 その場に居た者全員が視線を上に向けると、


「なっ……あれは!?」


「ド……ドラゴン!?」


 その先に居たのは、巨大な竜だった。

 夜の闇をそのまま落とした様な漆黒の鱗と、巨大な翼。

 そして、燃える様な真紅の瞳――


「どうしてこんな所にドラゴンが!?」


「お前達! 森の中へ! 急げ!」


 大人達は慌てて、子供達を逃がそうとする。

 漆黒の巨竜は真っ直ぐこちらに向かって来た。

 そして、声が響く。


《だぁからぁ~……人間襲うつもりは無いって言ってんだろ~?》


「……えっ?」


 どこかで聞いた――軽い口調。

 全員が動きを止め、竜を見やる。


「……も、もしかして……」


「兄ちゃんっ!?」


《当たり♪》


 竜はゆっくりと舞い降りてきた。

 竜の足が地面に触れた瞬間――辺りは黒い霧に覆われる。


「な、なんだ!? これは!?」


 数秒後――霧が晴れ、そこには竜の代わりに黒髪の少年が立っていた。

 少年はびしと指を突き付け、言い放つ。


「そこのお前! 勝手に人の事を殺すんじゃない!」


「あ……ああ、スマン」


 呆然と立ち尽くす大人達をすり抜け、子供達が黒竜の許に駆け寄る。


「兄ちゃん! 無事だったんだ!」


「良かった! ぺちゃんこになっちゃったかと思ったのよ」


「はっはっはっ♪ あの程度の事でくたばるよーな俺様ではない!」


 少年らの頭をぐしぐし撫でて、


「まあでも、危ないからあんまりあーゆートコで遊んじゃダメだぞ」


「うん」


「わかった」


「よしよし♪ 良いコだ♪」


 素直に頷く子供達に、黒竜も満足げに頷いた。

 少年は黒竜の腕を掴み、


「なぁ、兄ちゃんっ!」


「ん?」


「さっきのもっかい見せて!」


「……さっきの?」


「だからドラゴンになってよ!」


「――ああ!」


 キラキラと瞳を輝かせる少年らに、黒竜はにっこり笑い、


「ヤダ。疲れるから」


「ええーっ! 良いじゃん! ちょっとだけーっ!」


 駄々をこねる少年に、黒竜は舌を出す。


「ダメ~。“こっち”は空気合わないから、あのナリだと息苦しいの」


「ちょっとだけ! ちょっとで良いから!」


「はいはい。お家帰ろーな♪」


 まったく聞く耳を持たない黒竜は、少年らの背中を押しやる。


「ヤーダーッ! 兄ちゃん、もっかいドラゴンになってよーっ!」


「良いじゃん、減るモンじゃないだろぉっ?」


「減るぞ。腹が」


「じゃあ、お菓子あげるからー」


「…………」


 村人達はぼんやりとそのやり取りを見詰めた。

 目の前にいる者が竜族だとは到底思えない。


「……あれが竜族……か」


 先程の姿は圧倒的な存在感だったが、人の形になってしまえば、その面影は綺麗さっぱり無くなる。

 自分達の知識にある竜とは、近寄り難い雰囲気があった。

 ――が、しかし。

 あの竜にはそれがない。

 彼の持つ雰囲気は、今まで自分達が抱いていた竜に対するイメージを根底から覆すモノだった。


「じゃあ、なんか出してよ」


「なんかって……」


「羽とか……あっ! 尻尾は? 尻尾!」


「私、角見たい!」


「やっぱり牙とか、爪も凄いんでしょ?」


「……あのな。この格好で、ンな中途半端に竜化したらカッコ悪いだろ?」


 子供達はいつの間にか黒竜を取り囲んでいる。


「取り敢えず、村戻ってからな。ここだとモンスターに出くわすかもしんないし。別に俺様にとっちゃ脅威でもなんでも無いけど」


「戻ったら? 戻ったら見せてくれる?」


「ちょっとだけだぞ」


「やったぁ~!」


「じゃあ、誰が一番先に村へ着くか競争だ!」


「……お前ら競争好きだな」


 一斉に走り出す子供達を見て、黒竜は半眼になって呻く。

 頭の後ろで手を組み、


「アンタらも、ぼさっとしてないで戻った方が良いんじゃねぇ?」


 と、背後にいる大人達に声を掛ける。


「あ……ああ」


 黒竜の言葉を聞いて、彼らも歩き出した。



 村へ着くと、子供達が黒竜の手を引く。


「やっと来た」


「遅いよ、兄ちゃん!」


「こー見えて、兄ちゃん疲れてんのよ」


 子供達に手を引かれ歩く黒竜の姿を見て、村人は不安げにしている。


「……大丈夫なのかしら……?」


「……竜族なんだろう? 子供達にもしもの事があったら……」


「大丈夫だろう」


「グレイグ!」


 突然聞こえて来た声に驚き、村人が振り返る。


「本当に村を滅ぼすつもりなら、あの雷で消されていただろうよ」


「……それは」


「それに……メアリも助けてくれたし、子供達も楽しそうだしな」


「…………」


 このところ、度重なる魔物の襲撃で、子供達は遊びに行く事も出来なかった。

 塞ぎ込んでいた子供達が見せる、久し振りの笑顔。


「……確かに……楽しそうだ」


「……ええ」


 子供達は、村の中央で竜を囲んでいた。


「俺が一番だったから、俺から!」


「はいはい」


「尻尾! 尻尾出して!」


「……尻尾……」


 黒竜は意識を集中させる。

 普段実用性の無い部分の変化は、それなりに神経を使う。

 暫くして、シュッと長い尾が生えた。


「おお~っ! 長ーっ!」


「真っ黒だ! 固いし」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ