認識 4
それを聞いた村人は、ただ無言でこちらを見詰めていた。
その時――
「?」
くいくいと、黒竜の服を引っ張るモノがある。
黒竜は視線をそちらに向けた。
そこには子供が数人、こちらを見上げて固まっている。
「なんだ? お前ら」
「こっ……コラ! お前達!」
村人が慌てた様子で声をあげる。
黒竜はしゃがみ込んで、子供達に視線を合わせた。
「なんだ? なんか用か?」
手前に居た少年に問い掛ける。
「兄ちゃん、竜族なんだろ?」
少年の問いに、黒竜は頷く。
「おう」
「強い?」
「そりゃもう♪」
「ミミズ平気?」
「……ミミズ?」
黒竜は、視線で村人に問う。
すると、一人の村人が口を開く。
「こ……この村の近くには、巨大なミミズの巣がある。子供達がよく遊び場にしているんだが――……」
黒竜は、ふむ……と唸って少年に向き直り、
「そのミミズがどうした?」
「そいつが俺たちの宝物持ってっちゃったんだ」
「…………」
子供達はじぃっと黒竜に期待のこもった眼差しを向ける。
黒竜は子供達から視線を逸らし、
「……よーするに、それを俺様に取り返して欲しいと?」
子供達が頷く。
全員で声を合わせ、
『お願いします!』
と、頭を下げた。
「…………」
黒竜はぽりぽりと頭を掻き、
「……ふぅ。どこ? そのミミズの巣」
それを聞いて、少年達は、ぱあっと表情を明るくする。
黒竜の手を引き、
「こっち! 案内するからついてきて!」
「ちょっ……お前達、待ちなさい! 森へ行って魔物に出くわしたら……」
慌てて引き止めようと駆け出す村人に、黒竜は軽く手を振る。
「心配ねぇよ。この辺の雑魚がいくら集まって来ても俺様の敵じゃない♪」
「いや……っていうか、アンタが一番危ないから!」
「ガキをいたぶる趣味は無い。ちゃんと無傷で返してやるよ」
「…………」
言葉を失い、子供達と黒竜を見送る村人は、一斉に呟く。
「……不安だ……」
村のすぐそばにある森。
黒竜は子供達に手を引かれながら歩く。
村から離れるにつれて、邪気が濃くなるのを黒竜は感じていた。
「……まだ歩くのか?」
まだ歩き始めて五分も経ってないが、黒竜は子供達に問い掛ける。
「もーちょっと」
「あんま遠くに行くのはオススメしないぞ」
「お兄ちゃん、もう疲れたの?」
「意外と体力無いなぁ」
「…………」
それぞれが口を開き、黒竜はそれらを聞き流す。
歩き始めて十分程経っただろうか。
目の前に、ぽっかりと口を開けた洞窟のようなモノが見えた。
「あれか?」
黒竜が訊くと、子供達は頷く。
「あの奥にでっかいミミズが居るんだ」
取り敢えず、洞窟へと足を向ける。
中は思ったより狭い。大人が一人、辛うじて立って歩ける程度か。
荒く掘っただけの洞窟。
黒竜の生み出した明かりを頼りに進んで行く。
「ん?」
ふと、黒竜は視線を上に向ける。
先程まで、ギリギリ立って歩ける程の高さしか無かった天井が、一部大きく抉れていたのだ。
「これは……」
「ミミズがやったんだ」
「……へ?」
少年の声に黒竜は疑問符を浮かべる。
と、その時。
「!」
ヒュンッ! と何かが暗闇から飛び出してきた。
黒竜は素早く下がると、背後に居る少年に訊ねた。
「……あれが……ミミズ?」
「うん」
黒竜は、視線を少年からミミズへと移す。
体長は五メートルはあるだろうか。
洞窟の奥で蠢くそれを見て、黒竜はげんなりと呻いた。
「……気持ちわりぃ」
「ほら、兄ちゃん! 早くアイツから宝物取り返して!」
「……んーな事言ったってお前……」
そうこうしている間に、ミミズが洞窟を深く抉る。
それを見て、少年が後ろから無邪気に安易な提案をしてきた。
「さっき兄ちゃんがやったみたいに、『バリバリーッ!』ってやって、やっつければ良いじゃん」
「やっても良いけど……それすると、みんな生き埋めになっちゃうぞ」
子供達を下がらせて、
「大体だ。お前ら、一体ここで何して遊んでんだ?」
黒竜の問いに、少年らは元気に答える。
「誰があのミミズに一番近付けるか競争してるのっ!」
「一番近くに石を置いて来れたら、みんなからお菓子をひとつずつ貰えるんだっ!」
「……やめなさい。そんな事に命賭けるのは」
黒竜は呆れたようにぼやく。
あの一撃をマトモに喰らえば、小さい子供などひとたまりも無いだろう。
「やれやれ……」
髪をかき上げ、右手をミミズに向けて掲げる。
「わぁっ! バリバリーッ! ってやるの!?」
キラキラと瞳を輝かせる少年に、黒竜は苦笑しながら、
「やんないってば。こんな狭いトコで派手な術は使えん」
そう言いつつ、正直自分でも面白くないと思う。
この場所までは、ほぼ一直線。
ならば、外から一発撃ち込めば事は済む。
ただ、それでは子供達の宝とやらも一緒に埋まってしまう。
突き出した掌から黒い光の球が生まれた。
そして、それは真っ直ぐミミズの許へ向かい、一瞬で標的を包み込む。
ゴンッ! と、鈍い音が響き――黒い光に包まれたミミズの体が収縮する。
「わぁっ! ミミズがくしゃくしゃになってく!」
黒竜の後ろで、子供達が騒ぐ。
黒竜は開いていた掌をゆっくりと握る。その動きに合わせて光は徐々に小さくなり――やがて、ぱんっ、と乾いた音が弾けて光と共にミミズは跡形も無く消滅した。
「――ふむ。まぁ、こんなモンか」
黒竜は、こきこきと手首を鳴らし、
「ほら、お宝。取り返すんだろ?」
「あ。うん」
暫しぽかんとしていた子供達は、先程までミミズの居た場所を探り――そして。
「あったーっ!」
どうやら宝は見付かったようだ。
が――
「……って、それは……」
少年の掲げているモノを見て、黒竜は眉根を寄せる。彼が手に持っているのは、宝石のように赤く輝く石。
ただそこには、強烈な魔力が込められていた。
「ちょっとそれ貸しな」
「あっ!」
黒竜は少年の背後から、ヒョイと石を奪う。
「返せ! それは俺たちの宝物なんだ!」
「別に取る気は無いから」
言って、黒竜はまじまじと石を見る。
(……コイツの魔力に、ここらの雑魚は引き寄せられてたのか)
恐らく、村が魔物に襲われたのはこの石の影響に違いない。これをそのままにしておくと、村の外はそのうち魔物だらけになるだろう。
こんな物をどこで見付けて来たのか知らないが、黒竜はこっそり石の魔力を打ち消すと、彼らの宝をその手に戻してやった。
「ほい」
少年は石を受け取り、
「なんだよ。兄ちゃんも宝物欲しいのか?」
こちらを見上げ、問い掛けてくる少年に黒竜はかぶりを振る。
ぽんぽんと少年の頭を叩き、
「んにゃ。俺様は石コロに興味はない。そんなモンより、もっと興味を惹かれるモノがあるからな」
「なぁに? それ?」
「もっと大きくなったら教えてあげるよ♪」
黒竜はにっこりと笑い、
「さてと。用事は済んだろ? 村に戻らないと、お父さんとお母さんが心配するぞ」
と、外へ出ようと歩き出した――その時。
不意に洞窟内が揺れる。
「なに……?」
「なんか揺れてる?」
「…………」
黒竜は、先程ミミズの居た場所に視線を向けた。
「おい。チビ共……」
「何?」
ちらと背後の少年らを見やり、黒竜は指先を洞窟の入口の方へ向ける。
「走れ。全力で」
「えっ?」
不思議そうにこちらを見上げる少年に、黒竜は告げた。
「どうやら一匹だけじゃ無かったみたいだぞ」
その言葉を待っていたかのように、地中から数十匹の巨大ミミズが姿を現す。
「わぁぁっ! ミミズだぁっ!」
子供達は悲鳴を上げながら、バタバタと駆け出した。
彼らを見送り、黒竜は溜め息をつく。
「……ったく。このクソ狭い場所にゾロゾロと……」
巨大ミミズが一斉に体をうねらせ、黒竜に襲いかかる!
ドドンッ!――
激しい揺れと共に洞窟の一部が崩れた。
洞窟の入口まで一気に駆け抜けた子供達は振り返り――叫ぶ。
「兄ちゃんっ!」
自分達の通って来た通路は崩れた土砂に埋もれている。
「ど……どうしよう」
「兄ちゃん……」




