表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い竜の物語  作者: 緋翠
11/63

認識 4

 

 それを聞いた村人は、ただ無言でこちらを見詰めていた。

 その時――


「?」


 くいくいと、黒竜の服を引っ張るモノがある。

 黒竜は視線をそちらに向けた。

 そこには子供が数人、こちらを見上げて固まっている。


「なんだ? お前ら」


「こっ……コラ! お前達!」


 村人が慌てた様子で声をあげる。

 黒竜はしゃがみ込んで、子供達に視線を合わせた。


「なんだ? なんか用か?」


 手前に居た少年に問い掛ける。


「兄ちゃん、竜族なんだろ?」


 少年の問いに、黒竜は頷く。


「おう」


「強い?」


「そりゃもう♪」


「ミミズ平気?」


「……ミミズ?」


 黒竜は、視線で村人に問う。

 すると、一人の村人が口を開く。


「こ……この村の近くには、巨大なミミズの巣がある。子供達がよく遊び場にしているんだが――……」


 黒竜は、ふむ……と唸って少年に向き直り、


「そのミミズがどうした?」


「そいつが俺たちの宝物持ってっちゃったんだ」


「…………」


 子供達はじぃっと黒竜に期待のこもった眼差しを向ける。

 黒竜は子供達から視線を逸らし、


「……よーするに、それを俺様に取り返して欲しいと?」


 子供達が頷く。

 全員で声を合わせ、


『お願いします!』


 と、頭を下げた。


「…………」


 黒竜はぽりぽりと頭を掻き、


「……ふぅ。どこ? そのミミズの巣」


 それを聞いて、少年達は、ぱあっと表情を明るくする。

 黒竜の手を引き、


「こっち! 案内するからついてきて!」


「ちょっ……お前達、待ちなさい! 森へ行って魔物に出くわしたら……」


 慌てて引き止めようと駆け出す村人に、黒竜は軽く手を振る。


「心配ねぇよ。この辺の雑魚がいくら集まって来ても俺様の敵じゃない♪」


「いや……っていうか、アンタが一番危ないから!」


「ガキをいたぶる趣味は無い。ちゃんと無傷で返してやるよ」


「…………」


 言葉を失い、子供達と黒竜を見送る村人は、一斉に呟く。


「……不安だ……」



 村のすぐそばにある森。

 黒竜は子供達に手を引かれながら歩く。

 村から離れるにつれて、邪気が濃くなるのを黒竜は感じていた。


「……まだ歩くのか?」


 まだ歩き始めて五分も経ってないが、黒竜は子供達に問い掛ける。


「もーちょっと」


「あんま遠くに行くのはオススメしないぞ」


「お兄ちゃん、もう疲れたの?」


「意外と体力無いなぁ」


「…………」


 それぞれが口を開き、黒竜はそれらを聞き流す。

 歩き始めて十分程経っただろうか。

 目の前に、ぽっかりと口を開けた洞窟のようなモノが見えた。


「あれか?」


 黒竜が訊くと、子供達は頷く。


「あの奥にでっかいミミズが居るんだ」


 取り敢えず、洞窟へと足を向ける。

 中は思ったより狭い。大人が一人、辛うじて立って歩ける程度か。

 荒く掘っただけの洞窟。

 黒竜の生み出した明かりを頼りに進んで行く。


「ん?」


 ふと、黒竜は視線を上に向ける。

 先程まで、ギリギリ立って歩ける程の高さしか無かった天井が、一部大きく抉れていたのだ。


「これは……」


「ミミズがやったんだ」


「……へ?」


 少年の声に黒竜は疑問符を浮かべる。

 と、その時。


「!」


 ヒュンッ! と何かが暗闇から飛び出してきた。

 黒竜は素早く下がると、背後に居る少年に訊ねた。


「……あれが……ミミズ?」


「うん」


 黒竜は、視線を少年からミミズへと移す。

 体長は五メートルはあるだろうか。

 洞窟の奥で蠢くそれを見て、黒竜はげんなりと呻いた。


「……気持ちわりぃ」


「ほら、兄ちゃん! 早くアイツから宝物取り返して!」


「……んーな事言ったってお前……」


 そうこうしている間に、ミミズが洞窟を深く抉る。

 それを見て、少年が後ろから無邪気に安易な提案をしてきた。


「さっき兄ちゃんがやったみたいに、『バリバリーッ!』ってやって、やっつければ良いじゃん」


「やっても良いけど……それすると、みんな生き埋めになっちゃうぞ」


 子供達を下がらせて、


「大体だ。お前ら、一体ここで何して遊んでんだ?」


 黒竜の問いに、少年らは元気に答える。


「誰があのミミズに一番近付けるか競争してるのっ!」


「一番近くに石を置いて来れたら、みんなからお菓子をひとつずつ貰えるんだっ!」


「……やめなさい。そんな事に命賭けるのは」


 黒竜は呆れたようにぼやく。

 あの一撃をマトモに喰らえば、小さい子供などひとたまりも無いだろう。


「やれやれ……」


 髪をかき上げ、右手をミミズに向けて掲げる。


「わぁっ! バリバリーッ! ってやるの!?」


 キラキラと瞳を輝かせる少年に、黒竜は苦笑しながら、


「やんないってば。こんな狭いトコで派手な術は使えん」


 そう言いつつ、正直自分でも面白くないと思う。

 この場所までは、ほぼ一直線。

 ならば、外から一発撃ち込めば事は済む。

 ただ、それでは子供達の宝とやらも一緒に埋まってしまう。

 突き出した掌から黒い光の球が生まれた。

 そして、それは真っ直ぐミミズの許へ向かい、一瞬で標的を包み込む。

 ゴンッ! と、鈍い音が響き――黒い光に包まれたミミズの体が収縮する。


「わぁっ! ミミズがくしゃくしゃになってく!」


 黒竜の後ろで、子供達が騒ぐ。

 黒竜は開いていた掌をゆっくりと握る。その動きに合わせて光は徐々に小さくなり――やがて、ぱんっ、と乾いた音が弾けて光と共にミミズは跡形も無く消滅した。


「――ふむ。まぁ、こんなモンか」


 黒竜は、こきこきと手首を鳴らし、


「ほら、お宝。取り返すんだろ?」


「あ。うん」


 暫しぽかんとしていた子供達は、先程までミミズの居た場所を探り――そして。


「あったーっ!」


 どうやら宝は見付かったようだ。

 が――


「……って、それは……」


 少年の掲げているモノを見て、黒竜は眉根を寄せる。彼が手に持っているのは、宝石のように赤く輝く石。

 ただそこには、強烈な魔力が込められていた。


「ちょっとそれ貸しな」


「あっ!」


 黒竜は少年の背後から、ヒョイと石を奪う。


「返せ! それは俺たちの宝物なんだ!」


「別に取る気は無いから」


 言って、黒竜はまじまじと石を見る。


(……コイツの魔力に、ここらの雑魚は引き寄せられてたのか)


 恐らく、村が魔物に襲われたのはこの石の影響に違いない。これをそのままにしておくと、村の外はそのうち魔物だらけになるだろう。

 こんな物をどこで見付けて来たのか知らないが、黒竜はこっそり石の魔力を打ち消すと、彼らの宝をその手に戻してやった。


「ほい」


 少年は石を受け取り、


「なんだよ。兄ちゃんも宝物欲しいのか?」


 こちらを見上げ、問い掛けてくる少年に黒竜はかぶりを振る。

 ぽんぽんと少年の頭を叩き、


「んにゃ。俺様は石コロに興味はない。そんなモンより、もっと興味を惹かれるモノがあるからな」


「なぁに? それ?」


「もっと大きくなったら教えてあげるよ♪」


 黒竜はにっこりと笑い、


「さてと。用事は済んだろ? 村に戻らないと、お父さんとお母さんが心配するぞ」


 と、外へ出ようと歩き出した――その時。

 不意に洞窟内が揺れる。


「なに……?」


「なんか揺れてる?」


「…………」


 黒竜は、先程ミミズの居た場所に視線を向けた。


「おい。チビ共……」


「何?」


 ちらと背後の少年らを見やり、黒竜は指先を洞窟の入口の方へ向ける。


「走れ。全力で」


「えっ?」


 不思議そうにこちらを見上げる少年に、黒竜は告げた。


「どうやら一匹だけじゃ無かったみたいだぞ」


 その言葉を待っていたかのように、地中から数十匹の巨大ミミズが姿を現す。


「わぁぁっ! ミミズだぁっ!」


 子供達は悲鳴を上げながら、バタバタと駆け出した。

 彼らを見送り、黒竜は溜め息をつく。


「……ったく。このクソ狭い場所にゾロゾロと……」


 巨大ミミズが一斉に体をうねらせ、黒竜に襲いかかる!

 ドドンッ!――

 激しい揺れと共に洞窟の一部が崩れた。



 洞窟の入口まで一気に駆け抜けた子供達は振り返り――叫ぶ。


「兄ちゃんっ!」


 自分達の通って来た通路は崩れた土砂に埋もれている。


「ど……どうしよう」


「兄ちゃん……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ